第4話 1-4 転生(4)
優奈の寝室兼勉強部屋には、ヤマ❆製エレクトーンのELB-01(2006年製造分)が鎮座しており、優奈も時折ヘッドフォンを装着してエレクトーンを弾いたりしているのです。
実のところ購入して5年ほど経ってからは、何度も部品が劣化して故障しているのですけれど、優奈がその都度自分で修理し、同時に劣化を防ぐ措置を密かに講じているために、優奈が中学に入ってからは全く故障を起こしていない優れものなんです。
通常のエレクトーンであれば、概ね十年が耐用年限であり、最新型に比べて性能が著しく劣ることになるし、電子部品の劣化も進んで来るのですが、優奈がその都度部品を同等品以上のものに物理的に変えてしまい、固定化、延命化を図るので、現状では故障する部分が無くなってしまっているのです。
優奈の場合、部品そのものを購入して交換するのではなく、壊れた部品そのものを量子的に置き換えて新品同様にしているのです。
当然のことながら、最新型のエレクトーンに比べると機能面では劣るものの、そもそも基本的な機能は充実しているので、購入してから既に十年も経過し、予備部品もヤマ❆には置いていないはずなのですけれど、優奈にとっては今もって立派な現役の愛用エレクトーンなのです。
勿論そんな特殊な修理を行っていることは一切家族には知らせていません。
優奈の楽器は優奈だけのものですから、家族もメイドのマリアも決して触れようとはしないのです。
優奈の他の楽器は、普段は部屋の比較的大きなウォーキング・クローゼットの中にケースごと格納されていて滅多に出てきません。
それでも春と秋の年二回は、フルート、ヴァイオリン、サックスそれにギターの内いずれか一つを持ち出し、家から1キロほど離れた高台の公園に行って、虫干しを兼ねて数時間練習するのが優奈の年中行事になっているのです。
これらの楽器も量子的なレベルまできちんと整備がなされており、因みにヴァイオリンなどはストラディバリに匹敵するほどに魔改造されているためにとてもいい音を出す逸品なのです。
残念ながら、琴だけは大きすぎて外での演奏が難しいので、お正月の三が日に優奈が和服を着て、「春の海」や「六段」などを少しだけ演奏して家族に披露するのが加山家恒例の年中行事になっているのです。
高台の公園の近隣に住む人で、フルートやサックスの上手な女の子を見知っている人もいたのですが、そのことがネット等で評判になることはありませんでした。
しかしながら、中学二年生の折り、中学校からの下校の際に友達と連れ立って歩いているところを隠し撮りされてしまい、それがネットに掲載されたことがあったのです。
表題は「百年に一人の美少女の微笑み」であり、優奈が微笑んでいる顔がアップで掲載されていたのです。
無論のこと優奈が了承した上でアップされた写真ではありませんが、あっという間に拡散して、気づいた時にはそもそもの出所がわからなくなっていました。
アングル・ショットがとても良かった所為もあって、
着ていた制服から優奈が通っていた中学が割り出され、通学途上をスカウトマンに狙われたのが中学二年の秋口のことなのです。
無論、アイドルになんぞ絶対になりたくない優奈はその全てを断りました。
条件がどうであれ、完全に
優奈が未成年者ゆえに、両親や祖父母にも猛烈なアタックがかけられたのですが、そもそも敦夫・聖子夫婦は優奈を信用していますから、どちらかというと放任主義に近いし、祖父母はアイドルという職業に否定的な考えを持っていました。
特に、アイドルになれば神戸に住むのではなく東京に上京することになるので、可愛い孫が一人住まいになることをとても危険視していたのです。
どれほど申し出があろうと両親も祖父母も優奈の意思をまず優先したのです。
従って、一度優奈の意向を確認すると、二度と優奈に尋ねることはなく、優奈と同様にプロダクションの接近を拒んだのです。
半年ほど続いた芸能界からの猛烈ともいえるアプローチは、その一切が拒まれたのですが、ネットに掲載された優奈の微笑みを捉えた写真はその後も長くネットの中に残ることになりました。
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