レティらしさ

 静かだ。

今、小要塞しょうようさいの外で4人で朝食をっている。

しかし先程から誰も口を開かない。非常に静かだ。

静かすぎて怖いくらい。

そしてレティ、ソニア、ヴィンさんの3人は中々食なかなかしょくが進まないようで、かなりゆっくりなペースで朝食を食べ進めている。

すでに完食しているのは僕だけだ。

 まぁ、理由は言うまでもない。今日が税徴収日ぜいちょうしゅうびの当日だからだ。

さいわいこの小要塞しょうようさいは森の中と言う事と1番近いゲートから離れていることもあり、ケージ送りにされた人の悲鳴ひめいなどは聞こえてこない。

だが、今ケージには続々と下民落げみんおちした平民へいみんが送られている事だろう。

それを考えれば食が進まないと言うのは納得できる。

だからと言って何も食べないと言うのは体にどくだ。

「食欲がない。」と口を揃えて言う3人に無理やりにでも食べさせようとこの場に召集しょうしゅうけた。と言う流れだ。

「このまま静かに今日が終わってくれればいいんだけどな…」

沈黙ちんもくやぶったのはヴィンさんだった。

「例年と同じと考えれば、正午頃しょうごごろから騒がしくなりそうでけどね…」

ヴィンさんの言葉にソニアが返答する。

税徴収ぜいちょうしゅうは午前の早い時間から始まり、払えない者はその場でケージに送られてくる。

ここに送られてきた者たちの最初の反応は本当に十人十色じゅうにんといろ

泣き叫ぶ者もいれば、放心状態ほうしんじょうたいになって動けない者、ケージでの暮らしを受け入れる者。

本当に様々だ。

僕たちが1番聞きたくないのが、泣き叫ぶ悲痛ひつうな声、それから抵抗者ていこうしゃに向けて行われる発砲はっぽう威嚇射撃いかくしゃげきの音。

これは毎年聞こえてくるが、何度経験しても慣れないな。

「とにかく今日はみんなで要塞ようさいこもってようよ。明日になれば少しは気もまぎれるだろうし。」

そうだ。今日さえ超えてしまえば…。

僕なりの精一杯の提案だった。

「そうですね…その方がいくらか気が楽かもしれませんね。」

「そうだな。要塞の中で手作業でもしてりゃ気がまぎれるかもな。」

ヴィンさんとソニアが僕の意見に同意してくれた。

「…」

そしてレティは先程から一言もしゃべらない。

顔を見れば分かる。これは相当悩んでる顔だ。

「レティ?」

「…」

少し心配になったので声を掛けてみたが、返事がない。

「レティ!」

「は、はい!」

先程よりも少し大きい声で呼びかけると驚いたように返事が返ってきた。

「どうしました?」

どうやら今まで上の空で僕らの話を全く聞いていなかったようだ。

「ソニア。ヴィンさん。悪いけど要塞ようさいに入っててくれないかな?レティ。片付けるの手伝って。」

「はい。」

力なく返事をするレティ。

「私もお手伝いしますよ?」

すかさずソニアが手伝いを申し出るが、「ごめんソニア。少しレティと話しておかなきゃいけないことがあるんだ。」と僕は返す。

「そう…ですか。わかりました。」

すぐに応じてくれた。僕にしてはめずらしく真面目まじめな顔で言ったからかな?

「ルービスさん。レティさん。お願いしますね。」

そう言い残しソニアは自分の使っていた食器類しょっきるいを重ねて片付けやすいようにして小要塞しょうようさいに入って行った。

後を追うようにヴィンさんも小要塞しょうようさいの中に入った。

「ルービス…さん。」

消え入りそうな声で僕を呼ぶレティ。

「裏に行こう。」

僕はそれだけを言うと4人分の食器を持って小要塞裏しょうようさいうら水溜場みずためばに向かった。

レティも僕の後ろを付いてくる。


 「レティ。悩む気持ちは分かるけど、君がそこまで悩んでどうにかなる問題じゃないんだ。」

少し冷たいかな?とも思ったが、ありのままの現実を言ってしまえば僕の言ってることが正しいはず。

「分かっていますよ。それくらい。」

レティも少し強めの口調で返事を返す。

「分かっているならいい。これ以上は何も言わない。ただもっと…何というか、元気出しなよ。肉食ってる時みたいにさ。」

「なっ…!」

途端とたんにレティの顔が真っ赤になる。

顔を赤くするってことは多少恥ずかしいと思ってたりするのだろうか?

「今はそんな事関係ないじゃないですか!」

「肉食ってる時のレティが1番輝いて見えるぞ?」

さらに追い打ちをかけてみる。

「人を食いしん坊みたいに言わないでください!」

ちょっと待て。肉に関して言えばレティは立派な食いしん坊だぞ。

「ごめんごめん。それじゃ次からレティは肉なしだ。」

「なんでそうなるんですか!」

「いや、なんとなく?」

「それいじめと言うんですよ?」

「肉食べたいの?」

「っ…」

黙ってしまった。

「いらないの?」

さらに意地悪をしてみる。

「食べたいです…。」

かすかに聞こえる声でそうつぶやく。

「え?聞こえないんだけど。」

「食べたいです!」

今度ははっきりと言ってきた。

「そっちの方がらしいよ。」

「あなたは私のことなんだと思ってるんですか?」

あきれ顔でたずねてくるレティ。

僕は迷わず、「肉食系女子。」と答えた。

「なっ…」

また顔を真っ赤にするレティ。今度は恥ずかしいじゃなくて怒りかな?

「そう言う顔してなよ。」

やっぱり喜怒哀楽きどあいらくの感情が豊かな方がレティらしい。

今日気持ちが滅入めいるのはよく分かる。

でもこんな時こそ明るくって感じでね。

「…本当に意地が悪いですね。あなたは。」

そう言うレティの顔から怒りの感情はすっかり消えていた。

「で、話と言うのはこれですか?」

「そうそう。僕なりのはげまし。」

レティは「はぁ~…。」と溜息ためいきく。

一応いちおうはげまされたと言う事にしておきます。」

そう言った時のレティの顔からは悲壮感ひそうかんの様な暗い雰囲気は消え、心なしか少し感情がやわらいでいるような印象だった。

「本当素直じゃないよね。」

「黙ってください。」

こうして僕とレティは皿洗いを続行した。


 そして皿洗いが終わり、小要塞しょうようさいに入ろうと入り口に向かっている時、「ロシエル殿。今日、あの2人が眠った後に時間をください。」と言ってきた。

ふざけているようでもない真剣しんけんな顔をしている。

どうやらレティの中で答えが出たみたいだ。

僕は「分かった」とだけ返事をした。

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