ライカと言う女性

‐ヴァール帝国、ケージ内、中央ゲート付近‐

 「やっぱ例年より段違だんちがいに多いな今年は。」

ゲートの近くで続々と送られてくる元平民たちを見て女は静かにつぶやいた。

彼女の名前はライカ。

彼女もまた帝国建国後ていこくけんこくご、すぐにこのケージに来た人物だ。

身長は170cm程と女性にしては高めの身長、体はせているが、程よく筋肉がついている。

顔には所々ところどころどろ付着ふちゃくしているが、ととのった顔立ちをしている。

乱雑らんざつに伸びた黒髪くろかみを無理やり後ろでむすび、マフラーの様な長い布を首に巻き口元を隠しているのが特徴的とくちょうてきだ。


 見晴らしのいい場所からじっとゲートを見つめている。

彼女の視線の先には、悲壮感ひそうかんただよう元平民たち。

そして泣きながらその場にうずくまる者たち。

まるで目に焼き付けるかのようにその様をまばたきもせずに見つめている。

「ライカ。その辺にしとけ。頭おかしくなるぞ。」

ライカに声を掛けたのはデリック。

やさぐれた雰囲気ふんいきを持つ彼は、髪はぼさぼさのまま手入れはほとんどされていない様子。

黒髪くろかみにメッシュの様に白髪しらがが混じっている。

身長はライカより少し高いくらい。

体格はかなりのせ型。ひょろひょろと言う表現がぴったりの体格をしている。

「…」

デリックに声を掛けられてもライカはゲートから目を離さずただただじっとその場に立っている。

「はぁ~…」

デリックは溜息ためいきくとライカに近付き、軽く頭にチョップをする。

「いたっ」ライカは声を上げると同時にデリックをにらみつけた。

「おいおい。そんな殺気さっき向けんなよ。」

デリックは両手を前に出し、必死にっている。

「なんだデリックか。」

そう冷たく言い放つライカ。

見た目からして明らかにデリックの方が年上。にもかかわらずライカは敬語などを一切使う様子がない。

「なんだとはなんだ。」

デリックは少しむくれる。

「今あたしに話しかけんな。殺すぞ。」

むくれるデリックに物騒ぶっそうな言葉をびせ、視線をゲートに戻すライカ。

「お前がそんな凝視ぎょうししていても状況は変わらんぞ。」

なおもライカに忠告ちゅうこくをするデリック。

「黙れ。」

どうやら互いに頑固がんこな性格らしい。

「だいたい毎年毎年狂ったようにゲートを凝視ぎょうしして、何がしたいんだよ。」

「どうやればあのむかつく役人たちを殺せるか。それしか考えていない。」

ぶっきらぼうにそう返すライカ。

「はぁ~」と再び溜息ためいきくデリック。

やれやれと言った仕草しぐさをして説得せっとくを諦めたデリックは「晩飯までには帰って来いよ。」とライカに告げ、その場を後にした。


 「あたしの悲願ひがんが叶わないなんてことは分かってるよ。でもこのままあいつらに好き勝手やらせていいわけないだろ…」

消え入りそうな声でそう言うライカの目には涙が溜まっていた。



‐ベルゲンの樹海、小要塞しょうようさい

 どうやら今日と言う日を無事に終えられそうだ。

この小要塞しょうようさいにヴィンさんとソニアを呼んだのは正解だったようだ。

税徴収日ぜいちょうしゅうびに当たる今日、これと言って銃声じゅうせい悲鳴ひめいなどのたぐいが聞こえる事はなく、何事もなく今日と言う日を終えられそうなことに僕はホッとむねで下ろしていた。

今は軽い夕食を食べ終わり、小要塞しょうようさいの中で4人で談笑だんしょうをしている最中だ。

恐らくゲート付近ではさぞ騒がしい事だろう。

しかしそれをなるべく考えないために他の3人も少し無理をして笑顔を作って談笑だんしょうしているのかも知れない。

「ヴィンさんが海で拾ったお酒を飲んだ時は大変でしたよ。」

「おいソニア!それ以上言うな!」

と、今はヴィンさんの恥ずかしいエピソードを僕とレティが笑いながら聞いていると言った感じだ。

「ソニア。続きをどうぞ。」

僕があおる。

「おいルービス!お前やめろ!」

「私も聞きたいですソニアさん!」

レティまであおる。

「おいおい嬢ちゃん…勘弁かんべんしてくれよ…」

ヴィンさんは少し疲れてきたようだ。

「酔っぱらった挙句、お腹壊して大変だったんですよ~。においが。」

ソニアも少し気分が乗ってきたのかルンルン気分でヴィンさんの恥ずかしいエピソードを語りだした。

話しの落ちを聞いた僕とレティは爆笑ばくしょう。ヴィンさんは顔を真っ赤にして黙っている。

なんともなごやかな光景だ。

こんな時間がずっと続けばいいのにとさえ思えてしまう。

「ちっ!俺は小便しょうべんしてもう寝るぜ。」

そう言うと小要塞しょうようさいから出て行った。

その様子を見たレティは少しやりすぎたと思ったのか、「笑ってしまったのまずかったですか?」と言って心配していた。

「大丈夫ですよ。いい意味で単純たんじゅんですから明日になれば機嫌きげんも直ってますよ。」

ソニアもソニアで結構ひどいな。

「まぁ、ヴィンさんはあまりに持つ人じゃないから大丈夫だよ。」

僕も少しフォローしておこう。

「そ、それならいいのですが。」

僕たちの話を聞いて少し安心した様子のレティ。

「それじゃ、あんま夜更よふかしするのも良くないから今日はそろそろ寝よっか。」

僕がそう言うとレティとソニアも「そうですね。」と言ってその場を片付けだした。

まぁ片付けと言っても4人分のカップだけなので片付けはすぐに終わる。

「ではルービスさん。おやすみなさい。」

ソニアがそう言って部屋に向かう。

「おやすみなさい。ルービスさん。」

レティもソニアに続いてそう声を掛けてきたが、アイコンタクトの様に目配めくばせをしている。

「分かってるよ。」と言う意味を込めて僕はうなずいて返す。


 この後、ヴィンさんとソニアが寝静ねしずまった後に2人で話をすることになっている。

内容についてはおおよその見当けんとうはついているし、僕の返答内容へんとうないようも決まっている。

あと問題なのは僕が起きていられるかと言う事。

まぁこれについては大丈夫だと信じたい。

眠気をおさえるために少し仮眠かみんもとったし、今日はいつもの様に動き回るのを制限していたからね。

さて、それでは少し不機嫌ふきげんなヴィンさんをなだめながら2人が寝るのを待つとしますか。

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