37 小技【蜂の巣に虎】

 早速駆け出し風の冒険者マリスとメリサを伴い、地方都市マルトの北西にある森に向かった。


 「二人は何で冒険者を志すことに?」


 今の俺もカツゾウも見た目は実年齢より若くはあるが、そんな俺たちよりも幼く見える兄妹がわざわざ危険を伴う冒険者を志した理由が気になった。


 「……身寄りがないので」


 兄の方、マリスがうつむき加減にそう答えた。


 何となしに聞いてみたが、もしかすると彼らのように身寄りのない子供たちが冒険者になる他なく、日々命の危険に晒されることもざらにあるのかもしれない。

 

 例えば今のように……


 「あれはもうとっくに完成してますよね」


 「変異種飛んでるし……相当放置された依頼なんだろうな~」


 ギルドに着くなりもたらされた「フォレストワスプの調査」依頼。関連依頼の中では最もランクの低い調となっていたが、ギルマスをして注目するという有力な冒険者が来るなり指名で寄越されるという割に合わない不自然さもあり警戒はしていた。

 ところが森に入ると、初期調査にしてはあり得ない頻度でフォレストワスプの単体と所々で出くわす。半殺しにしてわざと逃がした蜂を追ってみれば、巣は完成どころか拡張まで進んで巨大化している。つまりその時点で依頼のランクはC~B。恐らく巣の内部には上位種が複数潜んでいる。今回は変異種が複数、巣の外に視認できるのでBは確定。


 俺やカツゾウなどお手軽対処法を知る元プレイヤーにとってはフォレストワスプというだけでランクの程度に関わらずただの作業なのだが、蓋を開けてみればやはり厄介事だった。


 「あれ片付けて帰るから、とりあえず経験値按分するために二人はゲストでパーティー参加してもらおうかな」


 言って、二人の登録証宛てにパーティー『オウル』への一時参加招待を送る。ここでもゲーム的なシステムは生きていたようだ。

 二人は応じてはくれたものの不安なようで


 「あの……もしかしてアレを討伐するつもりですか?」


 「もちろん。二人は今までにフォレストワスプの討伐経験は?」


 兄妹揃って思いっ切り首を横に振る。高く伸びた樹の中腹ほどにある直径15mはありそうな巨大な巣と、その周りを飛び回る巨大な蜂にすっかり萎縮しているようだ。


 「二人のジョブは……剣士と魔導士だったよね」


 「はい……でもまだEランクなので……」


 二人とも一応攻撃手段はあるようだが、もし見てくれの通り討伐経験に乏しいならスピードのあるワスプ種の大群を無傷で捌くのは厳しいだろう。

 俺やカツゾウはNSVのシナリオ観があるので、そもそも中継地点……マルトのようなそこそこの規模の地方都市にここまでコテコテの駆け出しが居ること自体違和感しかないが、この世界ではどの都市でも彼らのような訳アリの駆け出しが存在するのかもしれない。そう考えるとゲームとして無邪気に楽しんでいた世界が一変世知辛せちがらく思える。


 「今回は見ててもらいましょうか」


 「そうするかぁ……」


 二人がそれなりに戦えるなら数匹漏らして戦ってもらってもいいのだが、どうせ按分割合はこちらで決められるので、今回はカツゾウと二人で対処しきった方が安全そうだ。


 「その辺の木陰で距離取って見ててね~」


 言いながらフォレストワスプの巣めがけて弓術【寅ノ型トラ】に雷丙肆【爆雷】を載せて放つ。

 放たれた複合魔弓術【虎吼爆雷ここばくらい】は、着弾地点に範囲雷撃を炸裂させた。大群相手で距離がある内に群れに穴を開けたり、洞窟内での押し戻しが主な用途だが、蜂の巣駆除の初手定番「蜂の巣に虎」とも言われるこの魔弓術の肝は一定範囲に高確率で【帯電】【麻痺】の状態異常をもたらすことだ。


 つまり蜂の巣に打ち込まれたらどうなるか


 ボタボタボタ……と次々にフォレストワスプの死骸、そしていずれかの状態異常でスタンを食らった上位種や変異種が落ちてくる。死骸は無視し、まずはスタンで落ちてくる蜂たちにトドメを刺す。帯電中の敵には雷属性特攻が付くので、スピードに優れた雷丁複合魔剣術がおあつらえ向きだ。


 雷丁参【瞬雷】で雷属性添加とスピード向上のバフを掛け、硬直が短く取り回しやすい単発剣術【一閃】と【矛角】、若干遠間に落ちた個体は【飛燕】や【双飛斬】で斬り込む。

 雷をまとった剣術でバチバチバサバサと蜂を葬る俺とカツゾウを駆け出し兄妹は木陰から戦々恐々と見ている。

 次第に巣の襲撃者に気付いたスタンを食らわなかった蜂たちが押し寄せるが、初剣炎丁の複合魔剣術で近付くなり焼き切る。この程度のランクの虫魔物は初剣炎丁でもワンパン必至。フォレストワスプもグレーター級も麻痺変異パラライズ猛毒変異ヴェノムも全て一太刀に葬る。

 と、ノンストップで捌き続けること数分。既に数百の蜂を葬り、いよいよほとんどの個体を打倒したところで、巣から一際ひときわ巨大な蜂が三匹飛来する。

 生きた巣には必ず一匹いるクイーン級と、クイーンの側付きであるアーク級が二匹。

 さて、ここからはお遊びだ。


 その気になれば飛来する今この瞬間にも飛燕で軽々倒せるのだが、敢えてやり合うのはアーク級以上が使う一定レベルの刺突系スキルを捌きたいからだ。

 マッドキングボアーで闘牛ならぬ闘猪ごっこをしたのと同様、今回は闘蜂ごっこで攻撃動線解析スキル【刺突予測】の習得を試みる。


 ちょっといい剣くらいはあるご自慢の毒針で刺しに来る蜂を立て続けに躱し捌く。この程度の魔物ならわざわざ刺突予測を習得せずとも感覚で躱せるが、行く行くはほとんど意識外の間合いと角度からいきなり刺突が来る場面もあり、できれば習得しておきたいスキルだ。


 と、俺とカツゾウそれぞれがマリスとメリサにタゲが逸れないよう管理しつつ刺突攻撃を何度か対処し続け


 「習得完了~」


 「こちらも終わりました」


 ほぼ同時にスキルクエストを修了、それぞれ魔剣術 初剣壱炎丁弐複合【炎閃】と中剣弐炎丁弐複合【焔鳶双爪えんえんそうそう】で三匹を葬る。

 恐らく巣の中には幼虫もうじゃうじゃ居ただろうが、初撃の【虎吼爆雷】で確殺済み。後は一応討伐証明と素材用して巣を持ち帰るべく、樹との接着部分に飛燕を放って地面に落とす。これにて討伐完了っと。





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