第102話 12-8 放送局巡り in Seoul(1)

 3月9日、優奈を含めて4人の女性は、韓国仁川行きのJAL航空機に搭乗していました。

 関西空港を0930に出発、韓国仁川空港へは1120に到着しました。


 イミグレーションと税関で時間がかかり、荷物の受け取りでさらに時間を要するから、空港を出たのは午後1時になりました。

 仁川空港からソウル市内までは旅行会社の手配したリムジンで凡そ1時間、午後14時頃優奈たちが宿泊予定のインター・コンチネンタル・ソウル Coexに到着したのです。


 部屋は、クラブラウンジのスィートルーム二つです。

 混み合うフロントを避けてクラブラウンジへと案内され、バトラーがチェックインの作業を行ってくれました。


 基本的にクラブラウンジでの飲み食いは無料なのです。

 小腹がすいていたので、荷物を部屋に置くと四人揃ってラウンジに集まり、少し早いおやつタイム、あるいは少し遅いブランチタイムとしました。


 実は、ソニンからは2月半ばに連絡が入っていました。

 先日、ソニンのマネージャーから6大音楽番組のテレビ局であるKBS、MBC、MBC Music、SBS、Mnetの5放送局に連絡を入れたのですが、何処から漏れたのかFM系のソウルWBS、TBS、KFM、衛星系のSky Life、TU、Cable TV系のJTBC、KMTVまでもが次々と生放送や収録放送の出演依頼をしてきている状況で、何処かを外すという雰囲気ではなくなっているので各放送局について一回だけ、生放送若しくは収録を認めるという方向で調整をしたいがどうかという打診でした。


 全部で12局、滞在期間は実質10日から14日の五日間だけですから、できなくもないけれど結構拘束されそうなのです。

 それでもソニンが困っている様子なのでソニンにすべて任せると承認を与えました。


 2月末になってソニンから知らされたスケジュールは、

  9日19時からFM ソウルWBS で生放送

  同日20時半からFM TBS で生放送


  10日14時からTUで収録

  同日16時からKMTVで収録

  同日18時からJTBCで収録

  同日20時からTHE SHOW(SBS)で生放送


  11日18時からSHOWCHAMPION(MBC Music)で生放送


  12日10時からM!COUNTDOWN(Mnet)で収録


  13日18時半からMUSICBANK(KBS)で生放送


  14か13時からSkyLife で収録

  同日15時40分から音楽中心(MBC)で生放送

  同日18時からFM KFMで生放送


  15日15時40分から人気歌謡(SBS)で生放送

というハードスケジュールでした。


 マラソン当日にも出演というのは本当に有り得るのかなとも思えるのですけれど、まぁ、インタビューはマラソン直後にする場合も多いからと思い直し、止むを得ず了承しました。

 ソニンとほぼ毎日一緒になる訳ですが、それでも仕事以外でも二人でソウル観光はしてみたいものですね。


 幸い12日10時からどの程度の時間を収録にかかるかはわからないけれど、午後からは観光ができるのではないかと思うのです。

 ソニンに訊くと即座にOKが来ました。


 但し、もう一つソニンのミニ・コンサートにも出演してほしいとおまけが付いてきたのです。

 11日のお昼に音楽の殿堂にある野外劇場で40分間、ソニンのミニ・コンサートがあるらしいのです。


 ソニンには、出演することで金をもらうとまずいことになりそうだから、出演料無しなら出るよと答えておきました。

 ソニンからは、慌てて各放送局との契約を見直すと言ってきました。


 どうやら優奈の出演料を出すことで交渉していたらしいのです。

 タレントならば、当然でしょうが、こちらはタレントではないし、観光ビザで入っている観光客が興行収入を得てはまずいでしょう。


 いずれにしろソウルに着いた当日から忙しくなってきました。

 午後4時には、ソニンがスタッフ数名と優奈のホテルにやって来ました。


 午後7時からのFMソウルWBS での生放送は、特段のリハーサルは無く、放送局側からはパーソナリティのチョ・ヨンとの質疑応答が約10分、ソニンとユーナのデュエットができれば二曲、それに聴取者からのリクエストに応える形で1曲を歌って欲しいとの要望があるようです。


 多少伸びたにしても30分以内に終わる筈なのです。

 歌えない歌のリクエストがきたらどうするかという問題もあるけれど、それよりもデュエット二曲をどうするかでソニンが相談しに来たのです。


「一つは、ソニンが歌いたい歌を選んでくれる?

 仮にパンソリであっても合わせられると思うよ。」


 優奈がそういうとソニンは驚いて言った。


「ほんとに?

