移住提案

 「んで、今までどこに隠れてたんだよ?」

3人で一通ひととおり再会を喜んだ後、ヴィンさんがたずねてきた。

「この先にある森の中に小さな要塞ようさいを発見してね。そこでしばらく寝泊ねとまりしてたんだ。」

「森の中に入ったんですか?」

ソニアが驚いている。だがそれは仕方ないことだ。知っての通り森の中には多数たすう害獣がいじゅうが存在する。

滅多めったなことでは一般人いっぱんじんは近付かない。

あの森に足を踏み入れるのはそれだけ危険きけんなんだ。

「うん。隠れるにはうってつけだと思ってね。」

「それならそれでなんですぐに知らせなかったんだよ?」

ヴィンさんの問いはもっともだ。

僕もすぐに知らせると言ってここを出て行ったんだ。

「どうにも知らせる手段しゅだんが思いつかなくて…本当はもっと早く戻るつもりだったんだけど、いろいろあってさ。」

本当に…いろいろあったなぁ…。

「それでも、こうしてルービスさんが無事に戻ってきてくれただけで私は嬉しいです。」

ニコッと微笑ほほえむソニア。もうつかれもなやみもその笑顔でびます。

「そうか。それより、こうして出てきたってことはあの問題もんだい解決かいけつしたってことか?」

あの問題…そう。レティに関する問題だ。

「あぁ…そのことについてなんだけど…」

さて、どう話したらいいかな。

レティとの決め事で彼女と僕の正体しょうたいはとりあえず隠すと言う事になっている。

まずいな…どう話すか決めてなかった。

まぁ、なんか適当てきとうに言っておこう。

「僕を探していた女性とはもう会ったんだ。」

真実しんじつ基準きじゅんに少しうそまじえながら話を進める。

これが最も疑いを持たれず、かつボロが出ない方法だ。

「はぁ?結局けっきょく居場所いばしょバレたのか?」

ヴィンさんの目が点になっている。

「いや、まぁバレたと言うか、森の中で野犬に襲われてたんだよ。その人が。で、助けたらたまたま僕を探してた人だったって言う感じ?」

ここはまぎれもない真実だ。

「それでその後に話をしたら、友達の名前と一緒だった僕を探してたみたいなんだ。」

ここは嘘だ。もっともボロを出してはいけない瞬間だ。

「じゃぁ、人違いだったってことですか?」

ソニアの純粋じゅんすい視線しせんが痛い。

「そうなんだ。それで、野犬におそわれた時の怪我けがなおるまで介抱かいほうしてたら、ここに来るのが遅くなったって感じなんだよ。」

一通ひととおりの説明は終わった。ざっくりだけども。

「なんだそりゃ。つまり骨折ほねおぞんって事か?」

「そうなるね。」

とりあえず疑われてはいないようだ。

そろそろ核心部分かくしんぶぶんについて話そう。

「ちょっと待ってください。」とソニアが突然口とつぜんくちはさんだ。

あれ?ソニアの顔が怖い。

え?嘘がバレた?

「ど、どうしたのソニア?」

こんなに怒った顔のソニアは見たことがないぞ。どうしよ?どこが嘘っぽかった?

「つまりはルービスさん。その女性じょせい要塞ようさい同居生活どうきょせいかつをしたと?」

やばいぞ。ソニアのバックに稲妻いなずまが見えるいきおいだぞ。

同居どうきょ!?違う違う。さすがに怪我けがした女性をそのままにはできないじゃん?」

これしか言えない。

「それなら他意たいはなかったと?」

「全く持ってありません!」

いつの間にか僕の背筋せすじはピーンとびていた。

ソニアって怒ると怖いんだな。

「なるほど…。」

ソニアはあごにぎこぶしを当てて何やら悩むような仕草をしている。

そして、「そうですよね。ルービスさんが女性に手を出すなんて事しないですよね。」とつぶやきだした。

こ、これは一応信用いちおうしんようしてもらえてるってことか?

「もちろんだよ。あくまで人助ひとだすけとしての行動こうどうだからね!」

僕はこう言うのが精一杯せいいっぱい。と言うか本当に人助ひとだすけのつもりだったんだ。

「それでは全ての問題が片付かたづいたからここに帰ってきたと言う事ですか?」

ようやくいつものソニアらしい顔つきになったぞ。本当に怖かった。

「いや、そのことで2人に提案ていあんがあるんだ。」

ようやく元の話題に戻せそうだ。

提案ていあん?」

ソニアと僕のやり取りを笑いをこらえながら見ていたヴィンさんが不思議ふしぎそうな顔をしている。

どこが笑えた?なんで助けてくれなかった?と言う疑問はとりあえずはしに置いておこう。

「うん。2人とも僕が住んでる要塞ようさいに来ない?」

「行きます。」

「え?即答そくとう?」

まさかこんなにあっさり承諾しょうだくされるとは思わなかった。

「俺もソニアがいいって言うなら反対はしねぇ。」

ヴィンさんまでも…まぁ説得せっとくする手間てまはぶけたのは喜ばしい限りだ。

「だが食料とかの問題もある。ここにれば貴族連中きぞくれんちゅうのゴミからある程度ていど食えそうな物を探して食べる事はできる。そのへんはどうなんだ?」

もっともな疑問ぎもんだ。

「食料については問題ない。野草やそうも多くあるし、いのししを捕まえるわなももうある。ここで食料を調達ちょうたつするより安全だと思う。」

これは自信を持って言える。

野草やそうかんしては栽培さいばいもうまく行きそうだし、りなくなったらまた取りに行けばいい。

そして肉にかんしては4人で食べるだけならいくらでもまかなえる。

「そうか。そこさえ問題なければ反対する理由はないな。」

「早く行きましょう。」

ヴィンさんが納得の態度たいどしめしている最中にかすソニア。

ソニアってこんなキャラだったっけ?

「反対されなくてよかったよ。森の中なら多少気たしょうきまぎれるだろうし…」

2人には僕の言いたいことがすぐに分かったのだろう。

「そうならいいんだけどな。」

「明日…ですもんね。」

それぞれに思う事はあるだろう。

でもこればかりは逃げる事の出来ない地獄じごくなのだから。

「それじゃぁ!日がれる前には要塞ようさいきたいから、2人とも!準備してくれる?」

僕は少ししずんだ空気をはらうように2人に少し明るく声を掛ける。

「あぁ!」

「はい!」

2人もさっしてくれたようで、元気に返事をくれた。

夢にまで見たソニアとの同棲生活どうせいせいかつ。少しソニアのキャラが変わっていることが気掛きがかりだが、楽しくなりそうだ。

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