七不思議なんて嫌い

亜未田久志

怪談怖い


 俺は怪談が嫌いだ。

 どうしてかって? あんな非現実的なもの信じる方が馬鹿馬鹿しい。

 柳の下の幽霊、トイレの花子さん、真夜中に動く二宮金次郎像、音楽室の目が動くベートーヴェン。

 ……例が学校に偏ってるな。俺が教師をしているせいか。

 俺の名は林田オサム、まあ何の変哲もない名前だ。

 俺が通うB学校には、七不思議がある。

 トイレの花子さんもそうだし、二宮金次郎像もベートーヴェンもそうだ。

 あと四つは、踊り場の鑑、手鏡なそを持って写し鑑にすると自分が死ぬ時の顔が見えるそうだ。

 残り三つ、グラウンドの白線、それが一人でに、またも夜中にだ。動き出しては、呪いの言葉「たすけて」だとか「殺して」だとか刻むのだという。

 ふん、あんな石灰の粉にそんな力あるものか。

 残り二つ、またも校庭の端にある謎のオブジェ、なんのためにあるのかも分からない芸術品は、呪いのアイテムなのだという。それに願いを頼めば、何かと代償に叶えてくれるのだという。

 その代償とは、身近な人の命だとか、そういうモノらしい。

 そして最後、知ったら終わり、知ってはいけない。禁断の七つ目。

 でも俺は、その正体を知っている。

 何故かって? それはまた後で話そう。


 私は廊下をひた走る。

 まさか、そんな。

 信じたくなかった。私はただ肝試しに来ただけなのに。

 夏休み、潜り込んだ学校、グループで入り込んだ。

 私、石田アユミは、平凡な一年生で上級生には逆らえなくて。

 その中学に入る事になった。B学校、私達の学び舎。

 でもトイレの花子さんもいなかったし。

 二宮金次郎像はいくら待っても動かなかった。

 いたずらに時間だけが過ぎていく。

 ベートーヴェンの目も動かなかった。

 どんどんと時間が過ぎていく。

 階段の踊り場の鑑は写し鑑にしても暗くて、懐中電灯を点けると今度は逆にその眩しさで顔など見れなかった。

 グラウンドの白線も暗くてよく見えない。

 屋上から懐中電灯で照らそうものなら宿直の先生に見つかってしまう。

 謎のオブジェに願い事をする勇気は無かった。

 何人かは「五千兆円欲しい!」だとか馬鹿な事を言っていたが。

 叶うはずもない。それで誰かが死んだらバカみたいだ。

 私達は解散する事になるはずだった。

 だけど、誰かが言ったのだ。

「ねぇ、私達で七番目の七不思議の正体暴いちゃおうよ! きっと学校の中にあるって!」

 まるで雲を掴むような話だった。

 だけどなぜか皆賛成した。私以外。

 私は戸惑いながら、各自分かれて、七不思議とやらを探す、どこにあるのかも、どんな形をしているのかも、一体なんなのかも分からないそれを。


 しばらく探してもう深夜だ。

 するとどうだ? 誰かの吐息が聞こえる。他の部活メンバーかと思った。

 思わず、その教室を扉に付いた小窓から覗き込む、もうだいぶ夜にも目が慣れて来た。

 そこに有ったのは――

「はぁはぁ……美しい、実に良い……!」

 血まみれの生徒、私達の仲間に擦りつく教師の姿だった。

「ひっ!?」

 思わず声が出た。

 信じたくなかった。これが七不思議の正体? いや違うこれじゃただの殺人事件だ。

 でも最近、行方不明になる同じ学校の生徒の噂を聞いた事がある。

 まさか、じゃあ。

 教師、林田先生がこちらを見やる。

「みぃつけた」

 私は逃げ出した。


 そうさ、俺が最後の七不思議の正体。

 死神、人の死を美しいと思う殺人鬼、正体を知った者は皆殺す。

 そんなの人間をだなんて失礼な話だ。

 だから俺は怪談が嫌いなんだ。

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