第80話 10-3 コンサートの余波と諸々

 ソニンの日本初公演は、翌日にはネットで紹介されていました。

 これまで余り日本語のサイトには乗っていなかったのですが、今度の発信元は日本の様です。


 いくつかに細分化されてはいるのですが、数日の間はステージの模様がネットで掲載されていたのです。

 しかしながら、ソニンのインスタグラムのOfficial Siteでソニンと優奈のデュエット・シーンを、紹介の冒頭から掲載すると、たちまち他のサイトの映像は姿を消して行きました。


 おそらくは掲載と同時にソニンサイドからクレームをつけたのでしょう。

 ソニンのサイトは、フルスペックの精細画像で掲載され、音質も極めて良いものだったから粗悪な画質と音質では放っておいても駆逐されただろうと思われます。


 一般に音楽ホールのコンサート等で普通のビデオカメラで実況録画したものは、画像はともかく、音の反響を拾ってしまって、音質は悪いものが多いのです。

 公式には、ソニンサイトでの初めてのコンサート風景掲載ということもあって韓国国内ではかなりの反響があったようです。


 しかもミラクル・ユーナと一緒に見事なステージを行っているのだから、ファンは驚いたようです。

 そんなファンの中にはミラクル・ユーナの隠れファンも大勢いたらしいのです。


 そのために、ソニンに対して嫉妬と怨嗟の声が上がるほど。

 韓国の芸能界やK-POPS界でもそのことが当然に話題となりました。


 少なくとも、ステージで通訳が追いつかないほどの応酬ができるほど韓国語を完璧に話せる日本人には今まで余りお目にかかったことが無いからです。

 しかも、歌がうまいことでは定評のあるソニンとタメを張れるほどの歌唱力を持ったスタイル抜群の美人である。


 日本人という点にやや難点はあるものの、話題的には十分使えると判断されていたのです。

 当然にこれまでネットで流れていた優奈の歌についても、全てを再確認して最終判断を下していた。


 可能であれば何とか優奈も取り込みたいというのが韓国芸能界のスタンスであった。

 優奈が日本人でなければ間違いなく売れると判断できるレベルであったのです。


 ソニンの大阪公演も無事に成功裏で終わったようです。

 17日の夜にはソニンからお礼のメールが改めて届きました。


 ソニンは18日午後には関空からソウルに戻るようです。

 ソニンとの交流はこの後も続くことになります。


 日本公演から1週間後、ソニンのCD販売やシングル曲のダウンロード数が増えていた。

 元々韓国は違法ダウンロードが横行しており、CDなどがなかなか売れない環境にあるのです。


 無論、ソニンの公式サイトからのダウンロードは許可なしではできない。

 それがソニンの公式サイトに高精細と高音質の動画で優奈とのデュエットを掲載するとそれこそ飛ぶように売れたのである。


 僅かに三日で50万を超える正式ダウンロードは、韓国音楽界始まって以来のことであった。

 おまけにクローンが出ても音質の悪いクローンに客筋は見向きもしなかった。


 主として韓国でダウンロードが、日本ではCDの売り上げが少しずつ増加しているのであるが、それ以外のアジア各国でも徐々に売り上げが伸びて行った。

 これは韓国の芸能界では極めて珍しい現象であった。


 英語の歌ならばともかく、ドメスティックな韓国語の歌が国際市場に普及することは非常に稀なのである。

 優奈の名の検索を通じて、Che Soningの歌を知った者が共感を覚えたのだろう。


 そうしたことが音楽評論家によって指摘されるのにはまだ1年ほどの時間が必要だったが、韓国国内での番組にソニンの出番が非常に増えたのは間違いなかった。

 ソニンは、3月以降あちらこちらの歌謡番組で必ず呼ばれるようになったのである。


 因みに韓国へ戻ってすぐにかかりつけのクリニックで見て貰ったところ、肝臓と腎臓の機能が若干落ちてきていることが分かり、すぐに適切な処方がなされ何事もなく推移しているようだが、その件に関しても丁重な礼状がソニンから舞い込んでいた。


 かかりつけの女医曰く、この段階では検査をしないとわからないレベルなのになぜわかったのと逆に聞かれたという。

 ソニンは勘のいい友達が気づいて医者に行くよう勧められたと返事したようだ。


 ◇◇◇◇


 そうして2月28日に卒業式があって、三年生が卒業していった。

 陸上部でもお別れ会を催し、一年生、二年生の全員で三年生を慰労し、見送ったのです。


 三月は、期末試験もあるし、来年度初頭の記録会その他の申請も予めしておかなければならず結構忙しいのです。

 優奈は4月から三年生となります。


 三月末に計測した身長は178センチとなっていたのですが、伸びしろが明らかに少なくなっており、このままで行けばどうやら180の大台は超えずに済みそうに思うのです。

 卒業式の後の陸上部の選考会では優奈が副部長になってしまいました。


 まぁ、単なる世話役ではあるのですが、それでもこれまでになかった雑務が入ってくるのは確かなのです。

 部活動の大枠は男子が選考する部長が決定することになっているのです。


 但し、力関係で言えば明らかに女性上位時代なのです。

 優奈が出場する種目は軒並み全国大会出場なのだから、リレーや駅伝には当然に引っ張られるし、優奈から指導を受けた同級生や下級生が着実に力をつけてきているのです。


 そのため陸上部女子の成績は上々なのだが、その一方で男子は低迷している。

 そのため何かにつけて男子が女子の顔色を窺うようになってきているのは事実なのです。


 しばらく鳴りを潜めていたFIZMAが再度胎動を始めていたし、サイコップの手先も優奈の周辺にちらちらと現れ始めています。

 サイコップにしても確証があるわけではないから今のところ無理押しはしてこないけれど、どうも、学校の保健室から検診の資料を盗もうとしたり、かかりつけの医院に取り入ろうとしたりしているようだ。


 今のところいずれも未遂に終わっているけれど、仮に実行して来たならば、優奈は対抗措置を取るつもりなのです。

 命を取るまでのことはしないけれど、トーマスのように何らかの不具合が生じて引かざるを得ないようにするつもりなのです。


 勿論裏を手繰られるようなことはしないのですが、サイコップが超能力を信じていない組織である以上、数が重なっても偶然で片付けるしかないと思われるのです。

 但し、FIZMAの方は前例があるし、超能力存在そのものを知っているから、対処が難しいのは事実です。


 少なくとも相手に気づかれないよう動かねばならないのは間違いがないことです。

 FIZMAについてはそのメンバー全員を監視しているし、その手先となった人物についてもフルの警戒を継続しているところです。


 異常があれば気づいてチェックする方式なのですが、常と異なる動きをした場合及び優奈個人の情報を探ろうとした場合、自動的に警報が発せられるのです。

 電子機械ではありません。


 こちらの場合は、優奈の周辺にいる精霊や妖精にお願いしているのです。

 従って、何らかの形で優奈に危機が迫っていれば確実に事前にわかるのです。


 精霊や妖精が優奈に多大の好意を持っているので、積極的に情報を提供してくれるからこそできることなのです。

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