【開幕】《神風天覧試合》、始まりの儀 其の九




 情報をまとめると、こうだ。



🔳《神風天覧試合》:

 ・六名が全員と戦う、全十五試合の総当たり戦。

 ・全試合終了後、星の多い者が優勝。《神風》に選ばれる。

 ・勝利:星2つ 引き分け:1つ 不戦勝:1つ 敗北:なし  

■公式戦:

 ・試合間隔は七日程度。

 ・戦場の時刻、場所、補則は運営が決める。

  場所は関西圏に限られる。

 ・試合の周知は二十四時間前、《耳袋》にて行われる。

 ・公式戦の情報は、参加者全員に周知される。観戦自由。

 ・《耳袋》不所持の対戦者は《不戦敗》となる。

■野試合:

 ・参加者が合意の上で、運営に連絡し、開催。

 ・戦場の時刻、場所、補則は、参加者同士が決める。

 ・試合ルールは公式戦に準ずる。

 ・野試合の情報は、他の参加者に周知されない。

 ・受付は公式戦周知前、試合の二十四時間後に限られる。

  先着の野試合受付がある場合も、これに同じ。


🔳試合ルール:

 ・立会人を伴う、一対一の勝負。

 ・《必至》をもって、決着とする。 

 ・相手を殺した場合は、《天覧試合》を失格になる。

 ・武器使用は無制限。

 ・ 試合進行の妨害、公平な比武に水を差す行為には反則を取る。

  星の減点は立会人の裁量次第。

 ・戦場によって補則(追加ルール)が存在する。

■場外:

 ・戦場の外周にはドローンが配備され、場外の警告を行う。 

 ・場外カウント二十秒で敗北。カウントは累積する。

■異議:

 ・《必至》を取られた側は、立会人に異議を申請できる。

 ・決着は取り消され、状態はそのまま、勝負は再開される。

 ・異議を唱えた者を殺しても、相手は失格にならない。

 ・異議は一度しか認められない。


🔳試合後:

 ・双方の怪我は、すべて空木 八海が完治する。



「外野の手助けはどの程度、許される? 声掛けはいいのか?」

 まず訊ねたのは洋だ。蓮葉を止めるには必須事項である。

「手助けは反則ですが、妨害にならない程度の声掛け、応援は構いません」

 洋はうなずいた。予想通りの回答だが、ひとまず安堵する。

「制限時間はないのか?」

 これは肩の少女。そう言えば、巨人の方は一切リアクションがない。対応の全てを少女に任せている。

「ございません。

 ただし極端に長引き、両者に戦う意思がないようなら、期限を設けます。

 期限を越えて決着が着かない場合は、両者敗北となります」  

「理解した」

 殺傷力の高い武器戦闘は、徒手に比べ、短時間で決着のつくことが多い。互いに睨み合う持久戦もあるが、そう続くものでもない。制限はあってないようなものだろう。

「野試合以外の勝負は、別にいいンだよな?」

「浪馬殿。それは、運営に届け出ぬ勝負ということでしょうか?」

「おうよ」

 悪辣な表情でうなずく浪馬に、忍野は黙考する。

「私の目の届く範囲であれば警告し、反則を取ります。

 ですが、それ以外の場での私闘に制限はありません。

 闇討ちで消えるような者に、《神風》は務まりませぬ故」

「ヘヘッ、そう来なくっちゃーな」

 浪馬は満足げだが、闇討ちは明らかにリスクが高い。野試合でなければ、八海の治療は受けられず、無傷で勝てる相手なら闇討ちする必要がない。不戦勝の星が一つに設定されているのも、闇討ちを抑える目的からだろう。

 とはいえ、場外戦は許されたも同然である。誰がどんな手を使ってくるか、わかったものではない。

 その対処も含めての《神風天覧試合》だと、洋は思い至った。

 一週間の試合間隔は長すぎる。八海の治療があれば連日試合でも問題はないはずだ。そうはせず、あえて自由度の高い期間を置くことで、場外での諜報戦や妨害、闇討ちまでも競わせる。常在戦場の気構えこそが重要なのだ。

「……他になければ、説明を終了します。

 後に疑問が生じれば、《耳袋》にて訊いていただければ」

 忍野が一礼し、引き下がった。

「終わりか」「もう三時前だぜ」「始発まだだよね。どうしよっかな」

「静粛に──」 

 引いた場所から呼ばわる忍野の声に含まれる、常ならぬ緊張を感じ取り、一同は押し黙った。

「開会の儀の締めくくりに、《禁裏》様のお言葉をいただきます。

 《禁裏》様、宜しくお願いします」

 紫宸殿の中から現れた人影に、洋は思わず呼吸を止めた。

 まさか。

 しかし、ゆっくりと階段を降りてきたのは、間違いなくあの人物だ。直接見たことはないが、知っている。おそらくは全国民が知っている。

 膝が白洲の感触を伝えた。我知らず、膝を折っていることに洋は気が付いた。洋だけではない。申し合わせたように全員が膝をつき、こうべを垂れている。あの傍若無人な浪馬でさえも。

 洋も顔を上げられない。戦慄でも恐怖でもない、未知の圧があった。太陽を見つめれば目が潰れる。それに似た感覚で、本能が直視を拒んでいる。

「皆さま、顔をお上げください」

 声とともに圧が減じ、洋はようやく顔を上げた。

 あの見知った顔が、月のような笑みを浮かべていた。

「皆さま、こんばんは。

 ここに、《神風天覧試合》の開催を宣言いたします。

 皆さまのご健闘とご武運を、心よりお祈りいたします」

 ごく短い挨拶の後に一礼すると、小さな背中はあっさりと紫宸殿に消えた。

「──以上を持ちまして、開会の儀を終わらせていただきます」

 忍野の挨拶の後でも、しばしの間、立ち上がる者はいなかった。

「……まさか、とはな」

 絞り出すように言うと、洋は顔に手を当てた。サウナのように発汗している。

「さすがは現人神あらひとがみだな」

「うちの宮司よりすごかった」「このオレが動けねえなんてよ」

 他の面々も、まだ放心しているようだ。

 時間はわずかだが、一同に強烈な印象を残して、開会の儀は終了した。

 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る