第82話 10-5 新年度の競技とお受験

 高校の行事とは別に、4月28日には、神戸選手権がありましたけれど、優奈はリレーの参加のみにとどめました。

 勿論、400リレー、1600リレーともに1位でしたが、シーズン初めということもあって記録は今一いまいちでした。


 少なくともインハイの記録を超えられませんでした。

 それでもシーズン初めの記録としては、まぁ、上々の方でしょう。


 今後の長期計画としては、ホノルルマラソンに代わって国内のメジャーなマラソン大会に出たいのですが、生憎と参加資格が未だに尾を引いています。

 今年の9月7日で優奈も18歳になるのですが、18歳以上でも『高校生の参加は不可』とか、大会主催者側が明らかに19歳以上をイメージした年齢制限を課しているのです。


 結局JAAFが認定している国内マラソンで。優奈が出場できる可能性があるのは、愛媛マラソン、泉州国際市民マラソン、柏崎マラソン(新潟)、長井マラソン(山形)それに佐倉朝日健康マラソンの三つで、このほかに公認ではないけれど千歳と大阪長居JLSAがありそうです。

 移動を考えると、手軽なのは大阪長居公園の周回を行うJLSAと泉州国際マラソンが便利なのですが、泉州国際市民マラソンは18歳以上の高校生が参加できるのかどうか若干不明な点もあるので確認する必要がありそうです。


 紀州熊野口マラソンは近畿圏内ではあっても少し遠めですから、JRで移動する場合、少なくとも二度ほど乗り換えが必要ですし、神戸からだと移動に少なくとも5時間程かかると見た方がいいでしょう。

 交通の便が良いのはむしろ愛媛かも知れません。


 紀伊熊野口と愛媛のいずれも日帰りでのマラソンはちょっと無理なのですが、愛媛の場合、前日に松山入りして、マラソンが終わってから夕方の高速船の便で広島へ行けば新幹線接続があって便利なのです。

 まぁ、どちらも、大会当日には神戸へ戻って来られそうですが、コースとしては紀伊熊野口の方がアップダウンが激しく、あまりいい記録は望めない様ですね。


 京都木津川マラソンは地理的には近いのですが、ホノルルマラソンと同じで小学生を含め多数の人が参加する時間制限なしの大会であり、間違いなく混み合うことが予想されるのでできれば遠慮したいマラソンです。

 遠いのが新潟(柏崎マラソン)及び山形(長井マラソン)それに北海道(千歳JAL国際マラソン)ですね。


 尤も北海道の方は、場所が千歳空港に至近なので、大会当日に神戸に戻ってこられる場所ではあるのです。

 但し、千歳は「国際」と名はついていますけれどJAAFの公認コースではありません。


 最終的に、第一希望に泉州国際市民マラソン、第二希望で愛媛マラソンとし、この両大会とも高校生の参加が認められないなら、大会当日に戻れないかもしれないけれどタイム的には良さげに思えるコースの佐倉朝日健康マラソンを選択することにしました。

