5 Q:S【行商を護送せよ】

>Quest Suddenly



 「ぃよいしょ~っ」


 熟練度マックス10、渾身、会心で真っ黒に染まった【飛燕】の斬撃が15mほど先に居たゴブリンの首を大胆にねる。


 ルイーゼに近づくにつれ魔物との遭遇頻度は上がり、魔物単体のレベルも上がってきたが、その辺のゴブリン程度は今更敵ではない。敢えて乱闘に持ち込んで格闘術を習得したり、運良く出会えた盾持ちのゴブリンから奪った盾を使い盾術も習得しておいた。

 

 近接スキルの熟練値を稼ぐためにゴリゴリの近接戦闘ラッシュをこなしながら移動したかったが、戦闘の度にロウェルに毎度ハラハラさせてしまうのも申し訳ないので一旦は飛燕などの遠隔剣術での討伐に移行した。護衛クエストは対象の無傷での護送納品が必須。実力的には近接ラッシュでも何ら問題なくこなせるが、今回は対象を生身の人間と仮定して、ストレスケアも含めて気持ち過剰な護衛だ。

 遠間から敵を圧勝する姿を見せ続けた甲斐ありロウェルも落ち着いてきたので、時折近接も交え恙なくこなす。想定より少々押したが、問題なく近接スキルの熟練は進んだ。

 余談だが、昨日に引き続き状態異常苦行を絶えず行いロウェルにはいぶかしがられた。徹夜の影響は今のところはっきりとパフォーマンスに影響するレベルではないが、一応一徹でも【不眠耐性】を獲得できた。


 「いやはや……これは想像以上ですな」


 ロウェルは戦いぶりを見て唖然としていた。


 実際、武器の質やステータスの数値的な強弱とは別に技一本一本の精度に関しては自信があった。

 着実にレベルアップをこなしたおかげで、チュートリアル戦闘のようにスキルを使って反動ダメージを受けることもなく、SPの消耗もかなり抑えられるようになった。

 しのぎを削り合う何百万人の頂点にほど近い位置に君臨し続けた技巧は、まだ満足なレベルに振るえないのは残念だが、それでも現状では間違いなく通じると分かって我がことながら鼻が高い。

 

 「先ほどから遠間で攻撃していたそれは……投擲術か魔剣術の類ですかな?」


 「普通の剣術ですよ。今のは【飛燕】という技です」


 「剣術……普通の……【飛燕】!??」


 ロウェルは俺の剣(ナマクラ)を目をかっ開いて凝視する。


 「いや、確かに普通の……というかその、何ですがかなり粗末な剣には見えますが……」


 見ての通り、ゴブリンから奪った程度の耐久値ガタガタなクソナマクラだ。


 「ミツカさんの剣筋は私の知る剣士のそれとはまるで違いますな……【飛燕】にしても、あの遠間までそれほど強力な斬撃を飛ばすような芸当を私は見たことがありません」


 「えぇ……?」


 そもそも遠距離攻撃である飛燕はのが当たり前だが、実戦なら最低でも5m先の木をなぎ倒し、20m以上先から魔法の対抗手段として使えるレベルになって初めて一人前、上級者は殺傷能力を保ったまま50mは飛ばすようなものだったが。


 「それ以外の剣術にしても、まるで刀身が光り輝いて見えると言いますか……貴方は本当に駆け出しの冒険者なのですか?その技量だけでなく、魔物を相手取るのに怯えが微塵も感じられない」

 

 確かに渾身・会心のエフェクトは上級者でも一握りくらいしか狙って出せない上、素人が実戦でマグレを狙うには判定が厳しいものだったのでその光景自体珍しいのかもしれない。

 とは言え、装備的にもステータス的にも、いかに技巧を詰め込んだとて今のままでは補助エフェクト百発百中でも実戦で使える範囲は限られる。

 魔物に対して怯えがないのは、単純にこの道のりでは雑魚しか出ないというを知っているからだ。

 

 「正真正銘駆け出しです。ルイーゼに行くのもギルドに登録するためですし」


 「はぁ……いやはや、こんなところで斯様な傑物に出会えるとは」

 

 ロウェルは神妙な顔でこちらを見定め


 「……口ぶりから察するに、何らか身元を明かせないご事情があるのでしょう。ルイーゼの冒険者ギルドとは知らない仲ではありませんので、取り計らうようこちらで話は通しておきます」


 「本当ですか!助かります」


 そんなこんなで道中の戦闘風景に慣れてきたロウェルが無駄話できるくらいにまでなると、魔物の素材を卸すのにおすすめの商会やおすすめの武器屋、果てはなかなか小粋な食堂なども教えてもらい、ルイーゼへの到着が一段と待ち遠しくなった。

 まぁ教えてもらった情報は概ね頭に入っていたNSVの知識そのままだったが、それはわざわざ明かすまい。





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