神崎ひかげVSディック・マン
あきかん
第1話
その男にとって、絶望は白い色をしていた。
新聞記者が家に押し掛けてくる。ドアを開けたその時、カメラのフラッシュが少年だった彼に浴びせられた。
カメラの閃光の中、眩い白一色の世界へと変えられたその中で、彼は自身の父親を恨む。
連続殺人事件の犯人として捕まった彼の父親。その取材のために押し掛ける記者ども。穢れを洗い流すかのように、残された彼と家族を嫌がらせする住人や同級生。その全てを彼は憎んだ。
彼の家族は引き裂かれた。世間の風は彼をなぶり、膝が折れた。ゴミが散乱した路地裏で倒れ込む。頭が重く、視界がゆらいだ。もうこの先希望はないのだと彼は思った。もうこのまま倒れていたかった。
殴られて腫れた顔に、通りを抜ける風が突き刺さる。潰れかけた両目のまぶたの傷がまだ真新しく熱をもっていて、目を開くことも、閉じることも苦痛だった。
細い笛のような風の音に混じり、革靴の音がした。濁った視界には茶色い靴の先しか見えない。そしてそれさえも、金属のように重いまぶたに阻まれようとしていた。
「助けて欲しいのか。」
彼を嘲るような声がした。ぶっ殺してやる、と彼は思った。
「立つこともできないのか。」
彼は壁に寄りかかりながらも立ち上がる。両膝は震え、今にも倒れそうに見えた。
「…ぶっ…殺し…て、…やるよ。」
彼は両拳をあげる。
「良い目だ。1度、死ね。」
男は彼の顔面に拳をねじ込んだ。彼の視界は白く濁る。それでも彼は己の拳を前に出していた。男の腕の外側を通った彼の拳は、男のこめかみに触れるも、そこで力尽きた。
「面白いな、こいつ。」
男は彼を背負い運んでいった。
現在、彼はディック・マンと呼ばれている。白い絶望は、今なお彼の心を焦がし続けている。
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