第314話 28-9 優奈のペントハウス
優奈の住むペントハウスは
潤沢な資金のお陰で沢山のお金をかけられたことと、オーストリア留学中に覚えた欧州風の造りをモチーフに専門家に設計してもらいました。
フィアンセのユーリーも見慣れた様式に喜ぶと同時にちょっと驚いて居ましたね。
イタリア直送の大理石をふんだんに使い、アンティークな輸入家具も欧風の部屋にとっても似合っています。
優奈の希望を新進気鋭のインテリアデザイナーに伝えて準備してもらい、施工ししてもらったのがYUNA動物病院の五階と六階を占めるペントハウスなんです。
もともと高い天井を持つ動物病院と同じ敷居高さ280センチの天井は空間的な広がりがあってとても贅沢なんです。
それに日本の家屋には余り見られないような広さの間取りは、日本の家と言うより間違いなく欧米の家に近いでしょう。
但し、照明の方は欧米式の間接照明がメインではなく日本式の直接照明が主ですけれどね。
八畳の続きの和室と四畳半の茶室を装った離れがありますから、五階部分の空中庭園の一部には小ぢんまりとした日本庭園も設けられています。
茶室でお茶をたてていると時折響く
5階部分の庭園は透明なドーム状の天井に覆われていて、四方にある窓を閉め切れば雨風を防ぎ温室にもなります。
この窓は通常は目一杯解放していますけれどね。
年々勢力を増しつつあった台風対策と海岸縁べり特有の潮風による塩害対策でもあるんです。
後は大気汚染対策かなぁ。
PM2.5や黄砂なんかもセンサーが自動的に感知して、濃度によっては窓を閉鎖できるようなシステムにしているんです。
ペントハウスへは、病院内のエレベーターとは異なる一階からの専用エレベーターで直行できます。
ペントハウスから優奈の日々の職場である動物病院へは、階段若しくは病院仕様のエレベーターを使うことになりますが、いずれにしてもセキュリティシステムがあるので部外者や許可のない者がペントハウスに立ち入ることはできません。
因みに出入りはホテルのようなICカード若しくはスマホによる解錠コードの発信により行われます。
ICカードは特定の人物にしか渡していませんし、スマホの解錠コードはコンピューターで管理する特定人物への一時的な使い捨て措置であり、必要の都度更新が必要になるシステムです。
専用エレベーターは解錠コード若しくはICカードの保有者のみ存在することを確認して作動することになっていますし、階段にも鍵のかかったドアがあってセンサーで解錠コード若しくはICカードを確認しないと開かないようになっていますので、4階から上には簡単に上がれないようになっているのです。
設計段階で優奈の希望を色々とあれこれ注文している内にペントハウスの大きさは延べで千平米を超えてしまいました。
リビングが六十畳超え、ダイニングも十二畳超え、台所はレストランの業務用キッチンの仕様でそっくり設けてもらいましたから所謂プロ仕様ですね。
実際に試したことはありませんが8人ほども並んで同時に調理仕事ができるはずです。
冷蔵庫も冷凍庫も業務用ですから大きいですよ。
優奈とユーリーの私室が一つずつ、主寝室にはキングサイズのベッドが置かれていますけれど、今のところ使ってはいません。
メイド用寝室が二部屋、ツインのゲスト用寝室が六部屋あり、各部屋にはウォーキング・クローゼット、トイレ、バス、パウダールームが付属しています。
日本人ですからお風呂は欲しいので個別のバスとは別に八畳くらいの広さの浴室とサウナが、それぞれ男女別々に設けられています。
但し、どちらか一方の表示を変えて混浴風呂ならぬ家族風呂にも切り替えられますけれどね。
視聴覚室では200インチの8Kテレビがあって、ネットや有線放送での映画や音楽も楽しめます。立派な音響設備が設けられていますので、映画館並みの迫力で音も楽しめるようになっているのが自慢のひとつです。
ちょっとしたトレーニングならばトレーニングルームで行えるように、色々なトレーニング機械が設置されていますが、 優奈の場合はユーリーと一緒に早朝のランニングがメインですので、トレーニングルームを使うのは雨天や荒天の時だけでしょうね。
このほかに優奈が必要とする獣医関係工房が二部屋、ユーリーの必要とするIT関係工房が二部屋、ペットルームが二部屋、それにビル全体のセキュリティ管理のできる監視室などがあります。
駐車場は、地上及び地下にあり、地上の駐車場は基本的に来客用で、病院用と私的来客用に分かれ、地下駐車場はあくまで職員用とプライベートな駐車場です。
8台が駐車できる地下スペースに優奈の自家用車二台、ユーリーの自家用車一台が鎮座している状況です。
ペントハウスから眺める景色はとても見晴らしが良いです。
東はポーアイのコンテナ埠頭、その奥に六甲アイランドと沖合の新島、南は神戸空港島の一部とはるか遠くに大阪方面、西は三菱や川崎造船所の界隈で、西南西方向には明石大橋の一部が遙か遠くに垣間見えます。
北は勿論、三宮界隈の高層ビル群と六甲山系ですね。
但し、いずれもポートアイランド内にある高層ビルに視界を遮られ、ビルとビルの間に見えるという状況ですが、それでも神戸港内の海面状況などは自宅に居ながらにして目にできるのです。
お勧めは須磨山頂付近に沈む太陽の夕暮れ時でしょうか。とっても綺麗なんですよ。
これだけ広い住宅ですと維持も大変です。
掃除ロボットの導入だけでは足りません。
優奈が超能力でお掃除することもできるのですが、余り魔法や超能力で楽をするのも、その存在を人に知られる危険が増しますから問題なんです。
それに結構なお金持ちになってしまった優奈は増えつつある自分の口座のお金を社会に還元する必要もあるのです。
ですから実家にいる間にメイドのマリアにも相談して、最終的にマリアのツテで親戚の娘さん二人をメイドとして雇うことにしました。
マリアにはフィリピン出身のラパス・エンドレムさんという結婚相手ができたようなのです。
その彼も神戸にあるフィリピン人雇用の仲介業務を主とするマンニング会社の幹部社員で、ふとしたことからマリアと付き合い始めて昨年末には結婚の約束を交わしたようなのです。
但し、律儀なマリアは結婚して家庭に入ってしまえば加山家のお世話ができなくなるので自分の親戚の子でメイド関係の専門学校に入っている者から後釜を選別しようとしていたようなのです。
マリアの厳格な審査を経て最終候補に残ったのが三名居たため、更に絞るのにマリアも困っていたようですが、優奈からのメイド募集の話を聞いて、絞り切れない三人のうちの二名を回してくれたのです。
加山家に10月から見習いで入ってきたのはキャシーさん19歳、同じく10月から優奈の下へ来たのはリンダさんとナオミさんで、いずれも18歳でした。
三人とも4月から半年ほどマニラ市内の日本語学校で勉強して来ていて、かなりの日本語会話ができますし、勿論、英語も話せます。
但し、マリアさんと違ってスペイン語は話せないようです。
そんなわけで、優奈の新築ペントハウスには優奈、ユーリーの二人と、住み込みでリンダとナオミの二人のメイドがいるんです。
リンダもナオミも身長は160センチぐらいの小柄でやや細見の色黒ですが、理知的な顔立ちの性格の良い娘です。
マリアも加山家に来た当座は色黒でしたが、やはりフィリピンとは気候風土が違うのか食生活が変わったからか、数年後には色黒が薄れ、今では日本人とほとんど変わらない肌色になっています。
メイドの二人にはユーリーと優奈が超能力者であることは知らせていません。
ユーリーが優奈の婚約者であり、この12月8日に結婚することは教えていますが、婚前に同棲していることは特に不思議にも思われていなかったようです。
