からかったでけですよ

 「「…」」。

あぁ…。この沈黙ちんもく緊張感きんちょうかん。何とかしてください。

気を抜いたら今にも逃げ出しそうなくらい空気がおもいです。


 今ソニアと僕は皿洗いをしている。

水は海岸に漂着ひょうちゃくしていたたるを拾ってきて、そこにめた雨水あまみずを使っている。

安心してくれ。ちゃんと1回、沸騰ふっとうさせたから生活用水せいかつようすいとしては全然使えるレベルだと思う。

飲み水や料理用水りょうりようすいについては煮沸しゃふつと言う方法を使って確保している。

と言うかそんなことはどうでもいい。早くこの沈黙ちんもくを何とかすることを考えなくては!

 「私、レティさんがいるって知らなかったです。」

え?言ったよね僕?

「やっぱり同棲どうせいしてたんですね。」

「ちょっと待って…ソニア?僕言わなかったっけ?森で女性を助けたって。」

確かに言ったはずだよ。経緯けいいは全て伝えたはずだもん。

「森で女性を助けたと言う話は聞きました。でもまだ一緒に暮らしていたとは思いませんでした。」

うそ~…説明不足せつめいぶそくだったって事…?

「2人での生活はさぞ楽しかったのでしょうね?」

今度は顔すら笑っていないぞ。ソニアってこんな顔もするんだ…。

「い、いや。本当にごめんなさい。でも隠すつもりはなかったんだ。」

ダメだ。うまい言葉が見付からない。

「森で助けて、そのままの流れで今日まで来た感じなんだ。本当だよ?」

自分でも何を言ってるのかよく分からなくなってきたぞ。

僕があたふたしているのをにらみつけるように見ているソニア。

しかし、次の瞬間しゅんかんスゥっと元の優しい顔に戻った。あれ?

冗談じょうだんですよ。レティさんがいたのは正直しょうじきおどろきましたけど、そんな感じだろうなとは思ってました。ついからかっちゃいました。ごめんなさい。」

そう言ってソニアは片付けの手を止めて僕に頭を下げてきた。

「い、いや。僕も説明が不充分ふじゅうぶんだったみたいで、こっちの方こそごめんなさい。」

つられて僕もソニアに頭を下げる。

2人で頭を下げ合っている変な絵面えづらになっている。

「ふふふ。」

ソニアが先に笑い出す。それにつられて僕も笑いがみ上げてくる。

「あはは。」

これで誤解ごかいは解けたってことでいいのかな?

