28 Q:S【回復手段習得の手引き】

 「そこまで!」


 「ふはははは」


 合図とともに、やられたザインはカツゾウの武芸がツボだったのか大笑いし、カツゾウは華麗に着地すると、ザインの野太い笑い声にビクリとしていた。


 「ありがとうございました」


 カツゾウは一応行儀よくお礼をするが


 「ははは、さすがはミツカ殿と肩を並べる猛者。まるで通じる気がしない。ありがとう、とても勉強になった!」


 ザインはその小さな手を取るととても上機嫌にブンブンを握手をした。まるでカツゾウが小さなぬいぐるみのようだ。


 「しかし、見た目はアテにならんものだな」


 「まぁ、彼女はめちゃくちゃ強いですからね」


 褒めると、カツゾウは頬を赤らめつつもニヤリとする。


 実際彼女は滅茶苦茶に強い。彼女もトップランカーの例に漏れずマルチジョブのスイッチロール使いだが、彼女はランカーの中でも頭一つ抜けて体術が達者だった。NSV終了直前の最新鋭のスイッチロールは、彼女が編み出した体術テクニックがベースになっているほど、皆が真似て習得しようと躍起になった洗練された技巧の持ち主なのだ。

 全スキル中、例外的にコンボが成り立ついくつかを除いて、スキル体系として最も硬直が短く連打向きなのが体術である。近接体術というリスクを鑑みればわずかな硬直時間の差は旨味が少ないと考えられていたが、彼女が体術を巧みに駆使してとてつもない分間コンボ数とダメージ数を稼ぐ様を見て、トップランカーがこぞって真似をしたほどだ。


 かくいう俺も彼女の武芸は真似に真似た。そしてやはり、こと体術においては未だに彼女に届かない部分が多々ある。


 「こうなると、ミツカ殿とカツゾウ殿の手合わせも見て見たいものだな……」


 不意にザインがそう言った。


 「「……」」


 対して俺たち二人は無言で苦笑した。

 二人が俺たち二人の試合に興味を持つのは分かる。俺もカツゾウとの試合など考えるだけでたぎる。

 だが二人ともノリノリではない。向こうはどうか分からないが、俺的には「とてもじゃないが全盛期を知る勝蔵長可相手に今の貧弱な装備とステータスで手合わせなど失礼で申し込めない」という気持ちだ。


 二人の現状はNSVの全盛期……つまりつい一昨日までを基準に考えれば、気が狂うほどの超絶鬼畜なデバフと装備制限を常に受けているような感じであって、もちろん技術として現状使えるものは使えるが、例えこの辺りの冒険者相手に小手先で圧倒するレベルであっても万全とは程遠い。そして敢えてそんな状況で彼女と雌雄を決したい理由がない。意義もない。


 「すみません、御崎さんとは今はちょっと……」


 申し訳なさそうに頭を下げるカツゾウ。表情と口振りから見て、恐らく同じような理由で彼女も渋ったのだろう。


 「そうか、残念だ。二人がどのような技巧を繰り出すか見てみたかったが……」


 「見たってザインさんじゃ分からないし、真似もできないでしょ」


 残念がるザインをリズがからかうと「そりゃそうだがな」とザインは笑う。


 「ところで、二人はこれから暇か?」


 「ギルドの用事が済めば一応……回復手段の習得ですよね?」


 「そうだ。時間があるなら是非にと思ってな」


 本当なら昨日のうちに肉と回復手段の習得はできたはずだったが、急用とはいえ後回しにしてしまったので今日はそちらの用事にも向かいたい。


 「二人に回復手段の習得を教える約束があるんですけど、いいですか?」


 聞くとカツゾウは一瞬怪訝な顔をして、すぐハッとすると


 「……まさか習得方法すら知られていないんですか?」


 小声でそう耳打ちした。


 「らしいです」


 「道理でコカトリスごときに……」


 コカトリスやメタルリザード程度に苦心する冒険者を見て思うところがあったのだろう。カツゾウは渋い顔をして溜息をついた。



 ………


>Quest Suddenly




 その後間もなく訓練場にやってきたケニーによりパーティーとしてのランクもBと秒速昇進の通知を受け、晴れて二人での冒険者生活が正式に幕を開けた。さすがに変異ボスの魔石と、道中狩りに狩った変異種の魔石は丁レベルとは言え貢献度が高かったようだ。


 スタンピードが収まった丁1Dにもはや用はなく、かと言って他で最寄りのダンジョンと言えば難易度的にまだ二人でも心許ない。昨晩思い切って周回したので今日はザインとリズの回復手段習得に連れ添う俺にカツゾウも同行することになった。

 ということで今日の残りは休暇。ついでなのでカツゾウが素材と魔石の換金で得たお金で装備や食料、備品などを買い込むショッピングも兼ねることにした。


 昼は先ほど食べたばかりだったので、夕食にザインオススメの肉をご馳走してもらうことになり、とりあえずは当初の目的である教会に向かうことになった。


 「……では、まずはそのまま説明した手順で礼拝を」


 それぞれザインは前衛盾役、リズは後衛攻撃魔導士というロールではあるが、前衛だから気功術のみ、後衛だから回復魔法のみという傾倒は何らメリットがない。この機に二人とも気功術・回復魔法を両方覚えてもらうことにした。

 NSVのジョブ特化型キャラ使いでも両回復手段の習得は基本中の基本だった。それぞれ当初は前衛後衛の使い勝手で分けられがちだが、スキルツリーを組み立てるにつれ両者それぞれの特色が活きるスキルへと昇華する。

 回復魔法の系統は基本的に気功術より効果と守備範囲的に回復手段として使い回しやすいだけでなく、連携にも活きてくる。一方で気功術は回復だけでなく自身のあらゆるステータスを戦闘中に調整することで最適化を図れるスキルだ。特に危険の多い前衛職では結局回復魔法が必須となるし、後衛職も気功術によるバフで立ち回りやMP・SP管理が有利になる。


 まず小杖(今回は二人とも露店で買った鶏の脚焼きの骨だが)を装備しての礼拝で回復魔法【ヒール】の習得、次いで近接武器を装備して気功術【集気】習得が完了した。


 「本当に習得できるんだ……」


 リズは嬉しさ半分、驚愕半分といった様子で難しい顔をしているが


 「これで前衛盾役としての仕事の幅が広がるな!」


 ザインの方は素直に喜んでいた。ともあれ、これで二人を皮切りにルイーゼでは自己回復手段が普及することだろう。

 だが今まで使えなかった自前の回復手段を覚えたことで、これまでと違う万能感で無茶な経験値稼ぎなど羽目を外す輩は出てくるかもしれない。ザインはその類ではないと思うが、後で一応釘は刺しておくとしよう。





※ ※ ※


お読みいただきありがとうございます。

面白い!ここが気になる!というようなご意見ご感想

レビュー、ブクマ、応援、コメント等とても励みになります!どうぞお気軽にお願いします。


※ ※ ※

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る