第101話 12-7 マリアンヌ洋装店
今回優奈が上京して来たのは、マンションのコーディネートの確認以外にも目的があり、衣類を含め、生活に必要な消耗品をある程度揃えるためなのです。
防災グッズ、下着、トイレットペーパー、ティシュー、化粧品、浴用品、電気掃除機を除く掃除用具、消臭剤等々結構必要な小物類がたくさんあるのです。
そんなものを神戸で買い込んでマンションに送るのはよほど安い場合は別として、それらを送る労力と送料だけでも馬鹿になりませんからね。
そんなわけで、優奈は武蔵境の駅前にあるイトー○ーカドーに行き、真っ先に買い物かごがついているショッピング・カートを購入して、順次リストに挙げておいた買い物を始めます。
その日は、ショッピングカートに荷物を山程積んで、3回イトー○ーカドーとマンションの間を往復しました。
食料品関係は転入してきてからでもいいのです。
下着類も購入しましたが、店員さんにサイズは間違いないですかと何回も念を押されてしまいました。
太目の大女がMサイズのキャミソールやショーツを買うと変な目で見られるのです。
ブラは少々大きめだから外から見える体形に合っていそうなのですが、ショーツやキャミソールは小さ目というか、普通に考えて見えるままの体形ならば絶対に小さ過ぎるのです。
それでも何とか売ってくれた店員さんですが、きっと後で同僚と陰口を叩いているのかもしれませんね。
翌日はオーダーの洋装品店に出かけての注文です。
❆ーグルマップで探すとマンションの近くにマリアンヌという洋装店があるらしく、そこではオーダーメイドを受注しているようです。
優奈は、最初にそこを訪ね、もう一軒、吉祥寺の別のお店にも行ってみるつもりでいました。
マリアンヌ洋装店は、さほど大きな店ではありません。
女性が三人ほどでやっている店の様です。
優奈が入って行くと店員さんがちょっと奇妙な顔をしています。
多分デザイナーとしての勘から優奈の容貌に違和感を覚えているのだろうと思うのです。
太目の大女で、カツラでごまかしては居るものの、どうしても顔が細身の小ぶりのままなのです。
本来なら太る時は顔も丸くなるはずなのです。
「すみませんが、こちらではカジュアルなオーダーメイドもできますでしょうか?」
「できるけど・・・・。
貴女、ひょっとして変装してる?」
「へへへ、わかっちゃいましたか。
元がわからないようにちょこっと変装してます。」
「ふーん、オーダー作るなら下着姿になってもらうけれど構わないかい?
このままの外形で計ったらとんでもないのができてしまう。」
「ご内聞にしていただけるなら構いません。
で、中身の寸法でデザインの異なるもの三着と、この外形での服も二着ほど作っていただけますか?」
「やれやれ、そんなに変装が好きなのかねぇ。
まぁ、お金さえいただければ仕事はするよ。
で、カジュアルってどんな感じが良いのかな。
ワンピース、それともスカートにブラウス?」
「三着のうち一つはロングのスカーチョとそれに合うサマージャケットをお願いします。
後の四着のデザインはお任せでお願いします。
但し、できればミニは勘弁してください。」
「ふーん、若い子がミニを嫌がるのは初めてだね。
本当に変わった子だよ。
じゃぁ、そのままで一旦サイズを測らせてもらうよ。」
女三人がとんでもないサイズを測り出した。
外見は本当に太めの大女である。
ぺったんこの運動靴を履いている筈なのに身長は180センチ近くもある。
とにかく必要な寸法を測り終えると、リーダー格の女性が言った。
「さて、脱いでもらわなければいけないけれど、奥の工房にしよう。
ここじゃぁ何時お客が入って来るかもわからない。
サリーさん、表に昼休み中の札を上げといて。」
「あいよ」と、サリーと呼ばれたオバサンが返事した。
優奈は奥の部屋に連れ込まれました。
そこで下着になる訳だけれど、最初にワンピースを脱いだ時点で、ゲッと女三人が
胸の下から腰に掛けてバスタオル三枚が巻かれていたからです。
「これじゃぁ、夏場は無理だろう。
今までどうしていたんだい?」
「この扮装を始めたのは昨年の11月からですが、もうそろそろ限界かもしれません。」
「そりゃぁ、そうだよぉ。
こんな格好で夏場にでも歩いたら熱中症で直ぐに倒れてしまうよ。」
「まぁ、その辺は何とか工夫したげるけど、わきの下とか胸回りとかは難しいね。
精々ムームースタイルかなぁ。」
「その辺はもう全てお任せします。」
そう言って優奈は、厚手のバスタオルを外して行く。
現れたのはスレンダーな細身の体に長い脚、見事なおっぱいの身体であった。
女三人が呆気に取られている中で、優奈がカツラを外し、メガネを外した。
「あんれ、まぁ、・・・・。
うちにスーパーモデルが来たってかい?