なんかホッとしたらドッと疲れが出てきたぞ。


 「ありがとうソニア。助かったよ。」

一通りの後片付あとかたづけが終わった。

「今お茶を用意するから焚火たきびの方で待っててくれないかな?」

「手伝いますよ?」

後片付あとかたづけまで手伝ってもらったんだ。お茶をれるくらいなんてことないから大丈夫だよ。」

「そうですか?それじゃぁお言葉に甘えますね。」

「うん。すぐむから。」

ソニアは小要塞しょうようさい入り口すぐよこ焚火たきびの方に歩いていく。

焚火たきびの方では爆睡ばくすいしているヴィンさんと書庫しょこから持ってきたと思われる本を読んでいるレティ。うまく馴染なじめるといいのだが。

さて、さっさとお湯をかしてお茶をれてしまおう。

僕はれた手つきで4人分のティーカップもどきと茶葉ちゃばを用意してお湯がくのを待っていた。



 「となりよろしいですか?」

ふいにソニア殿がそう声を掛けてきた。

先程とは違って顔がおだやかになっている。

ロシエル殿と何を話したのだろうか?気になるが人の事に首を突っ込むほど私も野暮やぼではない。

「えぇ。どうぞ。」

そう言うと私は持っていた本を閉じ、ソニア殿が座れるよう、少し体を横にずらした。

「失礼します。」と言ってソニア殿は私のとなりに座った。

しかし、見れば見るほど美人だ。

「今日の主役に片付けをお任せしてしまい申し訳ありませんでした。」

「気にしないでください。私たちも今日からここでお世話になるんです。これくらいしなければばちが当たってしまいます。」

やはり、ロシエル殿が言っていたように相当そうとうそだちがよさそうだ。

元貴族もときぞくの子だろうか?家名かめいを知らないだけになんとも言えないが、所作しょさ、話し方、どこを見ても気品きひんと言うものが感じ取れる。

あらためて、今日からよろしくお願いします。レティさん。」

そう言うとソニア殿は深々ふかぶかと頭を下げてきた。

「ソニアさん。頭を上げてください。私もここではルービスさんにお世話になっている身なんですから。」

「そうはいきません。きはどうであろうとここでは先輩なんですから!。」

まぁ、そう言われると何とも言えないけど…ここの生活で先輩としてほこれるような事をしていたかは自分でも疑問ぎもんが残る。

よくよく考えてみるとロシエル殿におんぶにっこの状態だったな…明日からは少し生活態度せいかつたいどあらためようと思った。

「いえ、本当に…先輩らしいことなんて何もできませんから…」

そろそろ私もたじたじな状態じょうたいだ。

「あ!そう言えばソニアさんはおいくつなんですか!?」

我ながら苦しい質問だと思う。

でもこうでもしないと話題を変えられない。

「歳ですか?今年で16です。レティさんはおいくつですか?」

ソニア殿は年下でした。

「私は今年で18になります。」

「それではやはり先輩ですね!」

また話が振り出しに戻りそうな予感…


 「おぉ~。盛り上がってるね。」

ロシエル殿がお茶を持って登場。助かった。

思わず私はホッとしてしまった。

「おまたせ。熱いからゆっくり飲んでね。」

そう言いながらソニア殿と私に順番に紅茶の入ったカップを渡していく。

「いい香りですね。」

ソニア殿は紅茶の香りを楽しんでいる。

「ヴィンさんは…起きそうにないか。」

ヴィン殿はすで爆睡状態ばくすいじょうたいだ。

ロシエル殿はそう言うとヴィン殿の近くに座り自分のカップを手に取り、ゆっくりと紅茶を飲んでいく。

「ソニア。レティ。申し訳ないけど他の部屋の掃除そうじが終わるまでは一緒の部屋で寝てもらいたいんだけどいいかな?」

そうなりますよね。こればかりは仕方ないだろう。

「もちろん。私は構いませんよ。」さすがにソニア殿を小要塞しょうようさいきスペースに寝かせるわけにはいかないだろう。

「レティさんがよろしければ是非ぜひ!」

ソニア殿も快諾かいだくしてくれた。嫌と言われたらどうしようかと思ってしまった。

明日以降あしたいこう、すぐに他の部屋片づけるから、少しだけ辛抱しんぼうしてね。」

ロシエル殿はそう言うと少し疲れたような顔をしていた。

無理もないだろう。この小要塞しょうようさいから東海岸ひがしかいがんまでの往復の道を移動して、その後に盛大なパーティーからの片付けだ。

ここに居る誰よりも動いていたのだから疲れるのは当たり前だろう。

「ルービスさん?そろそろお休みになった方が…」

ソニア殿も心配そうにロシエル殿に声を掛ける。

「いや、大丈夫だよ。」

ロシエル殿はそう返事をするが、やはり疲れは隠せない様子だ。

「あとの事は私がやりますから、休んでください。」

私も休むことを提案する。

「いや、本当に、今日はあまり寝たくないんだ。」なるほど。そう言う事か。

寝て夜が明けたら地獄じごくが始まるのだ。

私も今日は寝れる気がしなかったから痛い程気持ちがわかる。

「そうですよね…。楽しかったのでつい忘れてしまってましたけど…明日なんですよね。」

やはり誰にとっても明日は地獄じごくなのだ。

「今日はこうして親睦しんぼくを深めましょう。」

私からの提案だ。寝れないのならせめて楽しい話でもしていた方が気もまぎれるだろう。

「そうだな。」

「そうしましょう!」

2人も同意してくれた。

豪快ごうかいにいびきをかいているヴィン殿と、話し込む私たち3人。

こうして税徴収前日ぜいちょうしゅうぜんじつの夜は静かにけていった。

                        

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