45 Q:S【拠点購入:マルト】
>Quest : Suddenly
その後、第一次
細かく集計していなかったので気にしていなかったが、どうもダンジョン関連の素材やドロップアイテムの買取相場がNSV時代のそれよりも遥かに高価なようで、丙3D二周分の報酬だけでもマルトではそこそこの豪邸が買えるらしかった。この世界のダンジョン攻略への姿勢を見るに、NSVほど供給が安定していないということだろうか。豪邸は魅力的だが、マルトでは一先ずは腰掛けとしての物件探しをすることにした。
「ここにしましょう」
「はい」
特に悩むことなく希望の規模と作業場併設という用途を伝え並べられた資料をさっと見渡したカツゾウがさっさと一枚取り出したものに決まった。
じっくり見ずとも、NSVでの経験を基に凡そ拠点としてほしいスペックはカツゾウも共有できているので、特に異論はない。
「名義と費用は半々でいいですか?」
「いいです」
もはやテキパキ進めてくれるカツゾウに同意するだけのイエスマシーンに成り果てた。
話はとんとん拍子に進み、その場で現金決済、鍵を受け取り、晴れて拠点を入手することができた。
まさかまさかのリアルマイホーム。これは心が躍る。
さて、奴隷を所望した兄妹についてだが、一先ずは奴隷にはせず使用人として雇用し、拠点の共同所有者である俺とカツゾウ二人が後見することにした。
親切なことに不動産屋の担当者がアレコレ教えてくれて、役場での手続きもさっさと済ますことができた。
これを以って二人の対外的な身元の証明が可能となり、闇奴隷商から狙われにくくなることだろう。
そんな兄妹には今後『オウル』専属鍛冶師としての修練を申し付けた。
丁度鍛冶要員が欲しかった中で、ステータス的に鍛冶実務に強い剣士と付与に強い魔導士というまさにカモネギだった。
「鍛冶ですか……」
二人はさすがに未経験の分野に放り出されることに戸惑ってはいたが。
「ランクアップに必要な経験値は私たちが稼ぎます。私たちも鍛冶について分かることは極力教えます。ついでに、たまにはダンジョンに繰り出して最低限自衛できるだけの戦闘スキルも叩き込みます。いいですか?」
相変わらず淡々と告げるカツゾウに
「「はい」」
二人は背筋を伸ばしてそう答えるしかなかった。
………
あっという間にアレコレ決まった後、高アジリティぶりを発揮するカツゾウと何が何やら分からないままとりあえず連れていかれる俺と兄妹というような構図で最低限の家具や日用品の買い回り、昼食を摂ってから帰宅。兄妹には一先ず今日残り半日で新居の掃除と点検、簡易的な補修をお願いした。不動産屋の伝手で住宅補修に明るい人手も融通してもらったので、後は任せておけば大丈夫だろう。
ということで俺とカツゾウは早速丙3Dに再来し周回を始めた。
昨日まではゲスト招待だった兄妹を今日からはパーティーメンバーとして正式に登録したので、同行していなくても経験値按分が可能となる。蜂の巣駆除の縁が一石何鳥になることやら……まぁ何にしても、俺たちは俺たちでテキパキと周回するだけだ。
今日は昼ということもあり出現する魔物は比較的易し目だったので強敵討伐ルートでサクサク周回。内数回では強敵との戦闘を縛りでじっくり楽しみ、満足したので高速周回とついでに宝探しに没頭。結局夕方までに六周こなすことができた。
「
「ん~……今からか~……」
この世界に来てから非公式チュートリアルでのレベリングと熟練に加え、カツゾウと組んでからの快進撃で一応全盛期の四分の一程度のステータスにまで仕上げることができた。NSV基準では駆け出しの中級者くらいのステータスではあるが、正直乙等級を攻略するには数値上は心許ない。俺とカツゾウだけなら技術押しで行ける自信はあるが、にしても現状ではこれまでの比じゃなく気を張る作業であることは間違いない。
今日は午前中に思わぬ用事で時間を食ったこともあり、今から挑戦するとなれば確実に日を跨ぎそうで若干の気怠さがある。
ダンジョンの等級は高い順に甲・乙・丙・丁の四段階が設定されている。
丁は入門者用、丙はこなれた人向け。では乙は中級者向けと単純にはいかないのがNSVの意地の悪いところだ。
乙等級はただ探索するだけならともかく、攻略まで視野に入れると特別区画である甲特区以外の通常マップにおいても随所に甲等級と遜色ない何らかの障害が必ず待ち受けている。最寄りの乙等級である乙3Dに関しては、実のところ乙等級の中では難関な方である。
ちなみに甲等級の難易度は一般的に言うと「死」そのものだ。
それこそ数値上はステータスカンストのキャラでも容易に死に得る要素が多分に盛り込まれているため、数値上の強さだけではなく個人としての技術が仕上がっており、同水準の仲間がいることが攻略の絶対条件となる。この世界の冒険者の練度を考えると、近寄ることすら憚れるものだろう。
だがスタンピードや地獄系イベントで甲等級からも溢出が始まった時には、誰かが立ち向かわなければとんでもない規模の大災害になることは間違いない。そもそも甲等級の中には開通している間は常に
数で立ち向かってどうにかなる問題ではないが、いずれに備えまともに抗える頭数をそれなりに揃える必要がある。ルイーゼでは種を蒔いてはきたが、とてもじゃないが安心できる練度ではない。
結局、俺たちだけが急いだところで攻略には程遠いな。
「今日は一旦帰ろうか。二人ともよく話しておきたいし」
「そうですね。新居を買った晩に帰らないと心配されそうですし」
カツゾウの同意が得られたので、その日は若干の不完全燃焼感を残しながらも帰投することにした。
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