到着

 そろそろ日がしずみだしたな…。

私はいま小要塞しょうようさいの外に出ていていた。

ロシエル殿どのの話だと夜はこうしていていると害獣がいじゅうってこないらしい。

この小要塞しょうようさいあるじであるロシエル殿どの不在ふざいの今、留守るすあずかる私が出来る事はこれくらいしかない。

 「1人でいるのはこんなにもさみしいものだったか。」

ロシエル殿どのと出会い、この小要塞しょうさいせてから数日しかっていないはずなのに、誰かがいることが当たり前の生活になっていた。

ここに来るまでは1人でずっと放浪ほうろうしていたと言うのに、なんともなさけないものだな。

 しずんでしまえばこの森には近づけないだろう。

2人の説得せっとく難航なんこうしているのだろうか?

ひょっとしたら今日は1人で夜を明かさねばならないかもしれない。

食事は…まぁ、そこまで食欲があるわけでもないので食べなくてもいいかな。

 すると、かすかに人の声が聞こえてきた。

「ヴィンさん!もう少しだ!おとこ見せろ!」と言うロシエル殿どのの声。

「ぜぇ…ぜぇ…うるせぇ…。」と言う野太のぶとい声。

「頑張りましょう!ヴィンさん!」と言う女性の声。

どうやら無事連れて来れたみたいだな。

自分以外の人間の存在にすご安堵感あんどかんが押し寄せる。

次第しだいに足音が鮮明せんめいに聞こえてくる。

すると、草むらからロシエル殿どのの顔が見えた。

向こうも私の姿を確認できたようで、「ほら!もうすぐそこだから!」と同行人どうこうにんに言っている。

そして、「レティ!ただいま~!」と元気よく叫びながらロシエル殿どのがこちらに寄って来る。

「おかえりなさい。ルービスさん。」

私もこう言って彼を出迎でむかえた。ロシエル殿どのの名前をせるのももちろん忘れていない。

そして、彼の後ろには物凄ものすごく疲れた様子のハゲマッチョ。

あ、なるほど。本当にハゲマッチョ。

いけないいけない!確か名前はヴィン殿どの

もう1人は、美少女とロシエル殿どのが言っていたのがよく分かる。

身長しんちょうは私と同じ位か。とにかくスタイルがいい。出るとこ出て、まるとこまっている。

あ、いかん。少し親父おうじくさいか。

どのように生活したらここでそのスタイルを維持いじできるのか是非ぜひとも聞いてみたいものだ。

後でこっそり聞いてみよう。

 「もう無理だ。もう歩けねぇ…」

私が美少女に見惚みとれているとヴィン殿どの?はその場に座り込んでしまった。

「…」

そしてなぜか美少女は私の方を凝視ぎょうししている。

目が怖い。

「ヴィンさん?だらしないですよ?まずはこの方に挨拶あいさつをしないと。」

「あ、あぁ。」

座り込んでいるヴィン殿どのに向かって少しかげの着いた笑顔でそう言うと、「初めまして。ソニアと申します。」と自己紹介じこしょうかいをしてきた。

「あ、こちらこそ初めまして。レティと申します。ロ…ルービスさんには大変お世話になっておりまして…」

危ない。危うくロシエル殿どのと言いそうになった。

はじっこでロシエル殿どのが少しあせっていたのがよく見えた。ごめんなさい。

「初めましてじょうちゃん。ヴィンだ。俺たちも今日からここで世話になる。よろしく頼む。」

そう言うとヴィン殿どの深々ふかぶかと頭を下げた。

見た目のわりに礼儀正れいぎただしい。あ、これ失礼か。

「こちらこそよろしくお願いします。」

ヴィン殿どのにも挨拶あいさつませる。

「ソニアさん、ヴィンさんとお呼びしていいですか?」

一応呼び方は決めておいた方がいいかと思っての提案ていあんだ。

「大丈夫ですよ。私もレティさんとお呼びしてもよろしいですか?」

相変あいかわらず少しかげのある笑顔でこちらを見てくるソニア殿。

「えぇ。是非ぜひ。」

こちらも笑顔で受け答えをする。

「呼び方はそれで大丈夫だ。俺は名前で呼ぶのはこっぱずかしいからじょうちゃんと呼ばせてもらうぜ。」

「え、えぇ。それでかまいません。」

なんか…本当にヴィン殿どのは見た目通りって感じがするな。いい人そうと言うのは間違いないだろう。

一通ひととおりの自己紹介は終了と言う感じで大丈夫だろうか?

