第83話 10-6 高校最後のインハイその他
2019年5月11日、12日の両日、インハイ地区予選が行われました。
優奈の出場種目は、前年と同じく、七種競技に加えて100mと400mHの二種目です。
他の種目に替えても良かったのですが、敢えて前年と同じにしたのです。
インハイ17種目でこれまで優奈がやったことのない競技は5000m競歩だけですね。
昨年までは円盤投げも未経験だったのですが、今年はそれもクリアして世界記録保持者なんです。
地区予選では、世界新記録は生まれませんでしたが、砲丸投げで日本記録を更新しました。
結果として、
100m 10s03
400mH 47s32
400mR 45s68
1600mR 3m45s31
100mH 11s89 1297点
走り高跳び 2m21 1526点
砲丸投げ 18m56 1101点
200m 20s02 1396点
走り幅跳び 8m07 1549点
槍投げ 81m11 1470点
800m 1m42s13 1412点
合計得点 9751点
でした。
優奈も全力を出し切っているわけではないのです。
かなりの余力を残しながらの競技出場でした。
一応の目途として2020年の東京オリンピックをピークに持って行きたいとは考えているのです。
そのための雌伏の時期と考え、技術的な練度を上げようとしているのです。
オリンピックでは、おそらくかなり多数の種目に参加する可能性があります。
既存の種目で言えば、参加資格は別として参加できないのはおそらくハンマー投げ、3000m障害それに競歩競技だけになる筈です。
その場合10日前後の期間で全種目をこなすには相当のスタミナが必要なのです。
しかも日本の夏は蒸し暑い。
競技を夜間に行ってもなお、体力は奪われることになりますよね。
如何に省エネで競技をこなすのかが課題なのです。
そのためには闇雲に走り、投げ、跳んでいては駄目なのです。
特に優奈が目論んでいるマラソン出場がなった場合でも、マラソンを午前中に走って、午後8時以降に400m、1500mを含む数種目に出場をしなければならないことすらも考えているのです。
盛夏の時期に果たして2時間を切る速度で走り続けるスタミナがあるかどうかは不明ですが、努力はすべきでしょう。
マラソンに出たからと言って、同じ日の競技に影響が出た時の言い訳にはしたくないのです。
だからできる限りエネルギーのロスを少なくして最大の効果を得るように試行錯誤している状況なのです。
今全力で走り、投げ、跳んだなら世界記録の更新になることはわかっていても、抑えている状況にあるのです。
マスコミに訊かれて困ることはありません。
記録更新に向けてできる範囲で努力していますと言えばいいからです。
オリンピックのために力を蓄えているという一面はあっても、それが真実なのだから特段周囲の評価を恐れる心配もありません。
5月25日から27日にかけてインハイの県予選がありました。
優奈は個別の種目では世界記録は無かったのですが、砲丸投げで日本記録を更新しました。
また、七種競技の合計得点で地区予選を上回りました。
100m 10秒02
400mH 47s29
400mR 45s34
1600mR 3m43s21
100mH 11s88 1299点
走り高跳び 2m25 1582点
砲丸投げ 18m61 1104点
200m 20s01 1397点
走り幅跳び 8m10 1560点
槍投げ 81m47 1477点
800m 1m42s09 1413点
Total 9832点
6月2日の記録会には、調整のために参加せず、王子競技場で個別練習を行いました。
◇◇◇◇
6月8日、9日の両日、長野で日本陸上選手権混成競技がありました。
7日放課後に神戸を離れ、新神戸から1626発の新幹線で名古屋へ、名古屋から「特急しなの」で長野へ向かい8時40分頃に長野駅へ到着しました。
槍と砲丸はその前日に宅急便で長野の旅館に送っています。
翌日から2日間かけた混成競技で、
100mH 11s86 1302 WR
走り高跳び 2m26 1597
砲丸投げ 18m74 1113 NR
200m 19s94 1405 WR
走り幅跳び 8m09 1556
槍投 げ 82m01 1487
800m 1m42s01 1415 WR
Total 9875 WR
の成績を上げ、四つの世界記録と一つの日本新記録を作ったのです。
◇◇◇◇
6月14日から奈良鴻ノ池陸上競技場でインハイ近畿予選が行われました。