 尤も、出場枠が抽選になると申し込んでも出場できるかどうかは不明なのです。


 一応頭の中ではそう整理しておいて、エントリー開始間近になったらそれぞれの大会事務所に問い合わせることにしていました。

 取り敢えず、10月開催予定の柏崎と長井は見送ることにしたのです。


 しかしながら、優奈の思惑と異なり、4中旬には柏崎と長井のマラソン大会事務所から神戸陸協を通じて招待状が舞い込んだのです。

 しかもどちらも前日のホテル宿泊(夕食、朝食付き)費込み、航空運賃の旅費付きという好条件なのでした。


 因みに優奈の年齢を考えたのか引率者若しくは親権者の同行を認めており、その分の費用も負担してくれるるようなのです。

 優奈も流石に大会組織から招待が来ることまでは想定していませんでした。


 さてどうするかなのですが、折角招待してくれるのならば他の大会や優奈の個人スケジュールとバッティングしていなければ、出場してもいいかなと考えた優奈です。

 陸協及び陸連からは今年の年間予定は通知されています。


 今のところの予定では10月の予定は、20日開催の駅伝地区予選だけなのです。

 長井マラソンは、駅伝地区予選の一週間前の13日、柏崎マラソンはその二週間後の27日です。


 マラソン以外で問題となりそうなのは、今年開催されるIAAFの世界陸上であり、9月下旬から10月上旬の開催で場所はカタールのドーハです。

 ドーハの陸上競技場は、設備としてはいいのですが、10月と言ってももの凄く暑い地域なのです。


 日中の気温は間違いなく35度を超えますし、最低気温ですら24度から25度なのです。

 おまけに治安が少し宜しくありません。


 カタールは、イスラム教スンナー派のサラフィー主義で、いわゆる厳格なイスラム回帰主義の教えを守る国なのです。

 従って、本来イスラムの教えには無いのですが、イスラム社会伝統の女性蔑視が酷く、服装規定はサウジアラビアと同じく女性はほとんど肌を見せてはいけないとする規定があるのです。


 そのためドーハで行われたサッカーのワールドカップでも外国人の女性観光客に対する服装規定が酷かったようです。

 レギンズをパンツとして認めないと言うのでかなり揉めたのです、


 アジア陸上競技大会の際は、女子選手のブラトップやレーシングブルマは禁止するわけには行かなかったようですが、少なくとも観衆のほとんどは男という異様な状態です。

 

 そのくせ、海外労働者が多数入り込んでいるために、レイプなど性的犯罪が多いのも特徴なのです。

 イスラムでも過激派と呼ばれるアルカイダなどはサラフィー主義のジハード派から派生しているのですが、こうした海外労働者が多数流入していることから、カタールはある意味で過激派が自由に往来できる危険な場所でもあるのです。


 また、最近のカタール政府の動きについて反感を有する過激派の一つアブドル・ダバが他の二つの過激派勢力を巻き込みながら世界陸上開催に向けてテロを起こす計画を密かに進めていました。

 従って、そんな危ないドーハに行くのは優奈としては金輪際お断りなのです。


 そんなわけで2019年の世界陸上については、優奈は不参加としました。

 どんな勢力が関わっているかも知っているのですが、今の時点で優奈が公安機関にそれを知らせることは墓穴を掘ることになりかねません。


 そもそも一般人であり、しかも一介の高校生ごときにテロ情報など本来接することができる情報では無いのです。

 各国の情報機関がこぞって収集に苦労している秘密情報であるからです。


 どんな結末になるにせよ、優奈にできることはあまり多くはありません。

 せめて関係者に曖昧な警告を送るぐらいが関の山でしょう。


 身に降りかかる火の粉は払うけれど、少なくとも自ら火中の栗を拾うつもりは無い優奈なのです。

 ドーハに行かないとすれば、山形の長井マラソンも出場可能となりますが、気温を見る限り長井よりも柏崎の方が低い様です。


 低いと言っても勿論低すぎることはありませんよ。

 これまで20年ほどの平均気温では、最高気温が20度前後なのです。


 それに山形にはインハイで一度行ったことがありますけれど、新潟には行っていません。

 優奈は柏崎マラソンの招待を受けることにし、長井マラソンの主催者には丁重にお断りの手紙を書きました。


 来年年明けのマラソンについては別途考えればよいと思っています。


 東京オリンピックは、2020年7月24日に開会式があり、陸上競技は7月31日から8月8日の予定です。

 因みにオリンピックの女子マラソンは8月2日の予定であるが、優奈のマラソン出場は多分無いだろうと思っています。


 国内での選考大会のいずれもが今年から来年の春にかけての時期に開かれ、基本的に19歳以上を資格要件としているからです。

 尤も海外のメジャーな大会で優勝すれば別かもしれませんが・・・。


 海外マラソンを使ってオリンピックの選手に選ばれるには、ロンドン、ベルリン、ボストンマラソン等のゴールドタイプのロードレースあたりで優勝することが条件になるかも知れません。

