第4話

「あー!!!!痒い。やってられるか!」

 神崎ひかげは鼻血をだらだら流しながら叫んだ。

「何でいつもこんな事にまきこまれなきゃいけないんだ!終わらせてやる。」

 神崎ひかげは未だに身体が火照っていた。股も疼く。クリトリスがショーツに擦れる感覚は、まるで男性が自身のそれが擦れるかのように敏感になっていた。

 ひかげは、スキットルを取り出して酒を飲み始めた。掟破りの追酒ツインブースト。人間相手に使用するには、余りにも危険な限界酔拳の奥義。それを、神崎ひかげは解禁した。

 折原は、酒を煽る神崎ひかげの姿に圧倒され動けずにいた。戦いの最中に酒を煽る馬鹿は映画の中だけの話。事前に聞かされていた限界酔拳についても聞き流していた。

 神崎ひかげは、酒を飲み干すとスキットルを投げ捨てた。そして、折原にも感じ取れるほどの酒気を帯びる。

 シュッ、と風を切る音がした。折原は本能でそれを交わした。神崎ひかげの、見よう見まねで放ったジャブであった。

 形もあったものじゃないそれは、折原のステロイドで強化された動体視力を持ってしても、捉える事ができない速度を出していた。

 冷や汗が頬を伝う。折原は拳を握り締めた。戦いは殴り合いに持ち込まれた。

 神崎ひかげは、ジャブ、ストレート、左フックを放つも全て空を切る。

 身を屈めて交わした折原は、ボディフックを放ち距離をとる。ベタ足の神崎ひかげは折原を追うことは出来なかった。

 折原は、ジャブを打つ。神崎ひかげは構わず右ストレートを放った。ダッキングで交わした折原は、全力の右フックをひかげのこめかみへと埋め込んだ。

 神崎ひかげの視界は揺れていた。折原の打撃で揺らされたのか、それともアルコールのせいなのか。また、確実にダメージは蓄積されていた。鼻血と何度かもらったボディで呼吸が乱れる。それでも、神崎ひかげは、闇雲に殴り続けた。

 全力の右フックでも手を止めない神崎ひかげに、折原は焦りを感じていた。手には確かな手応えは伝わっきた。しかし、神崎ひかげは動き続ける。不安が沸き起こる。それに抗うように殴り続けた。


 一方的に殴り続けた折原は、距離をとった。

「どうした…掛かってこいよ。」

 神崎ひかげはそう言い放つ。それでも折原は向かっていかなかった。

「来ないなら、こっちから行くぞ!」

 神崎ひかげはジャブを放つ。ついで、右ストレート。誰もが思い浮かべるボクシングの基本。それを折原は待っていた。

 神崎ひかげの放った右ストレートに左フックを合わせる。何度も練習し身体に染み込んだ拳の名はクロスカウンター。幼き日に、梶原に挑み届かなかったその拳は、神崎ひかげのこめかみに埋まる。

「ようやく…捕ま、えた。」

 神崎ひかげは、右ストレートを放った拳を開けて折原を掴む。そこから神崎ひかげに抵抗する手段を折原は持っていなかった。

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