第133話 14-3 オリンピックの後

 優奈ばかりが目立ったオリンピックが終了した途端、あちらこちらからマラソンのご招待が届き始めました。

 住所は、公表していないので東京陸協か日本陸連経由です。


 ネットではマンション名まででていますけれど、住所がベリエール武蔵境ということはわかっても、それだけでは郵便物は届かないのです。

 一度郵便局から手紙が来たことがあるのです。


 戸番表示のない郵便物はどうするかという問い合わせでしたが、差出人へ戻してもらうようにお願いしたので、既にばれている建物名だけでは届かないのです。

 家からの連絡では、神戸陸協や兵庫陸協経由でもいろいろ来ているようなのでその分をメールで教えてもらっていて一覧とその概要(メイドのマリアが頑張って作ってくれました)から急ぎのものはないと分かっていますので、帰省した時に整理することを考えています。


 もう一つ、日本近代五種競技連盟、日本フェンシング連盟、日本水泳連盟、日本馬術連盟及び日本射撃連盟からも競技会のお知らせというのが日本*医生命科学大学経由で頻繁に届くようになりました。

 最近ではその数も多くなったので、日本*医生命科学大学の事務部の中に優奈専用のメールボックスが作られて、事務部からは毎日覗いて行くように言われています。


 流石に溜まると置き場所にも困るようですね。

 そのお陰で、事務部のお姉さんたちともすっかり仲良くなりました。


 国体への参加も、東京陸協から東京代表として求められたりするのですが、心情的にも日程的にも無理なので丁重にお断りしています。

 基本的に車で数時間、JRで数時間の範囲以外へは行かないことを原則として考えることにしているし、兵庫県及び東京都に仇なすような参加はしないと決めているのです。


 従って国体出場や全国駅伝への出場は有り得ません。

 勿論夏休みや冬休み等その時の状況によっては再検討することにしています。


 当面は八王子、武蔵野あたりの競技会へ、大学の同好会員達と出るのが一番無難の様です。

 日本陸上競技選手権の方は、長野で行われる混成競技は参加、そうではない方は、土日にかけて参加できるものだけに限定して参加。


 金曜日の参加は余程近い場所でなければ難しいだろうし、少なくともいくつかは間違いなく参加できないに違いないのです。

 マラソンは、東京マラソンから招待が来ているのでこちらに参加することにしました。


 神戸マラソンは、往復の時間がもったいないので今のところ見送りです。

 ソウルマラソンは、土日だけで限定すると少し無理があります。


 春休みが概ね3月21日からなので、第三日曜が20日の場合は行ける可能性もあります。

 その時はソニンに会いにも行けるでしょう。


 例えば2021年及び2022年はソウルマラソンに参加できますけれど、2023年は19日が第三日曜日のために無理なのです。

 他の海外マラソンは、往復の時間がかかるので、基本的に在学中の出場は無理と考えています。


 大学を卒業したならしたで、また出場は難しくなるに違いないと思っています。

 趣味とは仕事をないがしろにして継続するものではない筈だから・・・。


 優奈は8月11日に神戸へ帰省しました。

 夏休み期間中は、道路も混み合うので、自家用車ではなく、新幹線で神戸に帰省です。


 上京してから初めての帰省であり、少し長く東京方面に行っていたという感覚に近いのですが、これから徐々に意識も変わって行くのだろうと思います。

 高校時代の友人とは、種々メールでのやり取りもしているけれど、進路が違うので徐々に話も合わなくなってくるのは目に見えています。


 それでも友人は友人なんです。

 気兼ねなく付き合えるところがいいのです。


 神城高校の三校定期戦は帰省した11日にあり、観戦はできませんでしたが、その後のOB総会には出席できました。

 理子にも会えたし、現役の後輩とも会うことができました。


 現役は中々頑張っているようです。

 それと同級生で就職している者はまだ居ないのだけれど、皆さんアルバイトはしているらしいのです。


 理子は、現在住居近くのマク〇ナルドでアルバイト中だそうだ。

 優奈は、アルバイトはしていないとだけ答えました。


 こんなところでJOCから1億円を超える額をもらえるので、アルバイトはする必要がないなんて言うと「しかと」されるに違いありません。

 親しき友であっても知らせる必要のない情報は状況に応じて控えるべきなのです。


 親睦会は、お酒の飲める人とそうでない人に分かれました。

 優奈達は、現役高校生を引き連れてカラオケに行きました。


 但し、高校生を引き留めるのは8時まで。

 その後は大人?になりかけの未成年で少し騒いで9時には解散しました。


 優奈にしては、安いワリカンでしたが、アルバイトをしている苦学生にとっては小遣いが減った痛いワリカンだったかもしれません。

 何しろ懇親会出席で5000円、カラオケ代は食べ物や飲み物を含めて2500円になったのです。

 少なくとも1日のバイト代は確実に消えたことでしょう。


 ◇◇◇◇


 東京陸協からは東日本女子駅伝に参加してもらえないかという打診が来ています。

 東日本女子駅伝は毎年11月の第二日曜日に福島で開催される東日本18都道県の代表が出場する駅伝なのです。


 開催地までは車で4時間、新幹線だと東京から福島まで3時間半ほどかかるので武蔵境からだと車の方が多分速いことになります。

 前日の土曜日に現地で集合して練習を行い、駅伝が終了次第、単独で戻る方式なら参加しても良いが、延期その他には対応できない旨を伝えています。


 東京陸協の森脇理事は検討すると言って、一旦電話を切りました。

 こちらが未成年であり、管理できない状態での一人旅は問題があると考えたのじゃないかと思います。


 8月末日になってメールで返事が来ました。

 陸協の者が送迎をするからそれで向かう方式にできるかという話でした。


 優奈としてはどう言う形であれ土曜日出発、日曜日中には家に戻れる対応であれば差し支えないと答えました。

 また強化練習も前日以外には基本的には対応できないと考えてほしいとお願いしたのです。


 森脇理事はその点は十分承知していると言った上で、京都で行われる都道府県対抗女子駅伝への参加は駄目だろうかと尋ねて来ました。

 京都の駅伝も出場だけなら本来は大丈夫なのでしょうね。


 12時半スタートで3時には終わります。

 新幹線で2時間半あれば東京には戻れるからその日の内に武蔵境へ戻ることはできるけれど、一方で優奈は神戸市が故郷である。


 優奈が東京代表で出れば、兵庫県に居る先輩や後輩たちが悲しむだろう。

 従ってそれはできなかった。


「都道府県対抗に東京代表で出るのは勘弁してください。

 その代わり東京にいる間は兵庫県代表にもなりません。」


 優奈はそう返事をし、森脇理事も仕方がないなと言って納得したようです。



 8月に入って東京マラソンの事務局から招待状が届きました。

 2021年2月28日に開催される東京マラソンですが、優奈は19歳になっているので出場可能なのです。


 主催者としても、世界記録保持者であり、東京オリンピックの金メダリストである優奈を差し置いて他の選手を招待選手に招くことは当然にできないのです。

 招待選手は、優奈のほかに、東京オリンピックの女子マラソンで第二位となったケニアのムババ選手、それにオリンピックで第五位に入賞した小笠原洋子選手の三人が女子では招かれているようです。


 優奈は、参加する旨の返事をしました。

 招待選手は、大会の参加料を支払わずに済むことになっているのです。


 優奈は、赤い文字の入ったゼッケン201をもらうことになりました。

 因みに男子の招待選手及びエリートクラスのゼッケンは101から始まるのです。

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