39 Q:T-T2D-F【地底遺跡の門番を討て】

>Quest : Tutorial -丁 2 Dungeon - Final



 ――丁2Dローセント鉱山道を進むことしばらく

 ついにボス部屋の巨大な鉄扉前まで辿り着いた。


 丁2Dではボス部屋解放クエストとして、各階層に無数に出現するゴーレムの内特殊な色付きの魔石を核に持つ鍵持ち個体を討伐し、扉の鍵となる色付き魔石を一式取り揃えておく必要がある。

 丁等級なので設定甘めで、鍵持ちの出現タイミングも出現スポットもいくつか候補が固定されており、そこで重点的に狩りをこなすことで手間取らずに回収できた。

 回収した魔石を扉の石板に嵌めこむと重厚な扉が自動で動き出す。


 「こういう装置、ダンジョンにはよくあるって聞きますけど、普通にフィールドにもあるんですね~」


 駆け出しの妹 メリサが感心しながらそう口にする。


 「はは、まぁフィールドも色々あるしね」


 嘘は言っていない。実際ギミック系は主にダンジョンにあるが、フィールドでも不意に見かけることはある。

 兄妹はまだここがダンジョン内だと気付いていないようだが、ゴゴゴと重苦しい音を立てて開いていく鉄扉を見て何か感じたのか、カツゾウの後ろで身構えている。


 「今からちょっと強めの魔物と戦うけど、二人は危なくないようにお姉さんの後ろに隠れててね」


 言って俺は前線に出る。

 事前にじゃんけんで「どちらがボスをヤるか」は決めている。今回は俺がボス討伐役に就いた。……無論、後でカツゾウ主導でのもう一周を確約されているが。


 重苦しい鉄扉が開ききった先はシンプルなドーム状の区画、その中心にある魔法陣が突如光を放つと、魔法陣上に巨大な岩の塊が形成されていき、体長30mはありそうな蜘蛛を模したゴーレムに変形した。

 丁2Dのボスは不定形アークゴーレム、通称『ゴーレムガチャ』だ。アーク級のゴーレムが確定だが、形状が毎回ランダムで変わる仕様となっている。いずれの形状でも基本的に行動パターンが一定かつ緩慢なので、デカさと硬さ以外にビビる要素はない。

 兄妹はそんなイカツさにしっかりてられたようで顔を青くしている。


 何はともあれ討伐だ。

 蜘蛛型の基本的な攻撃は地属性魔法と踏みつけである。特にメインの攻撃手段である投石系の魔法は躱すか砕くか。後方に飛んだものはカツゾウが処理してくれるので、安心して接近できる。

 踏みつけの方は予備動作が読みやすいので余程油断していない限りは余裕で躱せる。そういえばNSV時代は踏みつけを食らっても即死ダメージではなかったが、この重量の岩に生身で踏みつけられたらどうなるのか……考えたくないのでいずれにしても食らわないようにしよう。


 ゴーレムガチャもゆくゆくはワンパン必至だが、初期の討伐セオリー……つまり正攻法は数通りある。蜘蛛の場合は脚を全部砕いて本体を袋叩きにするか、本体に乗り上げてひたすら背中を攻撃するか、踏みつけパリィでひっくり返すか。……今回は【丙】の魔法を活かしたいので安全策で行くか。


 早速魔法を準備し攻勢に出る。


 まずは地属性に有利な水属性添加のバフ魔法 水丙弐【水衣】を展開すると、装備に纏わりつくように水の衣が形成される。

 今の火力なら持続時間中に削り切れると思うがどうか……早速不規則に地団駄を踏みながら投石魔法を打ち出してくるので躱して接近する。


 接近しつつ気功術【纏気】と【剛気】で立て続けに身体能力にさらなるバフを掛けつつ魔法 水丙参【渦波牢】発動する。


 ドルンッ


 と、突如巨大なゴーレムの足に纏わりつくように水の渦が出現する。水属性の拘束魔法である渦波牢は対象の動きを封じるだけでなく、有利属性である地の魔物に対しては付帯属性【浸】が追加され発動中は常に微ダメージが入る。今回はゴーレムの脚をぐ作戦なので一石二鳥。

 すぐさま水丁肆【水刃】を装備した剣に纏わせ、身動きの取れなくなったゴーレムを中心に円を描くように全速力で駆けつつ、振るうのは横向き全方位に回転しながら斬り込む初剣肆【旋風】。

