第2話 1-2 転生(2)

 赤ん坊なので言葉は操れなかったのですけれど、あれやこれやと試行錯誤しているうちに精霊さんや妖精さん達とはテレパシー(?)で意思の疎通ができるようになっていました。

 意思の疎通ができてからは、精霊さんや妖精さんと一生懸命に色々とお話をして現世のあれこれを教えてもらいました。


 前世では全く気付かなかったのですが、どうもユウナの身体には超能力があるらしいのです。

 少なくともテレパス能力があるからこそ、精霊さんや妖精さんとは話ができるのです。


 家に付いている精霊さんが言うには、テレパスの能力が高くなれば他人の心も読めるようになれるとのことでした。

 そばに居るのが家族であることが多いので、礼儀としてできるだけ近しい人の心はのぞかないようにしようと思っていたのですが、そのうちに周囲にいる者の意識に作用して半分無意識に自分の思い通りにしていることに気づき、慌ててその力(多分ヒュプノと呼ばれる暗示能力だと思います。)を本当に必要な場合以外は封印するようにしました。


 そのまま放置すれば、周囲の人全てをユウナが操ってしまいそうで怖かったのです。

 精霊さんや妖精さんのお話、それに父母や祖父母たちの会話などから総合すると、ユウナとその家族が住んでいるところは、兵庫県神戸市灘区の山の手であり、父母共に神戸海王病院の医師であり、父は外科医、母は内科医のようですね。


 ユウナの目がようやく見えるようになった時には、既に退院していたのですが、優奈が生まれたのは自宅に近い川本産婦人科で、退院後も母子共に何度か通院して母聖子の産後の経過と優奈の成育状況を見て貰っていたようです。

 勿論、総合病院である神戸海王病院にも産婦人科はあるのですけれど、母の勤め先の病院ではなく自宅近くの産婦人科を母セイコが意図的に選んだようです。


 特段の理由が有ったのかどうかは不明ですが、家から近いことが理由の一つであったのかもしれません。

 因みに母の大学時代からの友人が産婦人科医師であり、川本産婦人科の二代目に嫁いでいたことも川本産婦人科を選んだ大きな要因の様な気がします。


 ユウナの苗字と名前の漢字も精霊さんや妖精さんに教えて貰いようやくわかりました。

 加山かやま優奈ゆうな、それが私の名前です


 父は、加山かやま敦夫あつお、母は加山かやま聖子せいこと言います。

 父方の祖父母は加山久三きゅうぞうと加山美玖みくと言い、両親と一緒の家に住んでいます。


 祖父の加山久三は、神戸市内JR六甲道駅の周辺で30有余年に渡り古物商を営んでいました。

 ところが、1995年に発生した阪神淡路大震災で店舗が倒壊、更に周辺住宅からの出火により延焼してしまったので、その折りに事業を清算して隠居生活を始めたようです。


 それまでに十分な蓄えを遺していたこともあるし、一人息子の敦夫が医師として高額納税者になっていたので左程にあくせく働く必要も無かったようなのです。

 震災時、久三は五十七歳であり、隠居するには随分と早い年齢ではあったのですが、ハーレー・ダビッドソンをこよなく愛しており、趣味はハーレーを整備し、乗り回すことでしたから、そのために隠居したのかもしれません。


 祖父は、還暦を過ぎても至って元気であり、年に一度はハーレー仲間と一緒にツーリングで全国に遠出しているようです。

 但し、無事故無違反を継続している優良ドライバーで暴走族ではない様なので、その点は安心ですね。

 

 両親の敦夫、聖子とも医師としての共働きのため、家にはフィリピン人のマリアさんというお手伝いさんがいます。

 外国人のメイドさんを雇うことについては、前世では労働法制上非常に難しいことであったはずなのですが、現世では若干の申請手続きで厚労省の出先機関から許可を得られるようになっているようです。


 このマリアさん、実に優秀で、英語、タガログ語、スペイン語に日本語の計四か国語を流暢りゅうちょうに操れる才女であり、色黒で目がぱっちりとした小柄なお姉さんなんですよ。

 優奈には今のところ兄弟姉妹は居ないし、父母とも当面第二子を望む気はない様なんです。


 乳飲み子の優奈が夫婦の会話に気づいているとも知らずに夜の睦言むつごとの最中にそう話していたから優奈も知っているのです。

 母方の祖父母は、岸本正一しょういちと岸本園子そのこであり、京都で老舗の和装店を経営しているようですよ。


 母の聖子は妊娠してから半年の産休をもらい、出産後は通算で一年間の育児休暇をもらうことになっていたようです。

 従って一年間は、母聖子が優奈のそばに何時でもいることになります。


 勿論、育児が一年で終わりというわけには行かないのですけれど、一年が一応の節目ふしめと考えているようですね。

 聖子は毎日帰宅できるし、メイドも祖父母も家にいるので、ある程度は家人の助力を頼みにできるからなのでしょう。

 

