6 Q:T-4【冒険者登録してみよう】
>Quest Tutorial-4
「ロウェルさん、お帰りなさい」
ロウェルのペースに合わせて……とは建前でレベリングとスキル熟成のための作業狩りに勤しみつつの移動の末ルイーゼの門に着くと、衛兵がロウェルをにこやかに労う。
あんな限界集落までわざわざ行商に訪れるくらい殊勝な人だ。人々が好感を持つのも分かる。
「こちらは……見ないお方ですね?」
と、そんな脇に小綺麗な格好をした青年がいると、
「実はうっかり獣除けを切らしてしまったところに偶然出会っての。大層腕も立つので護衛をお願いすることに……こちら傭兵のミツカさん」
「はぁ、傭兵さん!」
「ツイてますね~!」とロウェルの口車にまんまと乗せられる衛兵。しかしロウェルも口が回ることだ。
「どうぞ、お通り下さい」
「ははは、いつもご苦労さん」
そんな軽いやり取りで門を突破できてしまった。
わざわざ衛兵を配備するくらいだ。普通なら初めて街を訪れる人物の素性を少しくらい確認するだろうに、ロウェルの顔パスでここまですんなり通れるとは、よほど人望があるようだ。
……なんてさらっと感心してしまったが、NSVではほとんど形だけの検問的なやり取りがこうもリアルとなると、身分をどう証明しようかとは考えていた身としては実は大助かりだった。
結果オーライではあるが、こういった実地面でのゲームとの細やかな差異は今後もあるかもしれない。今回は良い方だったが悪い方に転がるケースも想定しなければ。
自由気ままに攻略を進めるためにも、特に人間関係で何かの拍子に不手際がないように気を付けないとな……
「さて、私は商人ギルドに用があるのでここで」
門を抜けてすぐ、ロウェルはインベントリから小袋を取り出すとこちらに手渡す。
「少ないですが、護衛の報酬ということで。あれだけ戦っていただいたのに道中ロクな食事も出せませんで……冒険者ギルドはここから西の大通りに出て三つめの路地を左です。途中にあるパンビリオというお店がオススメですよ。丁度いい時間ですし、気が向いたら是非に」
「とんでもない。こちらこそとても助かりました。ありがとうございます!」
言いつつ手渡された小袋をありがたく頂く。この辺りのギルドを経由した正規の護衛依頼の相場までは覚えていないが、袋の膨らみ具合から察するに気持ち多めな気がする。
「道中はいいモノを見せてもらいましたからな。お強い貴方には不要な心配かもしれませんが、どうか今後の旅もお気を付けて」
「えぇ、ロウェルさんもどうかご達者で」
ロウェルは小さくお辞儀をすると、軽やかに歩いていった。
さて、確かに小腹が空いたと思っていたところだ。せっかく紹介してくれたことだしパンビリオにでも行ってみようか。
………
パンビリオでは絶品ビーフシチューに舌鼓を打った。
こちらで初めてのまともな食事は、耐性獲得のための悪食とせっかく出してくれたロウェルには悪いが粗食とを重ねた旅の後なので大満足だった。店員もとても愛想が良く、ロウェルの紹介だというと肉をサービスしてくれた。彼の人望には感謝が絶えない。
そういえばNSVで出てくる料理は素材がこの世界の産物ではあるものの大筋は運営のある日本で普通に出てくる家庭料理に倣っていることが多い。行けるマップが広がればエスニック料理だったりゲテモノ料理店も出てくるが、そちらは実際味の方はどうなのか……楽しみがまた増えた。
そんなこんなで冒険者ギルド。
薄汚れた大扉の向こう、ロビーでは冒険者たちが寛ぎながら情報交換し、職員はせっせと動き回り、がやがやと賑わっていた。そして清潔感のある整った設備。無骨な外観に反し内装が綺麗という、恐らくそれっぽい雰囲気が好きな夢見る外観デザイナーと綺麗好きで神経質な内装デザイナーとの主義を超えた合作だろうギャップもNSVと変わらずで思わず笑ってしまった。
さて、いよいよ登録のため受付に向かう。
ゲームでは事務的なやり取りで簡単に登録できたがこちらではどうだろうか。
「すみません、登録したいのですが」
「こんにちは。登録でしたら、まずはこちらの用紙に必要事項をご記入ください」
相も変わらずヘンテコなフォントの日本語で書かれた申請書に記入し、受付嬢に返すと
「はい、確認します」
とても日本人離れした髪色と顔立ちの受付嬢は流暢な日本語で話しつつ、ヘンテコな日本語で書かれた申請書にすらすらと目を通している。こういう絶妙なところでの雑さもNSVでツボなところだったりする。
「……あの、職業欄なんですけども」
一瞬怪訝な顔をした受付嬢がこちらに向き直る。
「この……『マルチ』というのは……?」
NSVでいう職業……ジョブの中でも冒険者ギルドで選択可能な戦闘職は通常三種五系統十一科目の区分けが設定されている。
前衛、後衛、特殊の三種
前衛の中で折衝、近接戦闘の二つ、後衛の中で支援、遠隔攻撃の二つと特殊の計五系統
折衝の盾士と暗殺者、折衝と近接戦闘の中間である剣士、近接戦闘の拳闘士、戦士
支援の回復術師と支援術師、遠隔攻撃の狙撃手と魔導士
特殊の精霊使いと魔物使いの計十一科目
そのいずれにも属さないジョブ『マルチ』
これはジョブにより上昇ステータスに補正がかかるNSVの仕様における駆け出し初心者と玄人向けの救済措置の一つだ。
近接戦闘なら近接戦闘特化、魔法なら魔法特化など、一度ギルドでジョブ登録をしてしまうと登録を変更しない限りレベルアップ時のステータス上昇に職業ごとの補正がかかってしまう。
これは単一か同一系統のジョブに傾倒するのであれば補正で特化キャラを育成するのに便利な仕様ではあるが、特に最高難易度エリアで必須となる物理・魔法複合のバランスの取れた習得、また上級者が好んだ各ジョブのスキルを即座に使い分けるスイッチロール用キャラの育成においてはステータスのムラが足枷となる。レベルが上がってから補正で差の付いたステータスを矯正するのは骨が折れるので、まだジョブの方向性を決めきれていない初心者やスイッチロールを好む玄人にとっては補正がない代わりに全ステータスが満遍なく上昇するマルチジョブを選択するのが一番合理的だ。
「えっと……何でもということですけど」
「何でも……?」
今度はハッキリをこちらを見ながら怪訝な顔をする。
「剣も格闘も盾も魔法も回復も……まぁ何でも」
と言っても現状使えるのは剣術、格闘術、盾術、投擲術、気功、回復魔法、申し訳程度の光属性生活魔法くらいだが
「えぇ……」
受付嬢はヤバい奴に絡まれたような顔をして何やら考え込んでしまった。
「えぇ……」
「えぇえ……」
そんな受付嬢を見て思わず漏れた困惑と、それを受けて「こういうときどうすれば?」と、悩みの種当人をお門違いに縋るようにこちらを見た受付嬢の困惑が受付ブースの一角に木霊した。
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