神城高からは19名のメンバーが近畿大会へ出場しましたが、かつてない規模なのです。
女子では、100mで2人、200mで1人、400mで3人、800mで2人、1500mで2人、3000mで3人、400mリレーで4人、1600mリレーで4人、100mHで1人、400mHで1人、走り幅跳びで1人、槍投げで1人、七種競技1人で延べ26人の選手が出場するのです。
尤も重複している者を除くと実質19人ですが、それでも近畿圏内では非常に多い出場人数となります。
引率の先生も二人になったし、佐伯女史と横山女史がサポートでついてきてくれます。
神城高の遠征チームは、リレーの補欠を含めると23名の集団なのです。
奈良の旅館に宿泊、男女分かれて大部屋に雑魚寝状態であるけれどこれもまた楽しいものなんですよ。
奈良は昔から修学旅行生を多く迎えているために大部屋を用意している旅館がいくつもあるんです。
成績で言えば全国大会に進めるのは、優奈が出場する100m、400mH、七種競技、400mR、1600mRが定番でしたが、今年はそれに加えて1500mに稲沢恵子(2年)、3000mの矢島京子(2年)が新たに加わりました。
共に頑張って6位以内の入賞を果たしたのでした。
この結果、初めて優奈は後輩を引き連れて全国インハイに向かうことになるのです。
優奈個人の成績は世界記録こそ生まれなかったけれど、当然のように全てダントツの1位でした。
◇◇◇◇
6月21日から始まる福岡での日本陸上競技選手権には是非とも参加しておく必要がありました。
この大会は、オリンピック出場選手のふるい分けの大会になるからです。
おそらく、世界記録保持者の優奈を外すわけには行かないだろうけれど、それなりの成績を見せておく必要があるのです。
出場資格は障害物競争とハンマー投げを除く16種目の標準Aをすべてクリアしているので問題ないはずであり、優奈は、100m、1500m、10000m、400mH、棒高跳び、三段跳び、円盤投げの7種目に出場を決めていました。
他の種目はインハイ若しくはインカレで成績がわかる筈なので敢えて外しているのです。
それで選考リストに載らないのなら、仕方がないからオリンピックには出ないだけの話なのです。
正直なところオリンピックだからと言って、優奈自身は無理して出たいとは思っていないのです。
因みに参加料金は本来一種目5000円を取られるのです。
昨年招待された時には大会での実績が無かったので免除されなかったのですが、今年は招待選手として免除されているようです。
6月21日金曜日は学校をお休みして、朝8時32分の新神戸発「のぞみ」で博多へ、博多到着は午前11時頃になりました。
荷物を持ったまま、舞鶴公園平和台陸上競技場へ向かい、メインスタンドの下にある更衣室で着替えて開会式に臨んだのです。
サポーターは、OGの佐伯女史と門田女子であり、荷物の保管は二人にお願いしているのです。
佐伯女史などはすっかり全日本レベルのアスリートたちとも顔なじみになっています。
棒高跳のポールの運搬は、主催者側の斡旋で業者が指定され、当該業者に頼むと学校から事前に競技場まで運搬してくれ、大会終了後に学校まで送り返してくれることになっています。
但し、集配はかなり前倒しなのです。
運送賃は、往復で2万円近くかかることになりますが、少なくとも自分で運ぶよりはましなのです。
少なくとも航空機や新幹線には長いポールを持ち込めませんからね。
陸上競技も結構金がかかるスポーツなので、世界陸上の賞金は本当に役立っています。
今回ポールは、特別注文の5m30のものを追加して用意しています。
従って、4m、4m50、5m、5m30の4本を舞鶴公園平和台競技場あて事前に送っているのです。
第1日目(6月21日(金))
1520 400m予選
1655 1500m予選
1845 10000m決勝
1948 100m予選
第2日目(6月22日(土))
1400 400mH予選
1415 三段跳び決勝
1730 棒高跳び決勝
1805 1500m決勝
2020 100m決勝
第3日目(6月23日(火))
1330 円盤投げ決勝
1625 400mH決勝
結果として、第一日目の10000mでは27分05秒33の世界新記録を樹立しました。
第二日目の三段跳びでは優奈だけ踏切位置を変えて別に実施、17m37の世界記録を出しました。
