【開幕】《神風天覧試合》、始まりの儀 其の八




「次に、場外の説明を。

 試合は関西圏より選ばれた、特定の区域にて行われます。

 戦場の周囲には固定ドローンが配置され、場外線を表示、および警告します。

 場外の滞在が許されるのは二十秒まで。二十秒の時点で敗北となります。

 なお、このカウントは試合ごとの累積制です」

「十秒外にいて再び出たら、次のカウントは十一秒ってことだな」 

 うなずく忍野に食ってかかったのは、例によって浪馬だ。

「戦場の広さは決まってンのかよ?」

「候補者の特性を生かすべく、試合ごとに異なります。

 これは場所の選択に於いても同様です。

 また、試合によっては、特別な補則が適用されることもございます」

「ハッ! 全部、お前の胸先三寸かよ。胸糞悪イ」

 悪態を受け流し、忍野は説明を続ける。

「試合については、以上です。

 最後に、《天覧試合》全体の進行についてご説明いたします。

 ……皆様に、あれを」

 忍野の言葉を受け、黒い作業服の男たちが現れた。六名の候補それぞれの手に、赤いガジェットが手渡される。

 スマートフォンではない。折り畳み式の携帯電話である。

「なんだよ、このガラケー」

 洋も受け取った携帯を開けてみた。画面は飾り気がなく、機能は通話とチャットのみのようだ。電話帳には参加者六名と忍野の番号が登録されている。

「これは《耳袋みみぶくろ》といいます。今大会のために用意しました。

 専用回線にて、盗聴の心配がありません。

 公式の連絡は、全てこれにて行います。候補同士の連絡にもお役立てください。

 また、《耳袋》には現在位置を示す機能があり、本人証明にも用います。

 試合に臨んだ際、《耳袋》の所持が確認されなければ、不戦敗と見なします。

 常より肌身離さず、特に試合に於いては必ずご携行ください」

「こりゃ畔製だな。似たようなのを見たことがある」 

 洋の発言に、周囲が騒めいた。

 一番にいきり立ったのは、やはり浪馬だ。

「どういうことだァ? 忍野てめー、畔と癒着してンのか?」

「《天覧試合》は有力な一族の協力を受けております。

 ドローンは八百万の提供ですが、何かご不満でも?」 

 ぐうの音もなく押し黙るピンク髪に代わり、烏京が問う。

「機密は万全なのか?」

「当方は無論、畔と八百万、双方のチェックを受けております」

「なるほど」

「はいはーい。何でスマホじゃなくてガラケーなのよ?」

「戦場に携えることを踏まえ、耐久性を重視しました故」 

「あー、そっちね。でも色は選びたかったかなー」

 たつきは不満げだが、洋にはありがたい限りである。いずれ蓮葉にはスマホを与えるつもりだったのだ。公式に支給されるなら、それに越したことはない。

「さて。《天覧試合》には、公式戦と野試合の二種を用意しました。

 公式戦とは、運営の主催する基本的な試合。

 試合の二十四時間前、《耳袋》にて戦場の場所と時刻、付則を伝えます。

 戦場の設定は、全て運営が決定いたします。

 公式戦の報せは当事者のみならず、全員に伝えられます」

「見学自由ってこと?」

「左様。

 そして野試合とは、候補者双方が合意の上で行う試合。

 運営は連絡を受けた後に立会人を派遣し、勝負を見極めます。

 基本的なルールは公式に準じますが、戦場の条件は双方の合意にて、自由に決められます。

 また公式戦と異なり、当事者以外に周知は行われません」

「ふうむ」

 孫子を引き合いに出すまでもなく、敵を知ることは攻略の初歩だ。手の内を明かさずに済む野試合は、公式戦に比べ有用に違いない。

 一方で、野試合を組むのは容易でないだろう。《耳袋》で連絡が取れるとはいえ、互いが納得する条件を話し合いで見出すなど、果たして出来るものか。

「ンン? 野試合連発すりゃ、ちンたら公式戦せずに済むってことか?」

「公式戦と野試合は、試合の扱いとしては同じ。その認識で構いません。

 ただし野試合の受付には、制限を設けております。

 公式戦の周知後、または野試合の受付後から、その試合終了後の二十四時間までは、野試合の申し出をお受け出来ません。悪しからずご了承を」

「試合予定が被るとダメってことだな」

「あ、わたしも質問。

 現在位置がわかるってGPSでしょ。それってオフにできんのよね?

 おしのんはともかく、他に居場所が知れるとかキモすぎなんだけど」 

「おしのん?」

「たつき殿……忍野とお呼びください。

 位置情報は運営には隠せませんが、参加者同士の表示は許可制です。

 一方的に位置を知ることは叶いませぬ」

「オッケー、おしのん」

 忍野は何か言いかけ、押し黙った。たつきの物言いは相手を選ばぬらしい。

「──試合についての説明は以上です。他に質問があれば、どうぞ」

 忍野の問いに、一同は改めて思案顔になった。



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