直観探偵

亜未田久志

感じ取った!


 こいつが、犯人だと俺の意識がそう告げている。


 とある事件現場、俺は探偵の明智光男、明智光秀だか明智小五郎だか知らないが、とにかく俺は名前に恥じない名探偵で名武将だ。

 そんな中、俺はとある殺人現場にたどり着く事になる。

 そうそれは血生臭い香りの現場だった。どうやら俺が一番乗りのようだ。

 まずは警察に通報、これ基本。

 そして勝手に実況見分、これ違法。

 どうやら被害者の女性は心臓を一刺しにされたらしい。

 そこから血が溢れ出している。

 まだ死んで間もない。まだ犯人は近くに居る。

 物置きの戸を開ける。

「ひぃ!?」

 ビンゴだ。男が隠れていた。気弱そうな男だ。人殺しには見えなかった。

「お前がやったのか?」

 俺の直観は違うと告げている。

「ち、違う! 俺はここに住んでいて! それで、あいつらが勝手に上がり込んで来て!」

「あいつら?」

「そうだ! 若い男と女の二人組だ! そいつらが勝手に俺の家で口論を――ひぃ!?」

 そこでようやく女性の遺体に目がいったのだろう。男が悲鳴を上げる。だが俺の直観はそこには注目していない。

「お前、嘘ついてるな? そいつらと、この女性と知り合いだろ?」

「し、知らない! その女は知らない!」

「男の方は知ってるんだな?」

「……ああ、俺のルームメイトだ。気の合わない奴で、いつも女を連れ込む、いつも違う女だ」

「それで? 今日はどうした?」

「だから家に入るなり口論を始めたから、俺は物置きに逃げて――」

「それで?」

「知らねぇよ! 女の悲鳴が聞こえたと思ったら、人が倒れる音がして、それで」

「お前はガクガク震えてたってわけだ。その男の名前と行先に手がかりを教えてくれ」

「な、なんで」

「これでも探偵でね、事件解決の役に立つと報酬が貰えるシステムになってる」

 勿論、嘘だ。そんなシステムはない。

「……織田英雄、行先は多分、A大学」

「ありがとう、警察が来たら同じ話をしてやってくれ」

「……わかった」

 俺はその場を後にした。


 A大学に着く。

 あまり大きくはない。受付があった。

「織田英雄という学生を探している」

「織田英雄は学生ではなく教授ですが?」

「おっと失礼、連絡ミスのようだ。織田教授を探している」

「織田教授でしたら午後の講義に――」

「ありがとう行ってみる」

「あの、あなたのお名前は?」

「明智光男、では」


 講義の一覧を見やる。織田教授の文字を見つけ、すぐさまその講義に潜り込む、大学生という歳ではないが、まあ結構、若作りな方だ。バレないだろう。

「えー、であるからして、織田信長は――」

 どうやら歴史の教授らしい。そこで俺は気づく、服の裾、赤茶色の染みを見つけた。

「ビンゴ」

 俺はそう呟いた。


 講義の終わり、生徒達が外へ出て行く、織田教授は片付けをしている。

「教授、伺いたい事が」

 俺は前へ出た。

「なにかね、君はどうやら生徒ではないらしいが?」

「いえ、ちょっと事件の話を」

「!? どこでそれを……」

「やはりな、織田教授、ご同行願おうか、この直観探偵、明智の下にね」

「噂の直観探偵とは君の事だったのか……しかしどうしてここを?」

「ルームメイトに聞いた」

「ルームメイト? 誰だそれは」

 ――おっと?


 いやいや、まさか物置きに隠れているのがバレるとは直観探偵恐るべしだな。

 だがしかし、俺が泥棒だって事までは分からなかったらしい。

 しめしめだ。このままトンズラするぜ、この豊臣秀太はな!

 直観泥棒、豊臣秀太、悪人から金を盗る義賊である。

 直観でこいつは悪事を働きそうだと決めつけるが大抵そいつが事件を起こす。

 のちに徳川警部と因縁を持つのだがそれはまた別のお話。

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直観探偵 亜未田久志 @abky-6102

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