棒高跳びでは一気に5mから開始し、20センチずつ上げて、6m20まで一発でクリア、そこから10センチ上げて6m30を三回目にクリア、そこで残りの試技はパスしました。
ポールが5m30では、これ以上の高さを跳ぶことはできないわけではないけれど、かなり難しいのです。
6m30の高さでさえ、一番長いポールをボックスに置いた時のバーとの高低差は1m20ほどになります。
そこまで身体を持ち上げて跳び越すにはかなりの熟練とアクロバティックな身体の動きが必要なのです。
今の優奈の技量ではこれ以上にバーを上げて飛ぶことは不可能ではないけれど、かなり難しいのです。
棒高跳も勿論世界新記録であり、男子の記録さえ上回る記録でした。
1500m決勝では3分19秒10と昨年のタイムより百分の二秒遅く、世界記録更新はならなかった。
100m決勝では9秒95の世界新記録を出し、初めて9秒台に突入しました。
第三日目の円盤投決勝では、77m45を出して世界記録を更新。
400mH決勝では、昨年のタイムと同じ47秒28で世界記録タイ。
結局優奈は、日本陸上選手権で 5つの世界新記録と一つの世界記録タイを作って終わったのです。
神戸へ戻るのは23日の深夜になりました。
◇◇◇◇
7月26日終業式があって、高校生活最後の夏休みが始まりました。
但し、優奈達陸上部のインハイ全国大会参加者は、その日の朝には神戸空港から鹿児島行きの航空機に乗っていたのです。
優奈を含むリレー要員7名と1500mと3000mの出場者2名、顧問の先生一人、OG2名の総勢12名の遠征です。
今年は、鹿児島県立鴨池陸上競技場が、全国高等学校対抗陸上競技大会の開催場所なのです。
錦江湾に面した海岸近くにある競技場で、桜島が間近に見えるところです。
フィールドはサッカー場としても使うため天然芝となっています。
神戸でも暑いのですが鹿児島はもっと暑いのです。
その暑さの中で行う競技は過酷なんです。
熱射病や日射病との闘いでもあり、健康管理に十分注意しなければなりません。
日ごろから鍛えている所為か、神城高校の子たちは皆元気いっぱいです。
優奈のインハイはこれで最後になるのですが、特に感慨はありません。
できる範囲のことはしたので、いつ辞めてもいいし、最後だからと云って特に力む必要も無いのです。
優奈は、普段通りの気持ちで臨むことにしました。
特に他の高校生にあまり自信喪失をさせないようにするのも必要かなと思い、相応にセーブしているのです。
世界陸上やオリンピックならば手加減は無用ですけれど、高校生の陸上はあくまで部活動の一環でしかないのです
優奈の記録は全てこれまでの記録を下回ったのですが、左程の低下ではないために、誰もが手を抜いたとは思っていませんでした。
リレーは、全国大会でも1位を守り通しました。
優奈以外の三人が頑張った成果でもあります。
但し、来年以降にリレーで全国に出場しようとすると、かなり無理をしなければならないだろうと思われるのです。
優奈のように100mを9秒台で走れるスプリンターが居れば別なのですが、通常は早くても11秒台であり、今回のタイムよりも2秒近くロスが出ると思った方がいいでしょう。
多分それでは近畿大会での入賞も厳しいぐらいなのです。
優奈は、出場した種目全てを首位で高校最後のインハイを終わったのです。
インハイ若しくはその他の大会で出した優奈の記録は、高校新記録であると同時に、日本新記録、世界新記録でもあるのですから、今後しばらくはこの記録を破る者が現れるとも思えません。
1500mの稲沢恵子と3000mの矢島京子は残念ながら予選で敗退していました。
だが二人ともまだ二年生であり、来年に夢を託せるのです。
夏のインハイは、こうして終わったのでした。
◇◇◇◇
三年生の場合、一応インハイが終わると本来は陸上部の活動は終わりなのです。
三年生は受験で大変なので、部員としての籍は置いていても、通常インハイ以後は部活に出てこないのです。
優奈も部活については、後輩に任せてできるだけ干渉しないようにするつもりでした。
従って、部活には呼ばれない限り出ないようにしているのです。
そうは言いながらも、優奈の場合は駅伝も残っているので、部活と完全に離れるわけにも行かないのですが、少なくとも10月の駅伝地区予選が始まるまでは優奈は部活からは外れるつもりでいるのです。
今のところ、日本*医生命科学大学の受験と駅伝が被る心配はなさそうですね。
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