 じゃぁ、パンセリに近い『해운대 엘레지(海雲台エレジー)』か、それとも『자진뱃노래(舟歌)』かなぁ。

 それか『나가거든(If I Leave)』ならユーナも合わせやすいんじゃないかと思うけれど、どうかな?」


「ソニンの声に合っているのは『자진뱃노래(舟歌)』かな。

 でも聴衆が聞いてわかりやすいのは、多分『나가거든(If I Leave)』だね。

 因みに伴奏はあるの。」


「生は無いと思う。

 そもそもFM放送局にそんな余裕はないから。

 でもこれまでに収録したバックならあると思う。」


「じゃ、そのバックを使うか、若しくはアカペラ?」


「ううん、私のバンドを5人ほど連れて行こうかと思ってる。」


「5人・・・。

 まぁ、ソニンならそれでも行けるかな。

 でもせめてFM局でエレクトーンぐらい用意できないだろうか?」


「シンセザイザーじゃだめ?

 シンセならあるけれど・・・。」


「ダメじゃないけれど、鍵盤が1段だけなら少し音が足りないかも。

 シンセサイザーなら少なくとも二つを組み合わせたものならOKだよ。」


「ふーん、じゃぁ、マネージャーに確認させるわ。

 もしあればそれを使うと言うことね?」


「そう。なければレンタルという手もあるけれど・・・。

 ヤ❆ハのELS-02Xぐらいがあればいいけれど、・・・。

 なければD-deckでも構わない。」


「ヤンさん、FM局と早速交渉してみてくれる?

 それに他の局もね。

 用意できなければ、レンタルに頼むことにしよう。

 明日以降もあるからレンタルなら少なくともユーナがソウルに居る16日まで。

 今日はまっすぐFM局に直行として、保管場所はうちの事務所で何とかできるでしょう。」


「ソニン、もう一つはエレクトーンが用意できたら新しい歌を歌ってみる?

 ソニンに合いそうなやつ、三つ持って来たよ。」


「楽譜?

 それともCD?」


「どっちもあるよ。

 CDの方は、スピーカーは無いからイヤホンになるけれど。」


「とりあえず、見せて、見せて。

 CDはそのあとで聞くよ。」


 優奈は数枚の楽譜をソニンに渡した。

 ハングルで歌詞も記入してある。


 ソニンは魅入るように楽譜を眺めていて、ふぅとため息をついた。


「いい曲だと思う。

 でも、どう歌えばいいか掴めない。

 それにテンポが速いね。

 歌えるかなぁ。」


「ソニンなら絶対に大丈夫だよ。

 歌い方はソニンの感性で決めた方がいいけれど、参考までにCDを聞いてごらん。」


 そう言って優奈はイヤホン付のCDプレーヤーを差し出した。

 ソニンはそれを受け取り、すぐに再生した。


 目を閉じて身じろぎもせずに聴いているが、その目の端から一筋涙がこぼれた。

 それを手の指で拭ってから言った。


「本当にいい曲・・・。

 何だろう?

 K-POPでもないし、韓国演歌でもない。

 でもノリがいい。

 高校生ならきっと踊り出す。」


「歌ってみる?

 2番でエレクトーンの伴奏だけになるけれど、取りあえずは1番のままで合わせてみて様子を見るといい。

 その後で2番の伴奏で自分なりの解釈で歌えばいい。」


 スィートの部屋にソニンの心持ち遠慮がちなソニンのアカペラが響く。

 伴奏はソニンしか聞いていないのだからアカペラしか聞こえない。


 だが、ソニンが膝を叩くリズムがとても目新しく心地よい。

 それが二度三度と続いた。


 ソニンが、2番を押して再生しながら声量を上げる。

 そこへ、優奈がスティックを取り出して、机をたたき出した。


 そのリズムに合わせて、体を揺らしながらソニンが歌う。

 そうしてソニンが歌い終わって尋ねた。


「どうだった?」


「最高だね。

 生放送でも行けるよ。」


「うん、ありがとう。

 ユーナ、今の歌い方で合わせられる?」


「ばっちり、大丈夫。

 エレクトーンが用意できればこの歌も使えるよ。」


 ソニンのスタッフも、ユーナのガード・ウーマン達も目を白黒している。

 何しろよくわからない新曲とやらを、楽譜を見てから1時間足らずでソニンが歌いあげているのである。


 特に、3人の女史たちは韓国語がほとんどわからないから、ソニンと優奈の会話が全くわからず戸惑っているのです。

 それでも葉山女史などは大橋美空の一件で優奈の特異な才能は十分に知っているから、それに匹敵する才能を有するのがソニンならば、譜面を見て頭の中で理解し、初見で歌える一流の歌手なのだと思っていた。


 そうして、その話を他の二人にも伝えたのでした。

 午後6時、タクシー3台とバンで一行はFMソウルWBSに向かいました。


 エレクトーンは、放送局にあることが判明したので、レンタルはとりあえずしないことになりました。

 明日以降の分は別途確認中なのです。

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