第2話
街外れのバーで男と女が飲んでいた。
男の名前は、梶原竜二。秘密結社『青蜥蜴』の幹部の席を汚す者。
女の名前は、神崎かげり。一部では伝説となっている、神崎に名を連ねる者。
暴力の世界の住人である2人は、ある人物について語っていた。
「次は、ディック・マンを当てる。」
梶原はグラスに入ったウイスキーを嘗めながら、かげりに告げる。
「こりもせず、また神崎ひかげに人間をぶつけるのかよ。まだ、充治の方が利口だな。」
かげりは日本酒をジョッキに注ぎながら答えた。
「俺はな、神崎に勝てる人間を見てみたいんだよ。組織の意向なんてどうでも良い。」
「勝つだけなら人間でもできるぞ。油断しているところにミサイルでもお見舞いしてやれば、な。」
「やるなら、タイマンだ。それが浪漫ってもんだろうが。お前ならわかるだろう。」
「かってにどうぞ。どうせ、今回も失敗するよ。人間に神崎は倒せない。」
かげりは新しい酒をジョッキに注ぐ。足下には、空の一升瓶達が無造作に置かれていた。
******
「おじさん、久しぶり。」
神崎ひかげはスキンヘッドの男に声をかけた。この男は、かつて藤原とひかげが沖縄で世話になった酒屋のおじさんである。
「実はね、こっちにお店屋を出すことになったんだ。されで、タマちゃんとひかげちゃんにも挨拶しようと思って。」
「お店屋っていうと、お酒屋さん?」
「そうだよ。その場で呑めるお酒屋。珍しいお酒も沢山置いてあるよ。」
ひかげはそれを聞いて目を輝かせた。彼女は無類の酒好きである。酒と聞いて、その場で治まるような女ではない。
「そのお店屋ってまだ開いていないんですか?」
「まだ、開店していないけど。ひかげちゃんなら特別だよ。今からお店屋に来る?」
「ぜひお願いします!」
ひかげはスキンヘッドの男についていった。
「凄い。ウイスキーにスコッチ。大吟醸に焼酎。中国酒に東南アジアのお酒まで。待って、これ何!?私の知らないお酒がある!」
神崎ひかげは店に着くなり酒を見回した。まるで、遊園地に来た子供のようにはしゃぐ。
「これはどうかな。最近見つけた幻の酒。オットセイ酒。原液はアルコール度数90%!!一口呑めばどんな酒豪も酔い潰れる一品だよ。まあ、普通は割って楽しむけどね。」
「…アルコール度数90%」
神崎ひかげは、うっとりとした表情になる。
「これ、呑んでみてもいいですか?」
ひかげは恐る恐る尋ねた。
「良いよ!ひかげちゃんを招いてお酒を呑ませないなんて野暮なことはしないよ。」
店主はその酒をグラスに注ぎ、神崎ひかげに差し出した。
「凄く美味しい。本当に一杯で酔えるなんて。」
「一口だけどね、普通は…」
一気に飲み干したひかげに店主は圧倒されていた。
「店長、もう一杯!」
神崎ひかげは酒を呑み続けた。それが、青蜥蜴の罠だとは気がつかずに。
「て~ん~ちょ~う。わたしは、まだまだ、のめるよ~。」
「呑みすぎだって。今、迎えを呼ぶから。」
神崎ひかげは身体が火照っているのを感じていた。いつもよりずっと身体が熱い。
「折原さん。良かった。この子を休める所に連れていってよ。」
スキンヘッドの店主は、店に入ってきた男に頼んだ。
「だ~れ~ですか?この良い男。」
「折原さん。こう見えても警察官だから安心して。」
店主は折原と呼ばれた男にひかげを預けた。
「大丈夫ですか?とりあえず、送っていきますよ。」
折原はひかげを車に乗せて店を離れた。
神崎ひかげは、道中も身体の火照りは治まることがなく、運転する男に意識がいく。
「大丈夫ですか?今、休める所へ連れて行きますからね。」
折原は、車を止めてひかげをエスコートする。目の前の建物は、神崎ひかげの記憶にはない見知らぬものであった。
「折原さん。こんなところに連れ込んで何をするつもりなのかしら。」
建物の一室に入った神崎ひかげはそう告げた。何も無い部屋。広さはスポーツジム程度はあった。
「何って、良いことですよ。神崎さん。」
折原は、その手にグローブをはめる。指が出せるオープンフィンガーグローブと呼ばれる物を。
「あ~、ちょっとは期待したんだけどな。やっぱり、こういう事になっちゃうんだね。」
神崎ひかげの火照りは治まらない。それどころか股が妙に疼く。そこから納まりきらない液体が、彼女のショーツを濡らしていた。
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