 何だかんだと言っても、優奈は大事に育てられているのですが、同時に優奈自身も自らの前世を振り返って、仕事にかまけて実に不健康な生活を送っていたことを反省し、健康には特に注意を払うようにいたしました。

 同時に過労原因ともなった芸能界のアイドルにだけは絶対になるまいと固く決心をしたのです。


 優奈の将来は未だ何も決まってはいないのですが、悔いのない人生を送るために、勉強にも運動にもできるだけ配慮して、当面前世ではできなかった青春謳歌おうかこころざすことに決めていたのです。

 精霊さんや妖精さん達は、ほとんど動けない赤ん坊の優奈に代わって、神戸市立図書館の書籍内容を順次読み漁ってくれました。


 優奈は、精霊さんや妖精さん達の力添えにより、彼らの視点で書籍を見ることができたのです。

 そんなわけで、優奈は自宅のベビーベッドの中にいながらにして、図書館にある様々な知識に触れることができました。


 また、一方で、精霊さんや妖精さん達を直接に見ることができ、彼らと念話テレパシーができることから、あり得るかもしれない超能力を少しずつ色々と試してみました。

 テレパス(人との念話は試していないのですが、少なくとも他人の心を密かに読む能力はありそうです。)、サイコキシネス(物体を念力だけで持ち上げることができます。)、テレポーテーション(物体若しくは自分の身体を瞬時に空間転移できます。)、パイロキネシス(何もない空間に炎を出すことができます。)は、優奈にも可能だとわかりました。


 このほかにも小学校を卒業するまでの間に、暗視あんし透視とうし遠視えんし顕微視けんびし霊視れいしができるようになりましたし、未だ微力ながら、光や水を造ったり、操ったり、温度、重力及び空間を操作し、更に物質の分解・合成なんかもできるようになりましたが、未来予知はできませんでしたし、時間の操作も無理っぽいですね。

 無論のこと、それらの試みを行うに際しては、周囲の人たちに気づかれないよう細心の注意を払っていましたよ。


 精霊さんや妖精さん達にいてみたところ、今生こんじょうの世に超能力者が居ないわけではないものの、極めて少数である上に能力も優奈に比べると相対的にかなり低く、またそれらの超能力者達がその力を秘匿ひとくしているためにその存在が世間せけんに知られていないということのようです。

 従って、優奈もまたその力を周囲に知られないようにすることにしました。


 精霊さんや妖精さんの助力によって育児書を調べ、寝返りができる時期、ハイハイができる時期、歩行ができる時期、言葉を理解する時期等々をできるだけ普通の子供の成長に合わせるようにしました。

 時期が遅いと両親や周囲が心配するので、ほんの少しだけ早めにするのですが、決して早すぎないように調整したのです。


 特に歩き始めの際はかなりの演技力を要することになりました。

 これまで歩けなかった幼児がいきなりとことこと普通に歩いては余分な疑惑を招いてしまいますからね。


 何しろ幼児ながらも筋力と持久力をつけるために普段から人知れず特殊な訓練も実施していたのです。

 幼児期は骨が柔らかいために当然に無理はできないのですが、一方で適度な負荷で訓練を行うことにより適応能力や持久力が上がるのです。


 そのため一歳の誕生日を迎えるころには、五歳児若しくは六歳児程度の体力と持久力を身に着けていました。

 そうしてそれを身近な家族にも隠すことが結構難しいのです。


 多分1歳から2歳ぐらいの時点で、知識の方は高校卒業程度の学力は十分につけていたものと思いますよ。

 何しろ、新聞に掲載された大学入試の共通一次試験問題が2歳の時には全問解けるようになっていましたからね。


 その際は、新聞紙を逆さまに見て、家族の目をごまかしていました。

 前世の由香里の場合は、中学時点での成績は優秀だったのですが、高校入学後の夏場からほとんど勉強の時間的余裕が有りませんでしたので成績も芳しくありませんでした。


 しかしながら今世の優奈では、それを挽回するだけの時間も能力もあったし、何より精霊さんや妖精さん達が優奈のために助力を惜しまなかったことがとても大きいのです。

 優奈は、精霊さんや妖精さんたちにとても好かれていたのです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る