47 Q:S【契約決闘 vs. 王国騎士ゲイリー】
>Quest Suddenly
受付嬢の決死の懇願に一旦空気は冷めたものの、訓練場に場所を移すと騎士の方は怒気を隠そうともしない。
お返しと言っては何だが、騒動を見ていた冒険者たちがぞろぞろと観戦にやって来て、何故かよく知らないはずの俺たち側に付いて野次を飛ばしている。
ゲイリーというらしい偉そうな長髪騎士はオウルのリーダーである俺に決闘を申し込んだつもりだったようだが、カツゾウが応えたことで余計に苛立ったのかカツゾウとの契約決闘に応じた。
「このような
その華奢な女子との決闘に嬉々として応じておいてどの口が言うのやら。
「これからその華奢な女子に完膚なきまでにぶちのめされて、その女子より彼の方が強いと知って絶望するだけの凡骨如きには、私たちの目指す高みは見えもしないということです」
カツゾウは平然と煽り返すと後ろの冒険者連中が湧きに湧く。
口調こそ丁寧だが、いつもながら内心ではブチギレだろう。騎士の方はカツゾウの煽りにさらに顔を歪めた。
【契約決闘】コマンドを互いに承認した二人は向かい合う。
騎士は大剣を構え殺気を放つ。
一方カツゾウは武器を装備せず、しかし体術の構えにしてはおかしな両手を前面腰高に浮かせた前傾姿勢を取る。
丸腰のカツゾウに周囲がざわつくが、この場にいる者で恐らく俺にだけ分かる、あの構えから繰り出されるであろう初手。
カツゾウは舐めプをしている。
だがこの場で観戦者はおろか向き合った騎士当人でさえ、恐らくその構えが舐めプであると気付いてすらいない。騎士の方は武器を構えないこと自体には
騎士の彼は大変なことになるだろうが、それくらいの劇薬が
と、カツゾウが不自然な姿勢のまま武器を装備しないのに怪訝な顔をしていた騎士の副官らしい女性が、それを変える気はないと察してか合図を取る。
「始め!」
と、声がかかるや否や、カツゾウに向かってまぁまぁのスピードで疾駆した騎士の眉間にはいつの間にか矢が刺さっていた。
戦闘における「脳の損傷」はほとんど致命傷となる。
急所特攻によるそれなりのダメージはあるものの、頭を吹き飛ばしたりでもしない限り大抵の場合HPが一撃で削り切られるほどのダメージが入る訳ではない。「脳が損傷した」と判定された場合、強制かつ恒久的なスタンを食らうからだ。
このスタンを解くには、味方に回復魔法を使ってもらうか、自身がパッシブスキルや装備の付与など何らかの自動回復手段を持っていてそれが一定量発動するのを待つしかない。
今まさに脳天を打ち抜かれた騎士の場合、外からの回復は望めず、自動回復手段を持っていたとしてもスタンが解けるまでの隙をカツゾウは見過ごさない。よって初手の弓が既に決定打となっている。
一方、射られた騎士の方は全力で駆けているはずが突如何かが飛来したと思ったら体の自由が利かなくなり、無様にも前のめりに転げそうになりながら尚、自身に何が起きているのか分かってなかった。
今まさに騎士との間合いを詰めようと迫るカツゾウの手に既に弓はなく、腰のあたりに地面と水平に構えられた剣が目に入るだけだ。
カツゾウは始まりの合図と共に弓を取り出し、精密狙撃の【弓子】を放つや否や装備を剣に持ち替えて中剣参【川蝉】と氷丁参【氷柱撃】を溜めている。
前のめりに転げようとする騎士の顔面目掛けて放たれたのは複合魔剣術【一角氷柱】……それなりの威力とスピード感に加え貫通効果があり有用なスキルだ。
溜め無しでは身体に拳大の穴を穿つくらいだが、カツゾウは弓子以降瞬時にしっかり溜めに入り、迫る騎士の顔面目掛けてそれを思いっ切り放った。
つまりどうなるかというと、少女の体躯程もある氷柱が中空を突き、一瞬前までそこにあった騎士の頭が消し飛んだ。
倒れ、残った首から下をビクビクと痙攣させる騎士を見て、観客は誰一人として声を上げることができなかった。
先程までは傲慢な騎士の態度に業を煮やした冒険者からの野次がそれなりに飛んでおり、その対象の筆頭格がこてんぱんにやられたとあれば歓喜の声が上がってもおかしくない場面である。
今回は相手がカツゾウなのが悪かった。
実力のある者はカツゾウの繰り出した技巧に目を奪われ、野次馬はその華奢なガワから繰り出された苛烈過ぎる攻めに戦慄していた。
「……っ、そこまで!」
と、同じくその惨事に呆気に取られていた副官風の女性が止めをかける。
さすがに騎士をデュラハン状態で放置するのは……と思ったが、止めがかかるなりカツゾウは回復魔法を使い、騎士の頭部を復元させた。
何が何やら分からないうちに圧倒されたであろう騎士は、それでも一度頭を弾けさせているからか顔色を悪くしたまま身体を起こし、いくらかストレスが発散できたらしく
「ありがとうございました」
カツゾウは礼儀正しく頭を下げた。
あれは彼女の本心……マナー観からくる本意気の礼だ。だがこの場に居る多くの者の目には、あの惨事の後での礼儀正しさは
それは騎士側が特に顕著だったようで、カツゾウの礼に皆顔を青くしていた。
「まだやりますか?」
そんな騎士たちに向けて、恐らくこの一戦でそれなりに鬱憤が晴れたカツゾウは何の感情も含まない口調で問うた。
騎士たちはあのような惨事は堪ったものではないと思ってか各々顔を見合わせて戸惑うが
「……私も、手合わせ願いたい」
先ほどの決闘の合図を取っていた副官らしき女性が続けて立候補する。
顔色の悪さからは怯えが伺える。恐らくカツゾウとの実力差も分かっているが、それでも決闘を申し出る彼女の心情を
「森さん、俺が」
そうとだけ言うと、カツゾウは一瞬驚いた顔をしたものの、敢えて前面に出ようとする俺の意図を汲んでか、場を譲ってくれた。
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