11 小技【タダ矢】
※弓術の習得には矢の消費と弓の消耗が必須。
だが訓練場ではタダでいくらでも弓が射れるので、習得の他、照準矯正などやりたい放題して腕を磨くことができる。(訓練場では最大射程距離が短いので、あくまで触りとして)
これが初心者にとっては存外嬉しく、訓練場で弓の練習に勤しむことをNSVでは「タダ矢」という。
「【飛燕】のあの威力が本来の形となると、それは私たちの知る剣術の常識を覆すものです」
魔女風が険しい顔で言う。
NSVでの例はどちらにしても飛燕が飛ぶと分かっている前提での話だ。もし飛燕はほんの数メートル先の的に斬り傷程度……もしかすると今までに狙ってかマグレでか正しく飛ばした人もいたのかもしれないが、その程度が常識、その程度で十分と思われて真っ当に発展していなかったとすれば、この世界における剣術のあり方は俺の知る運用方法とは大きく違うかもしれない。
飛燕がその程度なら飛燕の熟練に伴いより上位の飛ばし技を習得することはままならないはずだ。飛燕ですら正しく認知されておらず、剣術による遠隔攻撃が殺傷力を期待されていないとすれば、この世界での剣術は体術と並ぶほどのほぼゼロレンジの近接戦闘手段という扱いなのだろうか。
あぁなるほど、もしかするとこの世界の剣術は魔術などに比べてより遅れているのかもしれない。
NSVでの剣術の用途と言えば、
この世界……現実においては剣術にそこまでは求められないのかもしれない。身の危険の多い近接戦闘、もとい近接でしか実戦的に使えない上、得物の性質上隙が生まれやすいスキルはそれだけ命を危険に晒しやすい。便利な分実戦では危険と紙一重。それがこの世界の剣術。
何より遠隔攻撃なら弓術や魔法などの代替手段がある。わざわざ剣術で
「ザインさんには後で教えますが、飛燕についてはとりあえずそういうことで」
「本当か!?」
「そういうことで済む話では……」
ケニーがガシガシと頭を掻く横で今度は魔女風が深くため息をついた。ザインは何だか少年のように目を輝かせている。口を一文字に、目をパチクリさせ三者三様のリアクションを見つめている受付嬢。ところで彼女、居づらそうだなぁ……
さておき、俺は俺で飛燕の何たるかを説くよりも今この訓練場にある豊富な武器で新スキルを習得したくて仕方なかった。
「あの辺の武器はお借りしてもいいですか?」
「ん?あぁ、構わない」
訓練場に来たら最初に習得したいと思っていた弓を手に取ると、装備判定で二種の弓術スキルを習得した。
現状剣術と投擲術では賄えず、初級の魔法よりも射程のある遠距離攻撃手段である弓術。自分で一から習得しようとすると矢が
現実の弓は弦がとにかく重いと聞いたことがあるが、試しに引いてみたら今のレベルアップしたステータスであれば問題なさそうだ。
もちろん現実に弓など射たことはないが、剣術や格闘術の感じからして、スキル入力の補正に頼ればまぁ何とかなるだろう。
「……ん?弓術はスキル欄に無かったと思うが……」
とケニーが
一本目は直線的な狙撃弓術【
ほぼ無風の訓練場でこの超至近距離、案の定入力に対してスキルの補正も働き、狙い通りの位置に矢が突き刺さる。弓術は渾身判定がないので今回は会心クリティカル。弓術もNSVで馴染んだ入力手順で問題なく使えるようだ。
「あ……」
と、ステータスに目をやっていた受付嬢が思わず声を上げる。
先ほどまで弓術が表記されていなかったステータスに、この数秒の間に亥、卯それぞれが熟練度5という形で現れ、続いて【
「熟練度5!?さらに三つも……今の今まで無かったぞ!?」
今の今覚えたところだから。
そんな驚愕する四人を余所に、ヒュンヒュンと的を射る。
あれよあれよと精密狙撃の子、螺旋状に回転し威力を増す貫通狙撃の未、高く山を描いて着弾する酉が5まで熟練し、さらに【
弓術はそれぞれ完全に熟練させるために「特定の魔物をそれぞれの弓術・適切な手順にて一定の本数狙撃し撃破する」ことと「一定の本数狙撃に成功する(会心・クリティカルによる回数ボーナスあり(会心・クリティカル同時達成で本数免除))」ことが必要となる。
丑、寅、午はそれぞれ前段部分にもさらに条件があり、訓練場の的では条件が満たされないため熟練は不可、残り四つの型はまだ習得できないので、訓練場での弓術習得は一旦ここまでだ。
「どういうことだ……俺たちは一体何を見ている……」
弓を片付ける俺を余所にさすがに禿げるんじゃないかと思うくらい頭を掻き回すケニーに何だか申し訳ない気分になる。
次は申し訳程度に武器庫の隅にちょこんと鎮座する初級の魔法書『炎の攻撃魔法 丁』を手に取る。
書物は適当なものだと装備カテゴリーにおいて盾扱いになるが、訓練場では盾術用にきちんとした盾が用意されている。一方で、実は魔法書に限っては装備判定上杖扱いになる。これは魔法書に載っているまだスキルとして習得していない、或いは諸条件が満たされておらず習得段階に至っていない魔法のうち、レベルやスキルツリーなどの一定条件が合致するものが、標準よりMP消費は多くなるものの、魔法書を杖として装備した状態であれば若干の威力補正を加えて使用可能になるというシステムに
「魔法書?攻撃魔法はスキル欄には無かったと思うけど……使えるの?」
と、魔女風が訝しむが
「あ、今出ました」
「え゛っ」
今しがた手に取った魔法書で装備判定が出たのだろう。丁の習得に必要なレベルとステータスは十分に満たしているので装備すれば自然と習得できる。……と思っていたが、ステータスを見ていた受付嬢の声に魔女風が驚きのダミ声を上げる。
「そんなバカな……!?貴方今その魔法書を手に取ったばかりじゃ……」
「?? そうですけど」
魔女風は剣術の時はザインと違い幾分涼しい顔をしていたが、今度は顎が外れそうなくらいにあんぐりしている。
「その魔法書を今までに読んだことが……?」
「いえ、魔法書は初めて見ました。読んでたらもうとっくに覚えてますよ」
笑いながら言ってはみるがどうも笑い事ではなさそうな雰囲気で
「あり得ないわ!初めて魔法書を見た人間が中身にすら目を通さず魔法を習得するなんて……」
そうは言われてもNSVではそれでできたし、現に今もそれだけで習得できている。
試しに脇にあった『水の攻撃魔法 丁』を手に取ってみると
――水属性魔法 丁壱【水珠】を習得しました
――水属性魔法 丁弐【波打】を習得しました
――水属性魔法 丁参【水壁】を習得しました
――水属性魔法 丁肆【水刃】を習得しました
「何これ……何なのこれ!?」
そんな様子を見て魔女風はバケモノでも見たかのように顔を青ざめさせた。
※ ※ ※
お読みいただきありがとうございます。
面白い!ここが気になる!というようなご意見ご感想
レビュー、ブクマ、応援、コメント等とても励みになります!どうぞお気軽にお願いします。
※ ※ ※
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます