第212話 22-5 *耶祭(1)
優奈は、取り敢えず日水連への義理を果たしたので、再び学業に戻りました。
夏季休暇も残すところ1週間ほどしか残っておらず、9月17日には八王子市陸上競技選手権がありました。
優奈が参加できる数少ない競技会でもあるけれど、シャカリキになるほどの競技会ではない。
何時も気楽に参加して、参加者に範を見せる程度のことしかしていないのです。
出場種目は二種目だけに限定されているから、年ごとに出場競技を変えているのです。
今年は、砲丸投げと100mです。
砲丸投げは午前中、100mは一般女子の参加が少ないので予選が無く、午後からの決勝のみなんです。
優奈はピクニックがてら、弁当持参で八王子市上柚木公園陸上競技場に車で出かけました。
上柚木公園陸上競技場は不便な割に駐車場が少ないので、此処へ行くときは近くの商業施設の駐車場に御厄介になっています。
一応帰りに買い物はしてくるけれど、駐車場料金の方が高いのが玉に瑕であるし、歩くと20分近くかかることが問題点であり、当日雨が降っていれば濡れるのは嫌なので当然のように参加しないことにしているんです。
競技で濡れるからではなく、途中の道路で濡れてしまうのが嫌なのです。
それなりの成績を上げて、ちょこっとサイン会を行い、自宅に戻ったのは午後5時過ぎでした。
朝8時から家を出て半日陸上競技場及びその周辺で過ごしたことになりますね。
◇◇◇◇
10月7日から10月9日はオリンピック記念馬術大会があり、7日金曜日は参加できないけれど、そもそもフレンドシップ競技なので出なくてもよいのです。
昨年と同様にいくつかの障碍飛越競技と馬術競技に出場し、優奈個人では優勝して来ましたが、大学の馬術部としての成績は
◇◇◇◇
11月15日と16日は、半年前から予約の入っていた武蔵野大学*耶祭があるのです。
優奈の出番は16日(日曜日)の午後2時から2時間を予定しており、その後を相澤昌介さんが専属バンドを引き連れてお出ましの様です。
その際に若干の引継ぎのためのトークの時間が若干あるようですが、内容については特に決めておらず、優奈と相澤昌介さんの間で適宜の話をしてもらえばいいと実行委員長から言われているのです。
この時間は概ね10分程度を見込んでいるようですね。
武蔵野大学の在学生からのアンケートで、かなりの曲のリクエストがあり、優奈の判断で適宜の曲を演奏してほしいというのが、学生会の意向でした。
2時間近くあるとなると一曲4分としても30曲近くにもなるけれど、それはメドレーや連続で歌った場合であり、現実には演奏会として見た場合15曲から20曲の間が無理のないスケジュールになるでしょう。
優奈はそのために三つの系統の曲を選びました。
一つは若い歌手が歌っている歌で流行っている曲、二つ目はバラードで名曲として知られている曲、三つめは優奈が書き溜めた新曲の数々から選んだものなのです。
流行りの歌では、林優香の「紅花の恋」、小暮さつきの「あやかし幻夢」、SAPAの「Emotion」、Red Magiの「魔法の華」、富樫雄太の「Revolution」の5曲。
アップテンポのものもあれば、比較的スローな歌もあるけれど、傾向としてはリズムの速い曲が多い。
いずれも国内ヒットチャート上位の曲であるとともに歌手の実力もかなり上位に見られているものです。
ついでバラードは、新しい歌を避け、古い歌を選んだ。
「奏」(2004)、「初恋」(1983)、「秋桜(コスモス)」(1977)、「霧の摩周湖」(1966)、「Power of love」(1985)、「Jolene」(1973)の6曲
優奈の作詞作曲の歌では、「風の妖精」、「エンジェルダンス」、「湖畔の宿」、「月と古城」、「オディッセイア」の5曲です。
最後に年の瀬でクリスマスが近いことから「クリスマスイブ」を歌って終わるつもりですが、アンコールがあれば、もう一曲だけ、同じくクリスマスの歌「All I Want For Christmas Is You」を歌うことを考えているのです。
それぞれの曲を歌う前に若干のコメントを付ければ時間調整は十分可能なはずです。
衣装は特段ステージ衣装を用意する必要はないことを確認しています。
ステージ衣装は、自らを飾り立てる鎧のようなものです。
無いよりはあったほうが客に与える印象が違います。
だからタレントやアイドルは殊更に着飾り、印象を良くしようするのですが、アイドルタレントになりたくない優奈にとっては関心がないことなのです。
従って、いつもの動きやすいカジュアルな服装の予定なんです。
象牙色プリーツ仕立てのロングスカーチョと、赤銅色のブラウスはいずれもコーデュロイ生地を使っており、手触りが柔らかくパイル織は温かみを感じさせるものです。
足元はライトグレーのスエード・ショートブーツ。
髪型は定番のポニーテールにリボンタイプの髪留め。
今回は帽子は被りません。
その上に灰桜色のフード付き半コートです。
戸外に居る時は、そろそろ半コートが必要な時期になりました。
10月の武蔵野市は、日中で21度、朝の寒い時期は15度前後になるからです。
公演場所は、武蔵野大学6号館雪頂講堂で、座席数は600弱、両端通路及び最後部通路に立ち席で詰め込んでもおそらくは最大700前後でしょう。
事前に聞いていたところでは、摩耶祭へのミラクル・ユーナの出場という発表だけで凄まじい反響があり、ネット予約が1日目だけで1万余り、二日目には10万を超えていたというのです。
ために実行委員会は早い者順で決めるというわけにも行かず、ランダムな抽選方式を採用したのです。
但し、二人分の座席申し込みは別途に分けて100席50組だけ認めることにしたようです。
また、立ち席も作りました。
2時間の演奏会で立ち席はきついと思うのですが、学生達は自分たちの体力で物事を考えてしまう。
「行けるんじゃないか?」が、「いけるだろう」に変わり、「良し行こう」となるのに時間はかからなかったようです。
かくして100人分の立ち席を希望する者を再度募ったところ、またしても実行委員会の予想を裏切る1万人を超える応募があったのです。
そうしてこれほど期待値が高いのであればと抽選に漏れた人々のために、当日は第二体育館に特設ステージを作り、映像と音を送り届ける方式を採用することとして参観者を募ったところこれまた多数の応募者があり、三度目の抽選を行ったようだ。
第二体育館は800㎡ほどの広さがあり、詰め込めば1500人は余裕で入る。
こちらの方はチケットを1500枚作って座席指定なしの早いもの順とした。
複数のモニターパネルの連結と音響設備の設置及び折畳み椅子の設置で準備は整ったようである。
当日優奈が実行委員会差し回しのハイヤーで武蔵野大学へ入ると、驚くほどの人の波が待ち受けており、優奈を驚かせた。
後で聞いたところによると優奈の出入りを一目見ようと集まっただけの集団だそうである。
その人波の中を、車の周囲に10人ほどもガードマンが張り付いて人混みを押しのけるように徐々に道をこじ開け、やがて優奈の乗る車が6号館の正面玄関についたのです。
優奈が車から降りるなり無数のスマホが構えられ、写真をあるいは動画を撮られたようでした。
幸いにして、6号館の中までは人混みは入っていませんでした。
因みに実行委員会では、付け人ならぬ優奈の面倒を見る係として二名の女子学生を付けていました。
午後1時の開演で超満員の観衆に向かって*耶祭実行委員長の舘林勝が*耶祭の簡略な説明と併せて招待したエンターティナーの披露をしていました。
但し、相崎昌介さんはまだ到着していません。
そのご披露の紹介に合わせるように。優奈は袖からステージ―に進み出て、簡単な挨拶をしました。
それからエレクトーンの前に腰を下ろし、演奏を始める準備をする。
手元にあるマイクの位置を若干調整し、観衆に語り掛けました。
「本日は武蔵野大学*耶祭にお招きいただきありがとうございます。
関係者の皆様に改めてお礼を申し上げるとともに、本日お集りの大勢の皆様にもわざわざ会場までのお運びに心より感謝申し上げます。
今日の私の演奏は概ね三つのパートに分けられています。
最初のパートは、若い方ならば誰でもご存知であろうと思われる最近の流行り歌を5曲。
次いで、古いバラードが6曲の予定です。少なくとも18年以上前の歌になりますので、或いは若い方では聞いたことも無い歌かも知れません。
そうして最後は、私の作詞作曲の歌が5曲、時間があれば別の歌を歌えるかもしれません。
リハーサルなしのぶっつけ本番ですので、進行の甘いところがあればそれは私の責任です。
どうかご容赦くださるよう予めお願い申し上げておきます。
それでは第一のグループです。
林優香さんの「紅花の恋」、小暮さつきさんの「あやかし幻夢」、SAPAさんの「Emotion」、Red Magiさんの「魔法の華」、富樫雄太さんの「Revolution」です。
これは休みなしのメドレーで一気に歌います。
それではお楽しみください。」
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