外には獣がいる

亜未田久志

ホームタイムパーティー


 おうちの中は楽しい!

 だっておもちゃもゲームも本もいっぱいある!

 お外は怖い。獣がいっぱいる。


 私が引きこもるようになったのは十代の頃からだった。

「お前くせーんだよ!」

 そう言われて、学校に行けなくなった。

 そして家族からの理解も得て、時折、散歩に出かけるようなだけの日々が始まった。

 しかし、散歩の途中でそれは起きた。

 急な坂道、誰かが私の背中を押したのだ。

 私は地面を転がった。

 勢いよく小石のように跳ねながら。

 止まる頃には車道に出ていた、運よく止まった車の運転手が救急車を呼んでくれた。私は救急搬送された。

 全身打撲に、頸椎損傷による下肢の麻痺が起きた。

 私は車いす生活を余技なくされた。

「もう外には出たくない」

 心の底からの言葉だった。

 両親もそれを受け入れ、私の介護にあたってくれた。

 しかし、そんな日も長くは続かない。

 交通事故だった。

 トラックの運転手をしていた父が死んだ。

 元々、裕福な家庭ではなかった。

 父が残してくれた貯金を使い減らし、生活保護を受ける事になった。

 私はより外に出るのが怖くなった。

 ある日、昔居た数少ない友人から手紙が届いた。

『元気してる? お父さんの話聞いたよ。大変だったね。わたし、アンナが学校辞めちゃった時からずっと後悔してた。どうして助けてあげられなかったんだろうって。だから決めたの。わたし。アンナを助ける』

 アンナとは私の事だ。館林アンナ。似合わない名前だと思う、もっとかっこいい女性に付ける名前だこれは。

 私はだらしなく伸ばした長い髪を触りながら一人ごちる。

「助けるってどうやって……?」

 しかし、その日はやって来た。

「おっまたせー!」

「リョウコ……ホントに来たの?」

 母はパートでいない。インターホンを鳴らされ何かと思って扉を開いてみたら、そこには畠中リョウコ、私の数少ない友人の姿があった。

「へへーん、今日はこれをやろう!」

 それは最新型のゲーム機だった。二台ある。

「私、ゲームなんてやった事ない」

「ヘーキヘーキ、わたしもやった事ないから!」

 じゃあどうして持って来たと言いたい所を我慢した。

 ゲーム機だって安くないだろうに、それを二台も買ってくるなんて豪胆さに呆れかえったからだ。

「じゃあ始めよっか」

「……うん」

 ポチポチピコピコ。ゲームは進んでいく。対戦アクションゲームだった、アイテムを取れば有利になったりする。たくさんキャラがいすぎて最初は選べなかった。

「せっかくだから私はこの赤いのを選ぶぜ!」

「えー、私もそれ使いたい」

「同じキャラ使えるよ?」

「あ、ホントだ。でも色変わっちゃう……」

「おっと赤だけは譲れねぇなぁ」

「なにその口調」

 笑い合った。楽しかった。

 家でさえ絶望に打ちひしがれていた私の心は確かに救われていた。

 友人と、ゲーム機に。

 他愛のない話をしながら、私達はゲームに熱中していく。

「ああ、くそう! また負けた! アンナ強いね!」

「そうかな……そうかも」

「いーすぽーつぷれいやー? ってやつなれるよ!」

「なにそれ」

 私は家の中でだが、やっと心の底から笑う事が出来た。、


 おうちの中は楽しい!

 だっておもちゃもゲームも本もいっぱいある!

 お外は怖い。獣がいっぱいる。

 でも家の中に今、友達がいるよ。

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