 欧州と米国などは日程的に無理だから、せめて韓国ソウルぐらいならどうかと調べてみました。


 3月第3週の日曜日という日程はとてもいいタイミングです。

 この時期ならば、大学受験は終えている筈であり、受験と重なる心配は無いのです。


 それにソウルならば土曜日出発、月曜日に戻ることも可能でしょう。

 また、ソウルであれば、もしかするとソニンに会うこともできるかもしれない。


 ◇◇◇◇


 大学受験は、センター試験が1月なのですが、その前に推薦枠による受験は始まるのです。

 優奈の進路希望は、一年生からずっと一貫して獣医学部希望なのです。


 近畿地方にある大学で獣医学部のあるのは大阪府立*南大学のみです。

 他に、国公立では、北海道大、帯広畜産大、岩手大、東京大、東京農工大、岐阜大、鳥取大、山口大、鹿児島大があり、私立では、酪農学園大、麻布大、北里大、日本*医生命科学大、日本大があります。


 獣医への門は、実は相当に厳しく実質競争率は24倍から25倍程度になるという。

 しかも大学の学部があるのは比較的辺鄙なところが多いのです。


 獣を相手にすることから広い敷地を必要とするからです。

 大阪府立*南大学はキャンパスが三つに分かれ、獣医センターがりんくうタウンに在って病院と併設しています。


 残念ながら車でも1時間以上、電車だと2時間を優に超えることから、家から通学できる距離ではない(できないわけではないが無駄な時間が多すぎる)ことと、未だ歴史が新しいのです。


 りんくうキャンパスは10年前にできたばかりなのです。

 その意味では新しい機器を取り揃えているかもしれないのですが、今一、教授陣の陣容に欠ける嫌いがあるかもしれません。


 日本でも有数な頭脳が集まるとされる東大の場合は、理類Ⅱから入学後1年半の成績順によって希望の学部若しくは科へ行けるみたいです。

 従って東大に入学し、基礎教育を終えてから獣医学科へ入ることはできるだろうけれど、優奈は東大受験には今一乗り気ではないのです。


 進路指導の先生は盛んに東大受験を勧めてくるのですが、何となく好かんというのが正直な優奈の感想なのです。

 中学一年生の頃にたまたま見知っていた遠縁の男の子が東大生だったのですが、学力だけをひけらかすような性格の男だったので、優奈は大嫌いだったのです。


 優奈が見るところ、確かに勉強だけはできるのですが人としての思いやりに欠けるような人物は、その傍にいるだけでも虫唾が走ったのです。

 他にもいるであろう至極真っ当な東大生には申し訳ないのですが、それ以来、優奈の意識の中では東大生とは原則的に忌むべき存在になってしまったのです。


 東京農工大は府中、北里大学は青森県十和田市、日大は神奈川県藤沢市、日本*医生命科学大学は武蔵野市にあります。

 北海道大学は札幌市内ですね。


 獣医学部は6年間の勉強が必要で、それから国家試験を受けて獣医になれるのです。

 優奈としては普通の医師でも構わないのですが、人とのしがらみを考えた時、仮に医師になった場合に、優奈の特異な能力で助けられる命を見捨てるのは非常に辛いものがあるのです。


