歓迎パーティー

 「こんなにうまい肉はいつぶりだ…」

「すごいですルービスさん!本当にこのお肉美味しいです。」

ヴィンさんとソニア。2人からも好評こうひょうのようで何よりだ。

「…」

そしてだまって肉に食らいつくレティ。

何かしゃべれよ。

「まさかルービスがここまで生活力せいかつあるとはな。今まで世話せわしてやってたのが馬鹿ばからしく思えてきたぜ。」

「ははは…」

これに関しては何も言えない。実際じっさい僕はこの小要塞しょうようさいに来る前はただのなまものだったのだから。

衣食住いしょくじゅうのうち衣食いしょくの2つをヴィンさんとソニアが面倒見めんどうみてくれていたんだ。

これについては本当に、かわいた笑いしか出ないよ。

「私は分かっていましたよ。ルービスさんはやればできる子って。」

ソニア…それは小さい子に向けて言う言葉だよ…でも一応いちおう言葉ことばとして受け取っておこう。

「本当になまものだったのですね。」

レティ。余計よけいな話をかえすんじゃありません。

「そうだぜじょうちゃん!こいつはひまさえあれば木の上だろうがゴミの上だろうが場所をえらばずてばっかだったんだぜ!」

「ヴィンさん。それ以上言わないで…」

このハゲマッチョこんなに口軽かったっけ?

「がっはっは!」

なんで酒飲んだ後みたいになってんのこのおっさん。

アルコール成分せいぶんの入っている物なんてないはずだけど。

「ルービスさん。次のお肉はまだですか?」

おいレティ。なぜこの状況じょうきょうで君が肉の要求ようきゅうをしてくるんだ。

「レティ。君は先日たらふく食べただろ。少し自重じちょうしなよ。」

「あ…」

どうやらレティは肉を前にするとわれを忘れるようだ。今後気を付けなければいけないな。

「いいじゃないですか。たくさん食べるレティさんを見ていると私たちも気持ちいですよ。ねぇ?ヴィンさん?」

ソニアの優しさが全開だ。

「おう。肉にがっつく女は嫌いじゃないぜ。」

と、同じく肉にがっついているヴィンさんがソニアの問いに答える。

何言ってんの?このおっさん。

「ソニアさん。ヴィンさん。遠慮えんりょはしませんよ?」

ほら見ろ。無駄むだめるもんだからレティが調子ちょうしに乗ったじゃないか。

朝まで「食欲しょくよくない…」とか言ってたくせに誰よりも肉食ってんじゃん。

まぁこんな姿を見ていればヴィンさんとソニアもレティが元王女なんて微塵みじんも思わないだろう。

その辺のことについては結果オーライとしてプラスに考えておこう。

 「さぁ自信作!猪肉ししにくミンチの焼肉団子やきにくだんごだ!」

「「「おぉ!」」」

「ふふふ。みんな目の色をかがやかせおって。

この料理は猪肉ししにくをミンチにし、少しからみのある野草やそういためてしんなりさせたらミンチと合わせてひたすらこねる。焼いたときにくずれないようにつなぎとしてとりたまご一緒いっしょぜ再びこねる。

これはかなりの自信作じしんさくだ。存分ぞんぶんに味わってくれたまえ。」

長々と講釈垂こうしゃくたれているが、一言ひとことで言えばハンバーグだ。

そして僕もレティ同様どうようテンションがおかしくなっているのはお約束やくそくだと思ってくれて問題ない。

「あ…すごい肉汁にくじゅう…」

ソニアが妖艶ようえんつぶやく。

お願いだソニア。その顔絶対かおぜったい他所よそで見せないでくれ。

男がけものしてしまう。

「ふっはっは。こりゃうめぇ!。」

食うか笑うかどっちかにしてくれないかなヴィンさん。

「ロ…ルービスさん!おかわりありますか!?」

また言い間違えしそうになってるし。

と言うかもう食べたの!?本当肉食べると性格せいかく変わるなレティ。

「お前は本当にルービスか?」と突然とつぜんヴィンさんが言い出す。

突然とつぜん何?」

「あのなまもののルービスがこんなうまい料理りょうり作れるはずが…」

失礼しつれいぎないヴィンさん?」

さすがにそれは傷つくよヴィンさん。

以前いぜんなまけものだったのは認める。と言うかかなりなまけていたのは大いに自覚じかくがある。

「ヴィンさん失礼ですよ!【男子三日会だんしみっかあわざれば刮目かつもくして見よ】と言うじゃないですか。」

ソニア…フォローになってない…。

泣いていいかな?

