家族の絆

-ヴァール帝国ケージ、南ゲート-

 「今日中には必ず資金を集めます。ですからどうか時間をください。お願いします。」

税徴収担当官ぜいちょうしゅうたんとうかんに泣きながらすがり付く男の姿がある。

徴収時間ちょうしゅうじかんまでに税を用意できなかったのはお前の落ち度だ。」

徴収官ちょうしゅうかんすがり付く男を払うように言葉を吐く。

「必ずお支払い致します。どうか時間を…。」

「それならお前の娘を献上けんじょうしたらどうだ?それなら今すぐに資金は集まるぞ?」

徴収官ちょうしゅうかんはニヤついた表情ですがり付く男のむすめであろう小さな女の子を指差しながら言った。

この言葉を聞いた女の子はおぼえるように母親の後ろに隠れる。

「そ、それだけはどうかご勘弁かんべんを…」

「お前たちの持ち金は1500万VB。親子3人の規定徴収料きていちょうしゅうりょうは2100万VBだ。夫婦で助かるには子供を犠牲ぎせいにするか、夫婦のどちらかを犠牲ぎせいにするかだ。早く決断しろ。」

もはや成す術のない男はその場にうずくまる。

「すまない…すまない…リリア、シフォン…」

うずくまる男は自分の妻と娘に必死にびる。

「おい。後がまっているんだ。さっさと決めろ。」

感傷かんしょうひたる時間もない。税を満額まんがく払えない者からは容赦無ようしゃな市民権しみんけん剥奪はくだつする。

残酷ざんこくなまでの徹底主義てっていしゅぎなのだ。

リリアと呼ばれた女性は、後ろに隠れるシフォンの頭をでながらうずくまる男に言った。

「シュウさん。私がケージに行きます。シフォンの事、お願いね。」

男の名はシュウ、妻の名はリリア、娘の名はシフォン。

この家族は究極きゅうきょくの選択のはざまに立っている。

家族3人でいるには財産ざいさん放棄ほうきして全員でケージに行くしか方法がない。

しかし妻であるリリアは自分がケージに行くと言うことを選択した。

「リリア…」

「ママ…どっか行っちゃうの?」

シフォンのうるんだ目がリリアの決意をにぶらせる。

しかしリリアはそれをグッとこらえ、徴収担当官ちょうしゅうたんとうかんに「大人1人分の金額と子供1人分の金額をお支払いしますので、お納めください。私の分については用意できませんのでケージに行きます。」と告げる。

「その思い切りの良さいいねぇ。あんたの旦那より余程よほど大黒柱だいこくばしらに向いているんじゃないか?」

「旦那は優しいですからね。あなた方とは違って。」

「おーおー。気の強いこと。」


 徴収担当官ちょうしゅうたんとうかんとリリアがやりとりをしている頃、シュウとシフォンも話をしていた。

「シフォン?ママと離れたくないよね?」

シュウは泣き崩れていたさっきまでの顔とは違い、穏やかな顔でシフォンに質問をしていた。

「離れたくない。」

シュウの問いかけに娘のシフォンはすぐさま答えを返す。

「そうだよな。パパもママとシフォンと3人でいたいんだ。」

「うん。3人がいい。」

「シフォン?今まで見たいな生活できなくなるけど大丈夫?もうおもちゃ買ってあげられないし、お人形さんと一緒に寝ることできないと思う。それでも3人で一緒にいたい?」

「パパとママと一緒なら我慢できる。」

なんていい娘を持ったんだ。とシュウは思った。

何よりも家族を大切にしてくれる娘を持つことができてシュウは満足だった。


 「担当官たんとうかんさん。僕たち家族は3人でケージに入ります。」

シフォンを抱いたシュウはリリアの後ろに立ち、徴収担当官ちょうしゅうたんとうかんに言った。

「!?シュウさん?何を言って…」

「リリア。僕たちは3人で家族だ。誰かがけたら家族でいれなくなってしまう。だから3人でケージに行こう。家族さえそろってれば何とでもなるさ。」

「シュウさん…」

先ほどまで狼狽うろたえていたシュウは嘘のように立ち直り、一家の大黒柱だいこくばしらとしての存在感を際立きわだたせている。

家族のきずなを見せつけられる形となった税徴収担当官ちょうしゅうたんとうかんだが、まゆ一つ動かすことなくその光景を見ていた。

「そうか。ならばさっさとゲートをくぐれ。今日からお前たちは家族揃って下民だ。」

冷たくそう言い放つと、次に待つ平民の対応に当たった。


 シュウ、リリア、シフォン。3人の親子が一生戻ることが出来ないであろう平民街へいみんがいを後にし、ケージへと続くゲートをくぐった。

「ごめんなさい。シュウさん。シフォン。」

リリアは申し訳なさそうな表情で夫と娘に対し謝る。

「謝らないでくれリリア。元はと言えば資金を集められなかった僕が悪いんだ。」

そしてシュウも申し訳なさそうにリリアに顔を向ける。

「そんなことないわ。シュウさんは1年間ずっとはたらめで頑張ってくれた。感謝こそすれ、うらむなんて事はないわ。」

落ち込むシュウに対しはげましの言葉を掛けるリリア。

「おかしいのはこの国よ。あんな莫大ばくだいな税金払えるわけないじゃない。」

リリアの怒りの矛先ほこさきは当然ヴァール帝国そのものへと向くことになる。

「その辺にしておこうリリア。兵士に聞かれたら本当に命がない。」

少しずつ怒りのボルテージが上がるリリアをシュウがなだめる。

「そうね…」

リリアもシュウの言葉を聞いて少し冷静になる。

「パパ。ママ。喧嘩、ダメ。」

純粋じゅんすいなシフォンの視線が夫婦の身にさる。

「大丈夫だよシフォン。パパとママは凄く仲良しなんだから。」

リリアがニコッと微笑みシフォンに言う。

「そうだぞ。パパはママとシフォンが大好きなんだ。」

そう言うとシュウはリリアとシフォンを抱きしめる。

「これから辛いことがいっぱいあると思う。でも絶対に下を向かないように生きて行こう。大丈夫。絶対パパが2人を守るから。」

「シュウさん…」

「私もパパとママを守る。」

シュウはこの時、『3人一緒ならどんなに苦しいことも乗り越えられる。』そう思っていた。


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