ソロソロ

亜未田久志

ソロソロ行くかね


 俺はソロキャンパーのレイジ!

 今日も今日とてソロキャンライフ!

 いいねー独りの時間は……実に良い。

 そんな俺のもう一つの趣味はオンラインゲーム。

 スマホ片手にやるのがオツなのだ。

 パーティゲームをあえてソロでやるのだ。

 リアルでもソロ、バーチャルでもソロ。

 良いねぇ。実に良い。

 俺が焚き火に当たりながらスマホをいじっていると、ふとチャットが入って来た。ゲーム内で誰だ一体……俺のソロライフを邪魔するやつは?

 そこには一言「起きてください」の文字。

 起きてください? どういう意味だ?

 自分はしっかり起きて朝はホットサンドを食べて、昼には自分で作ったカレーを食った。今は夕方までのんびりオンラインゲーム中だ。そのオンラインゲームの中でも俺はしっかりと行動している。今なんか攻略難易度最高位とかいう奴のソロ討伐に挑戦中だ。どうだすごいだろう。謎のチャット相手にそう自慢したくなるが、お生憎様、こちとら荒らしに構うほど暇じゃない。

 俺は無視して野風に当たりながら、オンラインゲームに浸った。


「ハァァァァア!!」

「ギャオオオオ!!」

 俺は怪物に一太刀浴びせる、切り裂かれた身体からは9999のダメージが叩き出される。

 だがまだ足りない。

「開け、我が神の眼、その無垢なる瞳は全てを飲み込む。プロヴィデンス!」

 目のマークでターゲッティングされる大型の獣、呪文を唱えたレイジ。天から光が降り注ぎ、9999のダメージの乱舞を巻き起こす。

「そろそろ仕舞いだ!」

 剣で虚空を切り裂く、するとそこに真空が生まれ、大型獣を吸い込んでいく。その吸い込みの最中にも9999ダメージの乱舞は続く。

「真・無空斬り!」

 真空空間に吸い込まれた大型獣が、さらに切り裂かれる。今度は真っ二つだ。ダメージの桁は――


 999999ダメージ。


 ノックアウトだった。

 完璧に倒した。そう思った時だった。

 ピコン! と音が鳴る。

 溜め息を吐いてチャット欄を開くレイジ。

「起きてください」

「またこれか……ようやく難易度最高位を倒したところなのに喜びの余韻にも浸らせてくれないのか……」

 この攻略動画でもって小銭を稼ぐ算段だったのが台無しだ。

 編集とか色々大変なのに、モチベを削ってくれちゃって。

 しょーがないから返事を返す。


「お前は誰だ?」


 俺は誰だ?

 レイジってのは俺が書いてる小説の主人公の名前だ。

 じゃない。俺は……そうだ、錬太郎。煤木錬太郎すすのきれんたろうだ。なんでこんな大事な事を忘れていた?

 此処はどこだ?

 俺は何をしている?

「……て」

 何? 何だって?

「お……て……」

 お? よく聞こえない。もっと大きな声で言ってくれ。


「起きて下さい! 催眠シミュレーションは一時間までです! 何時間いるつもりですか! しかもなんですか! キャンプとゲームの二重構造なんて! 現実でやって下さいそんな事!」

「……そんな事とはなんだ金払ってる相手に向かって……確かに時間を超過したのは悪いと思うが……」

「大体、こういうゲームはファンタジーやSFに憧れて子供たちがやるゲームなんです! 使

 きっぱりと言われてしまった。なんて店員だ。

 催眠シミュレーション。最近流行りの架空現実ダイブ型アトラクションだ。

 俺はそこで80歳過ぎてから叶えたかった夢、キャンプとオンラインゲームの覇者ってヤツになりたくて入店した。

 だけどこいつはお一人様は1時間限りなんだと。世知辛い世の中だぜ。


 ソロソロ帰るかね。

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