「ルービスさん早くおかわりください。」

本当にブレないねレティは…

「はいはい。もうすぐ焼けるから!」

「急いでください。」

「分かってるよ!」

一切顔色いっさいかおいろを変えないで肉を要求ようきゅうしてくるからねこの子。

将来しょうらいが心配だよ。

随分ずいぶんなかがよろしいんですね。」

「ソニア。仲がいいと思える部分はどこかな?僕が一方的いっぽうてきに肉を要求されてる感じなんだけど。」

と言った時、ソニアの顔にかげがついていた。

以前にもこの顔を見たことがあるぞ。

どこだ?一体僕はどこで地雷じらいんでしまったんだ?

「何か気心きごころが知れていると言いますか、先程からいきがぴったりですよ?」

ソニア。その顔本当に怖い。顔はにこやかなのに目が笑ってないよ?

「…」

ヴィンさんはただならぬ空気をさっしたのか黙る。

げないように注意してくださいね?」

一切いっさいブレることを知らない強欲な肉食王女にくしょくおうじょレティ。

「見てくれよソニア。この人は肉を焼くとそれしか目に入らないんだ。」

「へぇ~。」

あぁ…もう何を言っても墓穴ぼけつってしまいそうなこの感じ。

ヴィンさん助けてよ。

僕はヴィンさんに視線しせんを向けると、わざとらしく顔の向きを変える。

このハゲマッチョ、後で覚えてろよ?

「ルービスさん?」優しいソニアからの呼び声、今は何よりも怖く感じる。

「は、はい!」

何とでも言えばいい。僕は今最大級にビビっている。

「お肉が焦げてしまいますよ?」

「あ!はい!」

いきおいよく返事をして肉に目をやると、ハンバーグが少し焦げてしまっていた。

急いで鉄板てっぱんからさらに移す。

「ルービスさん。がすなとあれほど言ったのに。」

お願いだから少しだまってくれレティ。

ソニアとレティからの視線しせんが痛い…。

僕は少し震える手でハンバーグを切り分けていく。

焦げた部分はヴィンさんに食べさせよう。

さっき僕を見捨みすてたばつだ。

「ど、どうぞ。」

ソニアとレティの前に焼きあがったハンバーグを差し出す。

「美味しそうですね。」

「待ちわびましたよ!」

上品に食べるソニアに対しがっつくレティ。

どっちが元王族なのか分からなくなった瞬間だった。

「どうぞ。ヴィンさん。」

ヴィンさんには焦げたハンバーグを差し出す。

「お、おう。」

さすがに文句は出ないか。まぁ、受け付けないけど。


 えんもたけなわ。と言う感じで、ヴィンさんとソニアの歓迎かんげいパーティーは終わりに近付ちかづいていた。

みんな満足まんぞくしてくれたようで本当によかった。

ヴィンさんは疲れと満腹感まんぷくかんからか、先程から眠そうな仕草しぐさを繰り返している。

ソニアも疲れているのか少しぐったりしている様子だ。

レティは「満足まんぞくです。」とか言いながら焚火たきびまきをくべている。

誰のための歓迎かんげいパーティーなのかよく分からなくなったな。

 さて、それでは後片付けをしちゃおうか。

僕が使用した鉄板てっぱんやら皿などを片付けようとすると、レティが「手伝いますよ。」と言って一緒に運ぼうとしてくれた。

「レティさん。せめて後片付けくらいは私にやらせてください。」

皿などを運ぼうとしているレティにソニアが提案ていあんする。

「今日くらいは休んでいてください。あなた方の歓迎かんげいパーティーだったのですから。」

人一倍肉ひといちばいを食っていた人が言うセリフでもないと思ったが、ここはだまっておこう。

「いえ。ここまでしていただいて休んでいるわけにはいきません。それに…」

少し言葉をにごすソニア。

「ルービスさんとお話したいこともありますし。」

続いてソニアが発した言葉に、僕は思わずギクッと体がふるえてしまった。

「そ、そうですか…。それじゃぁ…お願いしてもよろしいですか?」

レティ。君まで僕を見捨てるのか。当分とうぶん肉はなしだ。

「はい。お任せください。」

にっこりと笑いレティから皿を受け取るソニア。

話しって何だろう…嫌な予感がする…。

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