第4話② 1-4② シロのご主人様
僕は、サモエドのシロ。
生まれて二か月目にペットショップの檻の中に居たところ、ご主人様と目が合ったのです。
ご主人様は、五歳のお姉さんでした。
名前は優奈様。
ご主人様が、僕に「シロ」と名前を付けてくれた時に、教えてくれました。
ペットショップの人もお客さんも僕とはお話ができないけれど、ご主人様は僕とお話ができるんです。
その日のうちに僕は檻から出されて、御主人様の住むおうちに棲むことになりました。
ご主人様のおうちは広いんです。
庭も小さなプールもあって、僕が走り回るには何の問題もありません。
ご主人様と一緒に住んでいる人たちもすごく優しい人たちで、僕をとても大事にしてくれます。
僕が一番楽しみにしていることはご主人様と一緒にお散歩することなんです。
首輪にリードをつけて、ご主人様と一緒に近くの神社や公園までかけっこするのが大好きなんです。
雨の日は家で大人しくしているしかなくって、
でも、やっぱり一番は外のお散歩ですよね。
天気が悪い時以外は、ほとんど毎日ご主人様が散歩に連れて行ってくれるのですけれど、御主人さまが「キョウト」というところに行く時は、僕はお留守番なのです。
ご主人様のお話では、訪問先に僕の毛にアレルギーを持っている人がいて連れて行けないのだそうです。
僕の毛でアレルギーなんて、なんと失礼な。
二日に一度は庭先でシャンプーをしてもらっているのですから、僕はそこらの犬とは違ってとっても清潔なんです。
そんな風に盛大に文句を言ってもご主人様はクスクスと笑うだけで、「キョウト」には連れて行っては貰えないのです。
そんな時は、マリアお姉さんか、オジイサマが僕の散歩に付き合ってくれますが、やっぱりご主人様と一緒の方がいいのです。
ご主人様の周囲には何か淡い光がまとっていて、それに触れるだけで僕は元気になれるし、嬉しくなるんです。
僕がご主人様と出会ってから半年ほどが過ぎました。
僕の身体も結構大きくなったのですが、まだまだご主人様よりは小さいのです。
きっと今にご主人様よりも大きくなってみせるんだと思っていました。
でもその願いは叶えられませんでした。
ご主人様がオカアサマと一緒に「キョウト」へ行っている間に僕は急な病にかかりました。
オトウサマはお医者様なのですけれど、ヒトのお医者様ですから、僕の病気は診られないみたいなのです。
僕はすぐに最寄りの動物クリニックに運ばれましたけれど、手遅れだったのです。
病気の名前は僕には良くわかりません。
でもその動物のお医者さんでも手の打ちようがない病気なのでした。
翌日にはご主人様がキョウトから戻ってくる筈、何とかそれまで頑張ろうと思ったのですけれど、僕にはどうすることもできませんでした。
そうして、今、僕の亡骸を抱きしめて大泣きに泣いているご主人様がいます。
僕はすぐそばに浮かんでいるのに、ご主人様は気づいてくれないのかなぁ。
そんなことを考えていると、不意にご主人様が僕のことを見ました。
最初に出会ったときの様に、目と目が合ったのです。
僕はご主人様に言いました。
〖僕はご主人様と出会って幸せでした。
ご主人様より後で生まれて、先に逝くなんてゴメンナサイ。
そうして、さようなら。
今度生まれ変わるときにはもう一度ご主人様に会いたいな。〗
ご主人様の涙まみれの顔が余計にくしゃくしゃになって、それでも笑って思念が送られてきました。
〖シロ、二度目の人生きっとあるよ。
だから、その時は私に会いに来て。〗
僕も精一杯の笑顔を見せました。
そうして、僕は大いなる力に呼ばれて天へ昇って行きました。
意識が無くなるまで、僕自身にずっと言い聞かせていました。
【ご主人様の顔と意識を絶対に忘れない。】
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