 NSVではそのアクションから「バレエ」だとか「ベーゴマ」だとか揶揄やゆされていた初剣肆水丁肆 複合魔剣術【渦鋸斬うずのこぎり】で水の刃を幾重にも重ね回転しながら斬り付ける。今回は中央にそびえるゴーレムの周りをギャリギャリと脚を削りながら回っているのでまんまベーゴマの方だろう。

 有利属性のバフ+魔剣術、当然補助エフェクト百発百中で削りまくり、重厚に見えた八本足は芯を抜かれたジェ〇ガの如く崩壊していき……


 ドーン


 と、数瞬後には背景に却って大仰な効果音が浮かんでいそうな具合で、蜘蛛ゴーレムの胴体が大人しく鎮座していた。


 「よいしょ~!」


 元々感情など見えないゴーレムではあるが、脚を失い挙動が止んだことで完全に虚無の石塊と化したそれを、水丙肆【大水弾】を複合した体術【鯨穿げいせん】で真正面から打ち砕いた。

 いやぁ、気持ちいい。道中カツゾウがゴーレム討伐を頑なに体術でこなしていた気持ちが分かる。硬い魔物は殴り砕いてこそ気持ちいい。


 ともあれこれで丁2Dの攻略完了。一周で素材もそこそこ採れたので蜂のついでに請けてきた依頼も消化できた。


 カツゾウはベーゴマ削りがツボにハマったのかニヤニヤしていて、その後ろでは兄妹が目を輝かせながら拍手をしていた。



 ………



 ボスゴーレムのドロップを回収し、さっさと核座に向かうと


 「これは何ですか!?」


 メリサが煌々と輝く巨大なダンジョン核を見て驚きの声を上げる。


 「これはダンジョン核と言って、ダンジョン攻略者のみ触れることが許される……何だろう、ボーナスみたいなものだよ」


 言いながら触れて見せると、ダンジョン攻略ボーナスとして経験値やスキルポイント、アイテムなどが次々と授与される。


 「ダンジョン……核、ですか」


 聞くなり、目を輝かせていた兄妹はそのまま固まって、


 「…………も、も、もしかしてここ、ダンジョンの中……?」


 「そうだよ。中っていうか、さっき倒したのがボスで、ここはもう出口だけどね」


 満を持してのネタバレだが、言いかけている内に二人は腰を抜かしてしまった。


 「二人ともさっきまで、ダンジョンの魔物と普通に戦ってたんですよ」


 カツゾウは苦笑しながら二人をなだめる。


 丁2Dは丁等級だけあって、全くの戦闘未経験でもなければ通常パーティー構成で難なく攻略可能な難易度に設定されている。

 二人は昨日までならさておき、現時点では闇雲に振舞わなければ個々のレベルとして攻略は難しくない。が、それはそうとして心意気は別の話である。

 二人にとって、ダンジョンという遥か先に見据えていた目標地点に期せずして入り込んでいたことへの恐怖が勝ったようだ。「そうは言われても……」と言いたげな顔で不安そうにこちらを見ている。


 「ほら……何だっけ、旅は道連れってね」


 言ってはみるが二人は到底噛み砕く余裕が無さそうで、というか場面的に適切なのか、そもそも日本のことわざが通じるのか……とにかくワナワナと落ち着かない様子だったので、とりあえず転移魔法陣でダンジョン入り口まで転移した。


 俺とカツゾウはサクッともう一周するため、二人には怖かったら安全な入り口地点で待っているよう告げたところ、揃って渋面した後「置いていかれる方が怖い」と結局もう一周同行することになった。

 当初は恐怖からくる粗こそあったものの、当然蜂の分に加え既に一周分の按分経験値と実戦経験があるので、進む内に二人は何だかんだしっかり戦闘に参加し、最後は人型で現れたボスゴーレムを素手でボコり散らしたカツゾウの方に戦慄していた。





※ ※ ※


ダンジョンボスなのに「門番」とは?

実は丁2Dの本体は甲特区の部分であり、最終高難易度ダンジョン群の攻略に欠かせない●●●の攻略に繋がる手がかりがここにあります。


※ ※ ※


いつもお読みいただきありがとうございます。

面白い!ここが気になる!というようなご意見ご感想

レビュー、ブクマ、応援、コメント等とても励みになります!どうぞお気軽にお願いします。


※ ※ ※

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る