第96話 12-2 京都神社詣で

 1月7日に始業式があって三学期が始まりました。

 高校三年生にとっては試練の時期がやって来たのです。


 1月11日及び12日はセンター入試があります。

 進学率がほぼ100%の神城高校三年生のほとんどがセンター入試を受けることになるのですが、優奈は受ける必要がないために13日(成人の日)までの三日連休になっているのです。


 4月になると優奈は関東に移ってしまうことになるので、この三連休を利用して京都のお爺様とお婆様にご挨拶に行きました。

 因みに都道府県女子駅伝も1月12日なのですが、高校三年生は出場しないのが慣例なのでそもそもがメンバーに選抜されていないのです。


 優奈が日本*医生命科学大学に合格したことは、11月に通知が来た時に岸本家の叔父様に電話で知らせています。

 優奈が行くと祖父母二人がにこやかに迎えてくれ、大学合格のお祝いを言ってくれました。


 祖母が笑みを浮かべながら優奈に尋ねた。


「でも、優奈が獣医さんの大学に行くとは思ってへんかったわぁ。

 何で医大を受けなかったのやろ。

 優奈の成績なら医大でも十分合格したのどっしゃろ?」


「正直なところ、どちらでも良かったのやけど、人間相手の医者はお父様とお母様に任せることにしたのどすえ。

 人間が相手だと難しい決断を迫られるし、いわれなきことで恨みを買うこともありますぅ。

 お医者様って結構面倒なんどすぇ。

 で、お父様やお母様ではできない動物の病気を扱ってあげようと思うたのどすえ。

 人とは違って、見放す場合でも少しは心の負担が軽うなりますよって。

 それに動物は人と違って文句も言えませんからね。

 できるだけその気持ちを汲み取ってあげたいと思ってますのや。

 その意味では飼い主よりもペットを大事にするお医者様に多分なるんやないかな。」


「あらら、随分と面白い獣医さんが生まれそうやね。

 それでも、獣医と云えば大阪にも獣医学部がある大学があらはったやろに、・・・。

 何で関東を?

 親元を離れたくなったん?

 敦夫さんも聖子もどちらかというと放任主義やから、余り口出しせぇへんと思うのやけど、ちごうたどすか?」


「へぇ、大阪府立❆南大学にも獣医学部はありますぇ。

 でもなぁ、できてまだ十年ぐらいしかたっていないものやから、教授陣がなぁ、少し心細い感じがするのどすぇ。

 あくまで個人的な感想やから、ホンマにそうかどうかは入ってみんとわからへんけどなぁ。

 大学は本来教えてもらうというよりも自分で学ぶところやから、必ずしも問題にしなくてもええのやけど・・・。

 仮に教授陣の能力が低ければどうしても教えを受ける学生の能力も低くなり易いのどす。

 一応受験するにあたって、関連する大学の教授や助教授や講師、それに大学院生の論文にもできる限り目を通したんえ。

 その中で、一番よさそうなのが日本*医生命科学大学だったんやわぁ。

 国立では東大がそれなりに良かったのやけど、ウチは、東大生はよう好かん。

 そやから、東大は受験しようと思わへんかった。

 後は、大学に通うために6年も同じところ住むのやから、居住地の利便性なんかを考えると、日本*医生命科学大学しか有れへんやった。

 お父様とお母様は、最初からウチの好きなようにしたらええと言うてますぇ。」


 祖父が苦笑しながら言った


「うーん、竹芝のボンの所為で、東大もエラい嫌われてしもたなぁ。

 そう言えば、竹芝のボンは、国土❆通省に入っていたんやが、先ごろとうとう頭がいかれてもうて、仕事中に奇妙な言動が出るようになったらしいわ。

 結局、見るに見かねた上司から勧められて、クビになる前に親から依願退職を出して、今は福知山の方に戻っとるらしいのや。

 あのボンは、頭は良かったかもしれへんが、人間としてはちぃとおかしかったやしぃ・・・。

 田舎に戻った方が他人ひとに迷惑をかけへんで済むかもしれへんなぁ。」


「ところで向こうで住むところは、もう決まったのどすか?

 女の子やし、妙なところへは住まれへんどすえ。」


「へぇ、まだどすえ。

 一応ネットで候補を選んで、この月末にでも現物を観てから決めようと思うてますのや。

 近くに女子学生ばかり集めたドミトリーもあって、寮費も安いみたいやけど、・・・。

 どうも寮内の習慣に縛られそうなんで一応候補から外してますぅ。

 私大の女子学生が多いから遊びに染まってもいかんやろと思うてんのやけど・・・。」


「ほやなぁ、優奈の事やから滅多なことではなびかんとは思うけど、年頃の女の子ばかりやしねぇ、

 優奈がその中に入ると、多分もの凄う目立つやろから、変な対抗心をあおってもしょもないわなぁ。

 女は年齢に関わらず虚栄心が強い生き物どすから、同性であっても注意せなあきまへんぇ。」


「そんで、住むところに保証金とか必要なら言うたらええ。

 優奈のためやったら、なんぼでも出したるでぇ。」


「ありがとう、おじいちゃん。

 でもお金の心配はいらへんの。

 ロンドンの世界陸上に行った時の賞金がまだ仰山ぎょうさん残っとぅやし。

 だから、場合によってはマンションでもうてしまうかも知れへん。」


「ほう、マンションを買うとなると中古でも二千万や三千万を下るまいなぁ。

 そないに余計もらっとったかいな?」


「へぇ、おかげさんで随分と贅沢させてもらってますえ。」


 暫くぶりに会った優奈と祖父母の話はなかなかキリがない。

 半日を使って祖父母とゆっくり語り合った優奈でした。


 二日目、優奈は朝早くから岸本家を出て、京都市内の神社巡りなのです。

 別に優奈が信心深いわけではないのだけれど、暫くは京都にも来られないだろうからしっかりと京都を見ておきたいと思ったのでした。


 最初に北野天満宮、次いで北へ1キロほど離れた今宮神社、更に北東へ1.5キロの上賀茂神社、そこから南南東へ3.5キロほど下がって下賀茂神社、さらに約4.5キロ南の八坂神社そうして再度北へ上って平安神宮の順番である。

 新京極にあるお爺様の家から出て戻って来るまでに25キロほどもあるので歩くと相当に時間がかかるのです。


 そのため移動のほとんどを、タクシーを使って周り、最後の平安神宮では中庭を拝観した後、平安神宮前にある茶寮で休息を兼ねて軽食を食べました。

 それから最寄りにある国立近代美術館と京都市美術館を訪ねたのです。


 国立近代美術館で2時間、京都市美術館で3時間を過ごし、新京極に戻った優奈ですが、近代美術館のとある大きな絵画の前でじっと見入っているところを写真に撮られたことには気づいていませんでした。

 半年後その写真が二科展の写真の部で優秀賞を取っていました。


 表題は、「日本画に魅入る少女」であったそうな。

 写真家は何の気なしに撮影し、後で良い写真と気づいたのかもしれないが随分と失礼な話です。


 一端のカメラマンならば肖像権が如何なるものかを知っている筈ですよね。

 ましてやそれが有名人であれば無断で撮っていいはずが無いのです。


 案の定、発表から1月経って一般人からの指摘があって問題となり、二科展事務局から優奈に照会の手紙が届いたのです。

 無論、優奈の住所は公開されていないので神城高校経由でした。


 その結果として異例のことながら優秀賞は取り消されたのでした。

 二科展事務局からは優奈の元に丁重なお詫びが届いていました。

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