閑1ー勝1 勝蔵長可、燃える
――その日、勝蔵長可こと森 千尋は人生最大の「やらなかった後悔」を味わった。
………
心血を注いでトップランカーとして活躍してきたMMORPGのトップタイトル『NSV』
それが今日を以って幕を下ろす。
最初は現実逃避だった。
中学時代は男子との折り合いが悪く女子高に進学。
女子高に入ったら入ったで複雑な人間関係に辟易。
大学は共学に入るも華やかな人間関係はくたびれ、大した交友関係も築かずゲームに傾倒。
この時出会ったのが後の一大タイトルとなるNSVだった。
サービス当初、まだあらゆるマップが未開拓ながらも頭一つ抜けた強烈なバトルアクションはいいストレス発散になり、暇さえあれば自分の腕を磨こうと試行錯誤した。特に何度目かのアップデートで新要素として追加された【体術】のスキル系統はとても奥が深く、元々格ゲー好きだった私はこれを突き詰めるのが密かな趣味となった。
「すごいですね、さっきのコンボ。あんな使い方初めて見ました」
と不意に声を掛けてくれたのが、後に世界ランキング二位を長らく維持した天才プレイヤー『オウル』――この時はまだキャラネームが『mmzk』だった御崎満嘉だ。
たまたま組んだ即興周回
しかし大学卒業後、就職したブラック企業では朝から夜まで働き詰め。帰ってからゲームに興じる暇も体力もなく、休日は寝過ごし、次第にNSVと距離が開いていった。
クエスト消化くらいでほとんどNSVとは疎遠な生活を送る内、会社でのセクハラとパワハラに心を病み退職。引きこもりのニート生活が始まった。
最初こそ何かに関心を持つ余裕すら無かったが、ふと気が向いてNSVにログインしてみた。
しばらく距離を開けている内にいくつかのアップデートがされていたが、体術ベースの技巧は依然通じると分かり、周回遅れを取り戻すべく少しだけ頑張ってみた。
「あ、体術すごい人だ!」
そんな奮闘を目にしたとあるプレイヤーが声を掛けてきた。
当時既にランキングの上位についていた『オウル』だった。
「めちゃくちゃ久しぶりじゃないですか?」
「あ、はい。色々ありまして」
「うわー!嬉しいです!またあの体術が見られるんですね!」
彼は既に多くのプレイヤーを抱えるNSVの世界で人目を集めるトップランカーでありながら、人当たり良く多くに好かれるプレイヤーだった。
私は彼との再会に気分がすっかり高揚し、ただの引きこもりニートから引きこもってゲームばかりするニートになった。
攻略最前線にいた彼だが、時折私と出会うと一緒にダンジョンに出かけ、互いの技巧を教え合い、あれこれ試しては楽しい時間を過ごしていた。
そしてそんな、一見ぽっと出にも見える私が彼と一緒にプレイしているのをよく思わない取り巻きのプレイヤーがそれなりに居た。
彼は誰にでも分け隔てなく接する博愛主義な人だったが、彼が私の体術に一際関心を持ってよく一緒にプレイするようになってから私は顔も名前もよく知らない界隈から嫌がらせを受けるようになった。
人伝に聞いて真相を知った頃には当初は全く無関係だったプレイヤーたちにも評判が波及していて、私の遊びづらさはともかく彼にまでいずれ迷惑をかけるのではないかと思い、彼と距離を置いてなるだけ離れたフィールドで遊ぶことにした。
が、一度現実で打ちのめされてこんなみすぼらしい生活を送るようになって、唯一の娯楽であるゲームでまで窮屈な思いをしなければならないことに次第に腹が立ってきた。
何で楽しく遊んでるだけでこんな目に遭わなきゃいけないんだ。
要は誰も文句の一つも言えないくらい、彼と共にNSVを攻略するにふさわしいプレイヤーであればいいんだろう。
思い立った私はそれこそ生活するのに必要最低限の食事や睡眠などを除くほとんどの時間をNSVに費やし、怒涛の勢いでランキング上位層に食い込んだ。
当然面白くない界隈による妨害や集団PKの的になることもあったが、強ければあんな有象無象蹴散らせるのだ。私のモチベーションは燃えに燃えた。
………
時は流れ、私は自己史上最高である世界ランキング八位に食い込んだ。
正直、一対一のPvPなら八位以上三位以下の連中には負けない自信がある。だが所詮は個人。しつこい嫌がらせの影響もあり、個々の実力はともかく八位までが限界だった。
それでも
「カツさん、暇だったら甲4D行きません?ちょっと面白いコンボ見つけたんで見てもらいたいんですけど」
一定の強さを身に着けたおかげで評判の悪い私に対しても変わらず人の
「そのコンボ、最後の大振りが次に繋げにくいので、連撃狙うなら【銀河】より【嵐】からの足技でもう一ハメ行った方がいいかもしれませんね」
「やっぱりちょっと隙が多いですよね~。カツさんみたいにスムーズにできたら回転系の剣術にも繋げられるのになぁ」
そんな日々が楽しかった。
永遠に続かないとは分かっていたものの、突如サービス終了の知らせが
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