国民の感情

 さてと、昼飯は野草炒やそういためにしようか。

そんなことを考えながら森の野草畑やそうばたけかごを持ち出かける。

はたから見たら買い物に行く主婦そのものだろう。

小要塞しょうようさいの近くでも野草を育てているが、まだ日数が経っていないのでどうしても生産せいさんが追い付かない。そこで以前発見した野草畑やそうばたけに取りに行こうと言う事になったわけだ。

現在レティとソニアは部屋の中にこもり、ヴィンさんは小要塞しょうようさいの中で猪用いのししようの罠を制作している所だ。

今日は皆をあまり外に出さない方がいいだろうと思って、僕1人で行動していると言うわけだ。


 少し歩くと目的の場所が見えてきた。

「相変わらずここだけは別世界だよなぁ。」

思わず口からこぼれた言葉。

見渡す限り食べれそうな野草ばかり、まともな食べ物があまりないこのケージ内にいればこの場所が本当に別世界の様に感じてしまう。

僕は4人で食べれそうな分と、追加で栽培さいばいを行うための野草を素早く取っていく。

さすがに熊とかと鉢合はちあわせすると大変そうな事と、レティと同じく野犬やけんおそわれたらそれこそ面倒だ。

動物達がこの場所を知らないはずはないと思っているからだ。

さっさと取るもの取って帰ろう。そう思い素早く野草を取り終え、僕は小要塞しょうようさいへの帰路きろいた。


 「みんなー。お昼御飯ですよー。」

小要塞しょうようさいの中にひびき渡るような大きな声でみんなを呼ぶ。

するとまず1番近くにいたヴィンさんが来た。

続いてレティとソニアも部屋から出てきた。

「うまそうだな。」

ヴィンさんがめてくれた。明日は雨が降るかな。

「何もお手伝いできなくてすみません。」

ソニアが申し訳なさそうにしている。

「大丈夫だよ。それに簡単な物しか作れてないからそんな気にしないで。」

献立こんだては先程取ってきた野草やそうを洗ってただいためただけの簡単なものだ。

「さぁ。冷めないうちに食べよう。」

僕がそう言うと3人は「「「いただきます。」」」と言い、食べ始める。


 そしてみんなすぐに食べ終わる。当然か、野草炒やそういためしかないしね。

今日の晩御飯は何にしようか?何気なにげに毎日のメニューを考えるのは大変だったりする。限られた食材の中で毎日の食事に変化を付けるのが非常にむずかしい。

そんなことを考えているとソニアが「後片付けは私に任せてください。」と言ってきた。

まぁ洗い物とかもそんなに多くないし任せちゃってもいいかな?

「悪いねソニア。それじゃお願いするよ。」

「はい。任せてください。」

そう言うとソニアは手際てぎわよくみんなの食器を一纏ひとまとめにしていく。

そしてソニアが食器を運ぼうとすると、レティが「私も手伝います。」と言ってソニアと共に食器を運んでいった。


 あの2人はうまくやっているのだろうか?

初めて対面を果たした昨日から一晩ひとばんしか経っていない状態で部屋に2人きりにするのはどうかと思ったが、生憎あいにく使える部屋が1つしかない。

ソニアは結構けっこう社交的しゃこうてきな性格だから大丈夫そうだけど、レティは人付き合いが苦手そうな感じがある。

まぁでも部屋に2人でこもるのは今日だけだ。

明日以降はレティとソニアの意思に任せよう。

 「そう言えばヴィンさん。完成した?」

罠の進捗情報しんちょくじょうほうをヴィンさんに聞いてみる。

「おう。とりあえず固定部分は全部できたぜ。後は駆動部分くどうぶぶんだけだが、そっちもお前が作ったやつを参考にしてチャレンジしてみるつもりだ。」

「じゃそっちは任せちゃおっかな。」

「おう。完成したら声かけるぜ。」

とは言ったものの、そうなると僕のやることが無くなってしまうな。と思いつつ、まぁ久しぶりにのんびりするのもありかな。なんて事を思いつく。

「じゃヴィンさんに任せて久々にのんびりさせてもらうよ。」

そう言うとヴィンさんは「あぁ。ゆっくりしててくれ。」と言ってくれた。


 久々のオフ日だー!と喜べないのは仕方のない事だろう。今日は税徴収日ぜいちょうしゅうびなのだから。

かと言ってすることがないと嫌でも気になってしまうものだ。

今頃ゲート付近は地獄じごくの様な状態になっている事だろう。

考えるだけ憂鬱ゆううつになる。

そして今日の夜、ヴィンさんとソニアが寝静ねしずまった後にレティに呼び出しを食らっている。

話の内容についてはおおよ見当けんとうが付いている。

だが、僕の考えは初めてレティと話をしたあの時からもうすでに決まっている。

あとはレティ次第だ。



 洗い物が済んだソニア殿と私は再び部屋に戻っていた。

先程同様、洗い物をしている時も、今も特に話をすることはなかった。

気まずすぎて苦しい…。

正直どう接していいのか分からないと言うのが本音だ。

こちらが何か質問して一言で返って来てみろ。「あ…はい。」で会話が終わるぞ。

そうなったら私は二度と立ち直れないかもしれない。

いや、二度とソニア殿に話しかける事が出来なくなってしまう。

何と言う豆腐とうふメンタル。我ながら情けない。

本のページをペラペラとめくってはいるが全く内容が頭に入ってこない。

「レティさんって…。」

うわ!びっくりした!

ソニア殿が急に私の名前を呼んだ。

「は、はひ!」

まずい。声が裏返ってしまった。

「レティさんはいつケージに来たんですか?」

よくある質問だ。ケージあるある。

「私がここに来たのは建国けんこくされた時からです。」

建国けんこくされた時、つまりこのケージが出来た時からいることになる。

「ソニアさんはいつからですか?」

「私は今年で6年目になります。」

と言う事は最初の1年はえたと言う事か。

「そうでしたか…」

これしか言えない。「ご両親は?」とかの質問はさすがに聞けないだろう。

「ソニアさんは今の帝国をどう思っていますか?」

苦しみぎれの質問です。

「…正直に言うと、にくいです。」

やはりな。ソニア殿の思っていることが大多数の意見だろう。

「レティさんだからお話しますが、私は今の皇帝が何をしたいのかが分かりません。下民げみんなどと言う身分を作ってこんな何もない荒野こうやに閉じ込めて。」

もっともな意見だ。

「私も同意見です。この国は国民から搾取さくしゅすることしか考えていないと言っても過言かごんではないでしょう。」

この言葉をにまた部屋の中は静寂せいじゃくつつまれる。

「これからどうなるんでしょうね。この国は。」

ソニア殿いや、国民からしてみれば将来の不安しかないだろう。

この国がどこに向かっているのか、皇帝と血のつながりがある私でさえ全く分からないのだから。


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