38 Q:T-T2D【忘れ去られし地底遺跡】
「「お疲れ様でした~」」
NSVのクセで最早作業終わりの合言葉のようになっている定型文で朗らかに労い合うが、マリスとメリサは依然木陰から震えながらこちらを見ている。
「二人も経験値そこそこ入ったんじゃない?」
と、雰囲気を打破しようと告げてみるが、各々ステータスを確認すると先ほどに増して目を見開いた。
「そんな……一気にレベルが8も……!」
パーティー討伐の際は、実際の討伐数と討伐時の補助エフェクトボーナスを除き、標準設定では総合経験値が均等按分されることになっている。今回は実際に討伐したのが俺とカツゾウなので当然こちらが多めに入っているが、全く戦闘していない二人にもそれなりの経験値が流れている。
「こんな……私たち何もしてないのに……」
メリサの方がステータスとこちらで視線を泳がせながら
「あ、ごめん。余計なお世話だったかな?」
「と、とんでもないです!有難いんですけど……何が何だか……」
「今までロクに討伐もこなしたことがなくて……」
やはり。
そんな彼らとて冒険者として稼がざるを得ない境遇を思うと頭が痛い。他にも居るだろう子供の困窮冒険者との食い扶持の奪い合いを推定すると、恐らくFランクの採集依頼だけでは日銭稼ぎにも心許ない上、マルト近辺では採集だけしようとしても出くわす魔物がルイーゼよりも強力なのでより危険を伴う。
今回の件は本来、当人の経験や地力に繋がりにくくお節介も
「レベルが上がってステータスやスキルの幅は広がっただろうから、これで今までより安全に冒険できるはずだよ」
「でも、急にステータスが上がったからって無茶をしたら痛い目見ますよ」
俺が背中を押し、カツゾウが釘を刺すと二人は目を輝かせながらコクコクと頷いた。
「とりあえず二人だけ先にマルトまで送る?」
「行ったり来たりで面倒くさいですね」
「そうだよなぁ……二人が居ても
「行っちゃいましょうよ」
二人が落ち着いたと見るや、カツゾウはさっさと
………
>Quest : Tutorial -丁 2 Dungeon
丁等級第二ダンジョン『ローセント鉱山道』
鉱山跡地に発生したダンジョンで、主に地属性の魔物が出現する。
ダンジョンお勉強編である三つの丁等級の内、魔物の出現割合が高い
また、今回は挑戦しないが、丁2Dには丁等級でありながら特殊なクエストで解放される甲等級の区画、通称『甲特区』なるものが存在する。甲等級以外のいくつかのダンジョンに甲特区は存在するが、いずれもなかなか美味しいエリアなので、いずれは挑戦したい。
「鉱山ですか……こんなところ初めて来ました……」
マリスとメリサはここがダンジョンだとは気付いていない様子だ。魔物ですらロクに討伐していないなら、ダンジョン独特の雰囲気にもピンと来ないのだろう。
騙しているようで申し訳ない気分になったが、まぁ今は進もう。
出現する魔物自体は丁等級だけあって強力ではないが、地属性の魔物は大体の魔物が鈍いがほぼ例外なく固い。戦闘訓練には丁度いいので、ある程度サポートしつつマリスとメリサにも戦闘に参加してもらった。やはり二人とも実戦経験に乏しいのか、ただ攻撃するだけの場面でも戸惑いが見られた。
とは言え蜂の巣駆除で俺とカツゾウの戦いぶりを見ていたからか怯えはあるがこちらの補助を信頼して懸命に励んでくれた。
魔物を討伐する度に喜びはしゃぐマリスとメリサを見ていると何だか微笑ましい気分になってきてしまい、ニマニマと緩んだ顔をカツゾウに笑われてしまった。
罠の方は矢や落石、落とし穴と言った典型的なスイッチ系の他、宝箱に見せかけた毒噴射や宝箱を囮にした魔物部屋など多種多様だった。
スイッチ系は一見して見つけにくいものが多いが、NSV同様全て目視で判別可能な何かしらの変化があり、攻略時には目を凝らして観察し周到に見破るのが基本となる。また、ダンジョンは帰り道で罠の存在を放念しひっかかる人が後を絶たないため、罠を忘れず見逃さずの精神をみっちり教え込んだ。
宝箱系の罠は高位のミミックでなければ一定レベルの鑑定スキルがあれば見抜ける。二人は採集で身に着けた鑑定スキルを用い難なく回避する術を覚えた。魔物部屋は戦闘経験に乏しい二人では索敵が
階層を進む内にロックリザードや様々な形状のゴーレムなどの比較的強力な魔物が出現し始めたら、駆け出し二人には遠間からの補助に回ってもらい、俺とカツゾウがそれぞれ討伐に当たった。
「Cランクの人たちって、日々こんな凄まじい戦闘をこなしてるんですね……」
メリサはマリスとほとんど体格の変わらないカツゾウの凄まじい攻めを見て遠い目をしている。
「あのお姉さんは滅茶苦茶強いからね。Cランクの普通は多分あそこまでじゃないよ」
「何か言いました~??」
言っていると、岩石でできたゴーレムを難なく殴り倒したカツゾウが戻って来る。
「森さんが強すぎるって話だよ」
「このお兄さんは私より数十倍は強いんですよ」
確かに対戦成績では俺が勝ち越しているが、数十倍はいくらなんでも言い過ぎだろう。
と思ったところで、その差異は兄妹にとってはどうでも良く「ほぉ~~~~」とただ目を輝かせているだけだった。
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