あとの段取だんどりは全員と顔見知かおみしりであるロシエル殿どのまかせるとしよう。

『ロシエル殿どの。後はお願いします。』と言う気持ちをめてロシエル殿どのに目で合図あいずを送る。

するとロシエル殿どのさっしてくれたのか、『オッケー』と言わんばかりの顔でうなずいた。

「さーて。自己紹介もんだことだし、おいわいでもしようか!」

唐突とうとつにおいわいと言い出した。

まぁ、ロシエル殿にとってみれば久々ひさびさの家族との再会さいかいと言っても差し支えのない出来事だろう。

 羨ましい限りだ。私にはここまで気を許せる人はこのケージの中には1人もいない。

唯一本音ゆいいつほんねで話をしたのは目の前にいるロシエル殿どのただ1人だけだろう。

昨日きのういのししつかまえたんだ。それで軽くパーティーをしよう。レティ。ちょっと手伝ってくれるかな?」

昨日ロシエル殿は2匹目のいのししを捕まえた。一度捕まえて感覚をつかんだのか、今回はあっさりわなにはめることが出来たそうだ。

「わかりました。」

先日行ったように大きめの鉄板てっぱんでバーベキューのようにして肉を焼くのだろう。

私も準備じゅんび手伝てつだわないとな。

「ヴィンさんとソニアはゆっくり休んでてよ。火のそばにればとりあえずは安心だろうし、何かあったらヴィンさんをたてにすればいいから。」

「おい…」

ヴィン殿どのはいじられキャラなのだろうか?

「あ、私も手伝いますよ?」

ソニア殿どの手伝てつだいを申し出るが、ロシエル殿どのの「今日はゆっくりしててよ。明日からはいやでも動いてもらわないとだから。」と言う言葉を聞くと、「…わかりました。」と言ってヴィン殿どのよこにちょこんと座り込んだ。

何故なぜだろうか?同じ女性のはずなのにすご可愛かわいらしく感じてしまう。

いよいよ私もロシエル殿どのどくされてしまったと言うのか…?

とりあえずロシエル殿どのと私は小要塞しょうようさいの中に入り、準備じゅんびをすることにした。

「この前みたいに外で焼いて食べよう。レティはさらとか用意よういしてくれないかな?」

「ロシエル殿どの。私は準備じゅんびが終わったらせきを外そうと思うのだが…」

「え!?なんで?」

「いや、久々の再会じゃないか。部外者ぶがいしゃの私がいてはあの2人に気を使わせてしまう。」

考えてみればそうだ。3人でもる話もあるだろう。

そこに私がいれば気軽きがる再会さいかいよろこべないと思ったからだ。

「そんな余計よけいな事考えなくていいから一緒に食えって。レティ肉好きじゃん。」

ロシエル殿どのかまわず肉の仕込しこみを続けている。

「ま、まぁ…好きですけど…」

私は少し黙ってしまう。するとロシエル殿どの仕込しこみの手を止め、こちらを向いた。

「レティ?この小要塞しょうようさいむからには僕はみんなの事を家族だと思っている。今はまだ初対面しょたいめんだから気を遣うかもしれないけど、きっと君も仲良くなれる。家族にぎすぎすされるのは僕は好きじゃないんだ。」と強い目で見てくるロシエル殿どの

言っている事は子供の様だが、確かにその通りだな。

それに…私までも家族の一員にしてくれるのかと、少し感動した。

「すみませんでした。早く準備をしてあの2人をおもてなししましょう!」

「おう!盛り上げてくれよレティ!」

「なんで私が盛り上げ役なんですか!」


 税徴収ぜいちょうしゅうが始まって今回で7回目。

その税徴収ぜいちょうしゅうむかえる前日にここまで気持ちを上に向けることが出来ているのは今回が初めてだった。


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