あんた・・・。
確か・・・、ミラクル・ユーナじゃないの?」
「はい、そう言われることもありますね。カヤマユウナと申します。
こちらの服もお願いします。」
「はぁ、なるほどねぇ。
確かに変装でもしなけりゃ、男どもがわんさかと寄って来そうな顔とナイスバディだよ。
昨年の秋口に吉祥寺で騒ぎがあったはずだけど、あれもあんたなんだろう?
何でも日本*医生物科学大学に入るとかで噂になってるけど・・・。
うーん、まぁ、それはいいか。
カジュアルといやぁ、ジーパンが定番だけれど、あんたの足の長さじゃきっと普通のジーパンも寸足らずになるんだろうね。
となると、一つは注文のスカーチョとして、もう一つはパンツルックを考えてみるかい。」
そう言いながらも優奈の身体のサイズを測りまくる三人のオバサンたちである。
サイズを測って言った。
「良し。
で、あんた、住まいはこの武蔵境かい?
それとも別かい?」
「内緒にしておいてくださいね。
4月からベリエール武蔵境に住むことになります。」
「うん、じゃぁ、同じ市内に住むアイドルのために一生懸命サービスしてあげる。
だから、服を作る時はうちに来なさい。
いいわね。」
思わず勢いで「はい」と言ってしまった優奈でした。
そのおかげで、これから6年間、このおばちゃん・小泉真利亜さんとお付き合いすることになったのです。
結局、吉祥寺のお店に行くのは取りやめにしました。
その代わりに吉祥寺の東急デパートの婦人服売り場を覗いてブラウス、カーディガンなどを購入しました。
ここでも随分とサイズを心配されましたけれど、変装を見破られることはありませんでした。
3月3日は神戸に戻る日であったのですが、更に買い物がありました。
ヅラというか、
近くの店で購入するのは拙いので、優奈は八王子まで足を延ばしたのです。
八王子には全国展開のウィッグ専門店がイトー○ーカドーのモールにあって、カツラも豊富にそろえている店があるのです。
優奈は変装のまま八王子に赴き、目的のカツラを3セットも購入してマンションに戻りました。
これ以上の物を用意するのはオーダーメイドにする必要があり、そのような専門店が表参道にあることは知っています。
取り敢えずは、これで様子を見て必要に応じて表参道の方にも行ってみるつもりでいるのです。
但し、当該専門店は完全予約制のようなのです。
◇◇◇◇
優奈が神戸に戻ったのはその日の午後8時過ぎでした。
3月末日までに入学金と教科書代など合わせて279万5千円を納めなければならなかったのですが、指定された口座に振り込めばいいようになっているのです。
3月4日みずほ銀行灘支店でその手続きを行い、事前の日本*医生命科学大学への入学手続きは全てが終了しました。
後は入学式に行って、所要の手続きをするだけなのです。
尤も、両親は父兄会なるものに半強制的に入れられています。
単なる金集めの団体に過ぎないので、多少の寄付金には応ずるにしても両親は父兄会の会合については全てすっぽかすつもりらしいですよ。
因みに大阪あたりでも年に一度の説明会が催される様なのですが、優奈が上京すれば疑似DINK(Double Income No Kids)になる敦夫・聖子の夫婦です。
当然のことながら、そんなつまらない会合に仕事を休んでまで出席するわけがないのです。
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