ディメンションランナー
亜未田久志
ザ・スピード
俺は時空超越型人造人間13番、通称「ランナー」
俺は走る、光のような速度で。時を超え空間を超え、何もかも超越する。
走れ、走れ、走れ、走れ、走れ、走れ、走れ、走れ――!!
そうしてようやく俺はたどり着いた。
『極地』に。
「ここが極地……何もない」
「そんな事ないよランナー君」
「誰だ!?」
「僕もランナーさ、でも紛らわしいからランナー
ダッシュは自分がランナーの平行同位体だという事を告げた。
「俺より先にたどり着いていたのか……俺が一着、ゴールじゃなかったのか……」
落胆するランナー、しかし、ダッシュはポンと肩に手を置く。
「まだここはゴールじゃないよランナー君。ここは四次元空間のスタート地点だ」
「スタート地点?」
首を傾げるランナー。ダッシュは深く頷き。
「そうとも、この四次元空間は果てしなく広い、そして次の中継地点である五次元はもっと遠い」
「まだ次があるのか!」
何故か喜ぶランナー、この男にとって走るという超越的行為は娯楽の一つでしかないらしい。
「そうとも、僕達はいつまででも走り続けられる。行こうよ、どこまでも先へ」
「ああ!」
二人は走り出した。
四次元空間は不思議なところだった。何も無いように見えていた景色が一変する。映し出される情景。それは――
「俺の過去?」
走馬灯、という言葉をご存じだろうか。影絵が回転しながら写るように細工された灯篭の一種だ。これにも走るの文字が使われている。
さながら、その影絵のように、ランナーという男の過去が映し出されていく。
とある研究施設。
「これが実験体13番ですか」
女の声。
「ああ、唯一の成功体だ。これで我々人類は人の身を持って、次元を超越する事が出来るようになる」
男の声。
「どうやって」
「走るのさ、どこまでもどこまでも」
「人の身では加速度が足りないのでは?」
「13番なら、十分足りうるさ」
「そうですか」
「さあ実験に移ろう、アクセラレイターを起動してくれ」
「了解、アクセラレイター起動します」
俺は、その時から走り出した。
無機質な実験室の中をひたすらに駆け回った。円形の機械の中をひたすらにぐるぐるとぐるぐると。
いつしか外に出たくなった。
「13番脱走! 繰り返す! 13番脱走! 非常事態シークエンスに移行!」
うるさいアナウンスが鳴り響く、迷路のような研究所から抜け出して俺は草原へと駆け出した。
そこからは砂漠にもいったし、氷原にも行った。
深海にも潜ったし、天空も駆けた。人間には不可能だが時空超越型人造人間の俺なら出来た。
そうだ、月面にも行ったなあ。宇宙空間でも活躍出来るのが強みだ。
そう宇宙を駆けているうちにその果てが見たくなったんだった。
その時、走馬灯が切り替わる。
それは過去ではない。未来の映像が映し出される。
「ダッシュ! 嫌だ! ダッシュ! こんな所でお別れなんて!」
「しょうがないよ、まさか
「ダッシュ! 俺はお前ともっと走りたかった!」
血だらけのダッシュを抱きかかえる俺がいた。
どうやらこれからの未来、ダッシュは次元食いなる怪物に襲われるらしい。
「これが未来? どうするダッシュ?」
俺は問いかけた。ダッシュは己の死を見てどう思うのか。
「いこうよ、行けるとこまで。行きなよ、君が行けるところまで」
俺の背中を押すダッシュ。
「……そうだな」
未来は分からない。この走馬灯が決まったものとは限らない。
そうさ、走り続けよう。
どこまでも次元を超えて。
ディメンションランナー 亜未田久志 @abky-6102
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