9 Q:S【模擬戦 vs.ザイン】

>Quest Suddenly




 「コイツは冒険者ギルドルイーゼ支部……一応、剣術指南頭のザインだ。今から木剣でザインと試合をしてもらう」


 「一応」に反応して脇の魔女風がクスリと笑い、ザインと呼ばれた屈強な剣士風がそれをジト目で睨み付ける。


 「ミツカ……でいいか?ザインだ。ロウェルの爺さんがあそこまで言うほどの腕が気になってな」


 「ミツカでいいですよ。よろしくお願いします」



 ロウェル……確かに道中張り切って戦闘はしたが、いくらか盛って報告したんじゃないか?


 想定外ではあるがちょっとした対人戦、しかも木剣だ。道中盾術と体術でVITも上げてきたし、それほど痛い思いをすることもないだろう。したとしても木剣程度の怪我であれば回復は容易いはずだ。恐らくこの世界にはあるだろう痛覚耐性の貢献と思って甘んじて受けよう。

 剣術指南頭というならそれなりの実力者だろうから、アレコレ策は練らずに自然体で行こう。



 あっさりと試合を受け入れた俺を見てザインは口角を上げる。舐めている風ではなく、雰囲気的に新人をイビりたくてこういう運びになったわけでもなさそうなので、俺としては真っ当に応じるのもやぶさかではない。



 何より初めて実戦での対人戦だ。そんな場合ではないはずだが、正直たぎって仕方がない。



 「使用は剣術のみだ。構えて――」



 ある程度間合いを取り構えたところでケニーが号令をかける。

 片や標準体型の青年、片や身長190cmはありそうな筋骨隆々の剣士。まぁ単純にガワだけ見ればデカい方にベットする場面だろう。



 「――始め!」



 合図とともにザインは巨体にしてはまずまずなスピードでこちらに駆けながら刀身が背に隠れるくらいに木剣を振りかぶった。


 「は?」


 初級剣術 陸ノ型【剛蹄】の構え……溜めれば溜めるほど威力が増す強力な叩き斬りのスキルで、ヒット・防御関係なく一定割合ダメージが通れば相手をスタンさせる力技だ。

 便利ではあるが構えから発動まで隙がある上剣筋が読みやすいのでPvP向けのスキルではない。使うとすればフェイクで、相手に接近したところでキャンセルし別のスキルで対応を惑わす……かと思いきや


 「おぉお!!!」


 接近しきると、ザインはそのまま剛蹄を振り下ろした。マジか。

 その気になれば技の起こりまでに潰すこともできたが試合を楽しむためにフェイクからの展開を期待して見送ったので、まさかの真正面からの剛蹄は奇襲としては一応成功である。が


 カァン


 受太刀で難なく受ける。

 渾身・会心・クリティカル三拍子揃った受太刀、ステータス差がさほど開いていなければ


 ガクン


 と、行き場を失った振り下ろしに釣られるように巨体が前屈みに倒れ込んだ。


 「なっ……!」


 目を見開いたのは当事者のザインだけではない。

 この体格差で思い切り振り下ろされた剣を何となしに弾いてデカい方がダウンを取られているので光景としては異様だろう。だがPvPの展開としては当然、ここで素直にダウンをもらっているようでは、指南頭とか言っていたが残念ながら剣士としては三流以下だ。

 

 ダウンしたザインの眉間めがけて即座に鋭く突きを放つ。

 初級剣術 参ノ型【矛角】――さほど威力は出ないがスピードと貫通力のある特攻系の突きスキル。敢えて初級でザインに対処する余地を与えたつもりだったが


 コツン


 と、衝突の直前でキャンセルした木剣の先でその眉間を小突く瞬間まで、ザインはただ驚愕の表情でこちらを見ているだけだった。



 「そこまでっ」



 と、小突いた後で焦るようにケニーが止める。


 試合の後、訓練場は異様な空気だった。

 絶句するギルド職員の表情を読むにこうだ。「あのザインが手も足も出なかった」と。

 こちらからすれば開幕真正面の剛蹄でフェイクなしダウン後の対応もなし。これで試合!?の絶句だ。



 ……いや、それでも試合は試合。まずは相手への敬意を忘れてはいけない。


 「ありがとうございました」


 「……あぁ、ありがとう。なるほど爺さんの言う通りのようだ」


 尻餅をついたザインに手をやると、二回りほど大きな手でがっちりと握り返して立ち上がった。


 「……剣術が達者なことは分かった」


 ケニーは険しい顔をしながら言う。


 「ただ、思いがけず短かったな。的でいいから何か他の技を見せてくれ」


 チクリとザインを刺すが、当のザインは「ははは こいつは無理だ」とあっけらかんとしている。


 「では」


 インベントリからゴブリンナマクラを取り出すと、ザインが怪訝な顔をする。


 「そんなボロい剣を普段から使っているのか?」


 「はい。今は手持ちがこれしかないので」


 ありのまま答えるが、ザインは「いやそれにしてもなぁ~……」とブツブツいぶかしんでいる。気持ちは分かる。いかにステータスやスキル、センスがそれなりだろうとこんなナマクラでは実戦でロクな剣が振るえるかと。全く同感だ。気持ち的には今すぐその辺の商店で銀貨で買える程度の鉄剣にでも替えたいくらいだ。

 まぁ実戦で使えるかどうかについては、それがならの話だが。


 「とりあえず初級から行きます」


 既に熟練しきっている初級剣術なので肩肘張らずに……とは言っても最早体に染み込んでしまった入力方法で、今や初級レベルでは外す一撃を放つ方が難しい。


 「ふっ」


 一気に的に間合いを詰めて放った一閃はその補助エフェクト発光の派手さとは裏腹に小さく カッ と音を立てたかと思うと、その剣筋で空間をスライスしたかのように的の首を刎ね飛ばす。


 「……今のは、まさか【一閃】か?」


 「はい。普通の【一閃】です」


 「いや普通とは……」とケニーが漏らすのを余所にザインがこちらに寄って来る。


 「その剣、一度貸してもらえないか?もし壊れでもしたら代わりに新品の鉄剣を一振り渡そう」


 「はぁ、それなら」


 このナマクラでこの切れ味に納得が行かないのか、ザインはナマクラを手に取ると同じように的に向かって一閃を放った。


 が、何とも言えないお粗末な一閃だった。

 持ち前のSTRごり押しで放ったのか的を両断こそしたが、あのように剣筋が整っていない一撃を放つと


 ガキッ


 嫌な金属音を立ててナマクラはついに折れた。よし、これで新品一振りゲットだ。





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