 でもペットや家畜ならば敢えて見過ごすこともできるし、人知れず助けることもできるのです。

 人が相手ではなかなかそうはいきません。


 例えば先端医療でも助からない難病を治してしまったなら、その説明に困るし、治った本人が噂を広めてしまうことになるでしょう。

 仮にそんなことになれば能力を隠さなければならない優奈としては非常に困ることになるのです。


 しかしながらペットならば少なくとも人にそのことを伝えることができない。

 だから秘密裏に処置できるのです。


 そのことが獣医を選んだ最大の理由でもあるのです。

 優奈は二年生の時点から全国模試でも常時上位10位以内に入っているのです。


 満点も出せるのですが、いつも各科目の点数の低い問題一つぐらいは意図的に外しているのです。

 校内では勿論常時トップなのです。


 従って、神城高校からの推薦枠でもトップに入っています。

 生憎と神城高校は獣医学部のある大学の指名を受けていませんので、いわゆる公募制一般推薦入試になります。


 大阪府立*南大学の場合、在阪高校で5名の枠、その他府外の高校で5名総計10名の枠が推薦入学の枠となります。

 各高校からの推薦は一名に限られるのですが優奈の場合は推薦順位トップに入っているので神城高の推薦には問題はありません。


 9月頃に推薦状を提出し、10月頃に面接試験があるのが普通なのですが、国公立の場合センター入試の受験を必須にしている場合も多いのです。

 その意味では面接試験が、駅伝やマラソンとかち合う可能性もあるのです。


 その場合は、駅伝やマラソンは諦めるしかありませんね。

 特に神城高の駅伝メンバーには事前にその旨を伝えていますけれど、メンバーは優奈が抜けても地区予選で一位になりますと言って頑張っているのです。


 実のところ新入生にまた中距離ランナーで良い人材が陸上部に入って来たのです。

 これで益々メンバー選抜が過酷になるだろうと思われます。



 駅伝のことは別にしても、獣医学に関して言えば日本は欧米に比べ若干遅れているのですが、優奈がどこの大学を選んだにしてもレベルがそう変わるわけでもなく、いずれ国家試験に合格すれば獣医になれるのは一緒なのです、

 しかしながら、6年間も家を離れて独りで生活することを考えると、余り田舎では生活そのものが困りかねません。

 色々考えて、結局、優奈は日本*医生命科学大学を選んで進路指導の先生に伝えたのです。


 受験大学の選定において最も優奈が重点を置いたのが、その大学の教授陣の陣容でした。

 優奈の場合、特殊能力もあって、最新設備は必ずしも必要がないのです。


 むしろ必要な機器が有れば造ってしまえばいいとさえ思っているのですが、教える側に相応の人材がいないとやはり困るのです。

 大学とは、教授陣に頼らず自分で学ぶべき所とは思うのですが、それにしても導くことのできる先達は必要なのです。


 優奈は、ここ数年の公表された論文を検証しました。

 その結果、優奈が個人的に納得できたのが日本*医生命科学大学であったのです。


 日本*医生命科学大学への推薦手続きならば、センター入試受験の必要性もなさそうだし、年内に入学の可否がわかるのも利点です。

 最悪、日本*医生命科学大学への推薦入学を拒否された場合は、センター入試を受験して一般大学を受験しても構わないと思っているのです。


 その場合は、神戸大学と神奈川県相模原市にある日大獣医学部の受験を考えているところです。

 神戸大学の場合は、自宅から通学できることが何よりのメリットですね。


 神戸大学の場合は、学部はどこでも構わないのですが、多分、理学部化学科若しくは工学部応用化学科あたりになるでしょう。

 日本*医生命科学大学の所在地は東京都武蔵野市であり、中央線の武蔵境駅から至近であり、首都圏とあって家探しに困ることも無いし、帰省にも至便なところなのです。


 住まいの方は、基本的にはセキュリティのしっかりしている中古のマンションを購入するか、賃貸マンションに入居しようかと思っているのです。

 何しろ女の一人暮らしですからね。


 自分の身は自分で守れるのですが、面倒事になるのが一番困るのです。

 優奈の口座には、未だに世界陸上での懸賞金、マラソンの報奨金などが1億7千万円以上も残っています。


 少々の買い物や旅行をしたぐらいでは中々に減りません。

 このお金は獣医の開業資金にもなりそうなのですけれど、三千万程度のマンション購入ならば問題はないし、不要になった時点で売却することもできます。


 賃貸マンションでも月額20万円ならば、年間240万円、6年で1500万円ほどの額になります。

 日本*医生命科学大学から嘉成(段々前世の記憶が薄れて来た気もするが、前世では確か平成だったように思う。)32年度の募集要項を取り寄せたところ、8月20日から9月10日の間(9月10日必着)に推薦書を添えて必要書類を提出することになっており、その内定審査を通過した者は10月1日午前中に大学が指定する表題で小論文の作成、同日午後から数学及び英語の筆記試験を実施することになるようです。


 更に、推薦枠受験者は、10月7日から11日の間の大学が指定する日時に面接を実施することになっています。

 取り敢えず必要な神城高校の推薦書、内申書の作成を進路指導の先生にお願いし、その他大学から渡された申請書類等に所要事項を記載して5月半ばには準備だけは済ませた優奈でした。


 夏休みに入る前には関係書類が揃えられることになっているのです。

 優奈は夏休み中の8月下旬に願書の提出に武蔵野まで出向くつもりでいました。


 いずれにせよこれでドーハの世界陸上出場の可能性は全く消えました。

 仮にIAAFや陸連からの招請があっても、大学受験の理由で明快に断れるからなのです。

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