尤も同棲と言いながらも寝室は一応別なのです。
結婚式の後で主寝室を二人で使うことにしているのですが、メイド二人にはむしろそのことについて不思議がられてしまいました。
一応のけじめということで説明し、何とか納得してもらいました。
二人のメイドのお仕事は、家の掃除、洗濯、調理、接客など多岐に渡りますが、二人ともマリアが選別に困ったほど優秀なので左程停滞なく済ませています。
普段の買い物などでも特段のトラブルは無いようです。
因みに食材などはポートライナー港島駅近くのスーパーで済ませ、その他の買い物は場合により三宮界隈のデパートなどへも行かせているのです。
ペントハウスにはワンちゃんが一匹、猫が二匹居ます。
ワンちゃんは、1歳のゴールデンレトリバー、9月下旬に神戸市内のペットショップで見かけた時にはかなり弱っていました。
精神的な疲れから拒食症に陥り、放置すれば死ぬ恐れもあったので、そのまま放置できず優奈が買い取ったのです。
実家の家で9月末まで飼い、10月にペントハウスにお引越しです。
ペントハウスに来る頃にはすっかり元気になっていました。
名前はドラド、安直ですがスペイン語で「金色」なので、黒い犬に「クロ」と名付けるようなものですね。
猫はペルシャ猫とロシアンブルー、どちらも捨て猫の様でした。
一応、いずれも10月中旬に拾い(場所も日付も異なりますよ。)、規定の期間内に保護者が現れない場合には優奈が飼育する旨を伝えて保健所に預け、結局期間内に保護者が現れなかったので、優奈がもらい受けました。
猫の場合も鑑札が必要なんですが、元の飼い主はそれを外し、わざわざ車で遠くへ運んで放逐したようです。
捨てた理由は病気です。どちらも猫白血病ウイルス感染症に犯され、優奈が診た時には余命はどちらも1年足らずだったと思います。
おそらくリンパ腫ができたことで発病がわかり、良い治療法がないと知ったので捨てた可能性が高いですね。
感染症と知ったうえで捨てるなんて飼い主としてはとても問題な行為ですが、あいにくと立証は難しいでしょう。
猫白血病ウイルス感染症の一般的な対処としては抗ウイルス薬、インターフェロンなどの試験的治療が挙げられますが、実際のところ良い治療方法がないのが現実です。
しかしながら、優奈は、ちょちょいのちょいで抗ウイルス新薬を作り上げ、二匹の猫に投与して直しちゃいました。
二匹の捨て猫が同じ病気と言うことは、この病気が神戸界隈で結構蔓延している可能性があります。
優奈としては、新薬を発表するかどうか検討中です。
機材と原料さえあれば作り方はさほど難しくないのですが、どうしても必要な二次素材として、VXガスに類似する新型の神経ガス成分を産み出してしまうので、兵器に転用されるのが怖いのです。
場合によっては、優奈だけが生産する特別薬品として発表することも考えている最中です。
元の無責任な飼い主については猫ちゃんの思考を読み取って氏名住所までわかっていますが、元の飼い主に無理やり引き取らせても後々当の猫たちには良いことはないでしょう。
ペルシャ猫は、オッドアイで右目が綺麗な青色だったのでアズルとしました。
ロシアンブルーは、ヒスイと名付けました。
毛並みがとてもきれいな翡翠を思い起こさせたからです。
拾った時はどちらも薄汚れ、やせ衰えていましたが、今ではすっかり元気になって、二匹とも競うように優奈に懐いています。
ワンちゃんと猫ちゃん達は、優奈が思念で言い聞かせた所為かとても仲良しなんですよ。
但し、家でペットを飼うという事は優奈もそのほかの家人もペットに有害な感染症を持ち込んではならないのです。
ですから、優奈は病院内の出入りには消毒手洗いを履行し、家人や看護師事務員にも励行させています。
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