27 パーティー【OWL】
「おぉ、ミツカにカツゾウか。昨晩はお楽しみだったようだな」
ギルドに着くなり大慌ての受付嬢に応接室に通され、やってきたケニーが開口一番にそう言った。
二人してやましいことはない(はず)なのにビクリとしてしまう。
お楽しみって、周回のことだよな?
「結局あの後十三周しまして……」
「十三……?」
ケニーは脇に抱えてきた書類を盛大に落とし、ケニーに続いて入って来た昨日の受付嬢がせっせと書類を拾い集める。
「中々帰ってこないと心配していたが……逆の意味で期待を裏切る奴らだな」
「おかげで疲れ果てて今朝はぐっすりでした」
ケニーはもはや頭を掻かず、身体を投げるようにソファーに腰掛けると苦笑した。
「魔石と素材を持ってきたので、カツゾウ……森さんの登録が済んだら、二人で均等に割って納品します」
言って、まずは討伐の証としてキングボアー一つ、マッドキングボアー十二の計十三個と、俺が個人的に周回した三周分の魔石を机いっぱいに並べた。
「はは、こんな光景は長い職員生活の中でも初めてだ」
ケニーも驚いているが、横の受付嬢が口を真一文字にして目を真ん丸見開いて並べられた魔石を見ている。微動だにしないが呼吸はできているだろうか?
「マッドキングボアーが出なくなるまで回ったので、スタンピードは完全に収まったはずです」
「のようだな。物見からも
魔石を見てツボったように笑ったかと思えば、今度は一ギルド職員らしい真面目な表情でこちらに一礼した。
「さて、カツゾウ……は通名だったか。チヒロの冒険者カードだ。無論、先に提出してもらった素材一式を集計し、既にCランクにまで昇格済みになっている」
「あっ……っす」
差し出されたギルドカードを見てカツゾウはちょこんと頭を下げる。
とりあえずケニーに対してコミュ障なのは継続のようだ。
………
ギルドの解体場でダンジョンを周回して得た素材のうち卸しても問題ない物を一挙に放出し、専門職員総出で鑑定・集計をかけてもらった。
ダンジョン攻略で得られる素材や魔石の貢献度は、不親切なことにギルドとしてダンジョン散策が許可されるDランクからしか集計されないのが、カツゾウは登録時点で俺と同様に昇格要件の成果物を提出していた上、メタルリザードとコカトリスの討伐にも貢献しているので、
聞くとカツゾウはNSVのサービス終了後、いつの間にか一人で『はじまりの森』に居て、徹夜で狩りと採集をしながらトリファを経由してさっさとルイーゼに辿り着いたらしい。俺より一晩早くここに来て変異種を狩っていたと分かり、マッドキングボアーの出現が想定より早かったのも納得である。
次いで二人でパーティーを組むこともケニーに報告し、ギルドとして正式にパーティー登録をすることになった。
一応二人でダンジョンを周回して集めた素材はパーティー結成後に提出することでパーティーとしての実績にも反映されるので、その事務手続き待ちの間一旦素材は放置し、俺たちは訓練場に三度来ることになった。
「カツゾウ殿、ぜひ俺と手合わせ願いたい」
申し訳ないが肉の件をすっかり放念して周回していたので今日は朝からギルドに詰めて待っていてくれたらしいザインと、何だかんだ付き添っているリズがそこに居て、ザインはカツゾウを見つけるなり手合わせを願い出た。
「…………」
カツゾウは戸惑っている。
まぁ、彼女の体躯で生身の巨漢と接すればそうなるのが自然とは思う。
「昨日俺も手合わせしました。勉強熱心な方なんで……」
言うと意図を察したのかカツゾウはキリッと顔に力を入れて
「わかりました」
と、突然にも関わらず試合を承諾した。
………
「ミツカさんとカツゾウさんはどのようなご関係で?」
準備するカツゾウとザインを余所に、リズが寄ってきて問いかける。
「彼女とは同郷の……戦友ですかね」
「へぇ~……戦友」
そういえばロウェルに始まり、俺が名字持ちなことで貴族と勘違いされたのを思い出す。
カツゾウの本名も登録関係で二人には知れているだろう。姓が違うが、一方で装束がはっきりと似た、突然現れた知り合い風の二人が別々にやって来て出会うなりパーティーを組む様を見ると関係性が気になるようだ。
「始め!」
号令とともに、木剣を持った両者が間合いを詰める。
ザインは初太刀で俺とやった時の反対向きで【剛蹄】の構え。
カツゾウは一瞬眉を顰めるが、すぐに木剣を腰のあたりで一旦留めてからザインの頭よりわずかに上ぐらいの位置を狙って突きの姿勢を見せる。恐らく突き技である初剣参【矛角】で剛蹄の振り下ろしの柄底を打つ狙いだろう。
だがここでザインが成長を見せる。剛蹄を振り下ろさず、そのまま勢いを殺さずに半回転、カツゾウに背を向けたと思ったらまるでホッケーのシュートのような流れで初剣弐【爪薙ぎ】を放ったのだ。
意表を突いた剛蹄からのさらに意表を突いて逆位置からの爪薙ぎ。そこまで考えているかは分からないが、半回転することでその巨躯が刀身を隠すのもいい味になっている真っ当なフェイントだ。
もっとも、相手がカツゾウでなければの話だが。
カツゾウはというと、勢いよく斬り上げられた爪薙ぎの木剣に乗った。
通常、スキルを介した攻撃では必ず衝突判定が起きるため、スキルを介さずにただ触れるということは不可能だ。だが彼女は何となしに剣術を足蹴にできる。彼女の並外れた体術センスゆえに成せる技だ。
実は彼女は爪薙ぎを足蹴にする瞬間、左足で体術 防参【逸らし】を発動していた。初盾弐【逸らし】のように弾き逸らすのではなく、防御術の逸らしは身体を使い、相手の攻撃を勢いそのまま捻じ曲げることもできる。
彼女が足蹴にした爪薙ぎは本来彼女の胴体を斜めに綺麗に薙ぐ軌道を描いていたが、彼女が乗り上げたことで急激に軌道をカーブさせる。
釣られてザインは振り抜いた右手に引っ張られるように重心を崩し、対してカツゾウは斬撃を踏み台に飛び上がると、そのままザインの頭上でその身をぐりんと翻して頸椎を木剣で優しく撫でた。
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