再会

‐プレティニー連合王国れんごうおうこく郊外こうがい某所ぼうしょ

 緑が延々えんえんと広がるこの平原にポツンとたたずむむ1つの小屋。住居と呼ぶには少し手狭てぜまに感じるこの建物のすぐ近くには小さな小屋にはつかわしくない立派りっぱはかが立っていた。

墓石ぼせきには「ファービス・フォン・アールベルト、オルガ・アールベルト、ロシエル・アールベルト」の3人の名前がきざまれていた。


 そしてこのはかの前に1人の老人ろうじんが座っている。しろくなったかみは手入れがされておらず放題ほうだいとなり、その伸びた長髪ちょうはつ乱雑らんざつに後ろでむすんでいる。

老人は墓前ぼぜん持参じさんしたさかずきを置くと、同じ物をもう1つ自分の前に置き酒をそそいでいく。

「お前が死んでもう7年になるな。のぉ、ファービスよ。」

墓に向かってかたけるように話し始める老人。

2つのさかずきさけそそぎ終わると、酒瓶さかびんを自分のよこき、墓前ぼぜんに向けてさかずきを突き出す。

老人は小さく「乾杯かんぱい」と言うと、さかずきの酒を一気いっきに飲みした。

「毎年、お前の命日めいにちが近くなると思い出しちまうんだよ。あの日の事をよ。」

平原へいげんに風が吹き抜ける。老人ろうじん長髪ちょうはつは風にられている。

老人は静かに目をつむり、あの日の事を思い返す。

「今でも考えるんだよ。お前にも、オルガにも、ロシエルにも、もっと何かしてやれたんじゃねぇかって。」

返事の返ってくるはずのないはかに向かって老人はかまわずに語りかける。

目をつむりながら、なみだを流している。

「お前ほどの男が、なんでそんなあっさりと殺されちまったんだ。」

老人は目を開けるとはかに近付き、墓石ぼせきつかんだ。

「どうして家族を守ることが出来なかったんだ!。答えろ!ファービス!」

老人はなみだを流しながら墓石ぼせきつかみ、さけんでいた。

さえぎる物のない平原へいでんに、老人の悲しい声だけがける。



‐ヴァール帝国、ケージ内東海岸ないひがしかいがん

 「うわー。なんかすごく久々ひさびさな気がする。」

開口かいこう1番、僕は思った事を口にしていた。

はなれていた期間は10日とちょっと。でも何年も離れていて、帰郷ききょうした。そんな気分にさせるほどのなつかしさを感じていた。

「そうだそうだ。ソニアとヴィンさんを探さないと。」

そう。この東海岸ひがしかいがんに来たのは里帰さとがえりのためではない。

ソニアとヴィンさんを小要塞しょうようさい招待しょうたいするためにここに来たんだ。

レティからの許可きょかは下りたし、いくつかの約束事やくそくごともしてある。

とにかく明日の税徴収ぜいちょうしゅうの前までには2人をここから連れ出したいと思っていた。

ついでに、レティに僕の存在をバラした見知みしらぬやつきにできたらしておこう。


 そう言えば…僕ヴィンさんの住処すみからないんだった。

なんてこった…何年も付き合っているのに住処すみかも知らないとかどんだけだよ。

まいったな…こりゃお手上てあげだ。

運良うんよくソニアかヴィンさんが僕に気付いてくれればいいんだけどな。

そんなことを考えながら途方とほうれていると、大きなかげが僕に近付ちかづいてきた。

「うおらぁぁ!」と聞こえた瞬間しゅんかん、僕の体はちゅうい、ゴミめへ豪快ごうかいに突っ込んだ。

一瞬いっしゅん、何が起きたのか分からなかったが、すぐに理解りかいできた。

さけびながら僕をばしたのはヴィンさんだ。この馬鹿力ばかぢからめ。

「いった!。くっさ!」

ゴミめに突っ込んだこともあり、痛みとくささが一気におそってくる。

「何しやがんだこのハゲマッチョーっ!」

僕は絶対本人ぜったいほんにんの前で言ってはいけない単語たんごを口にしながら、そのハゲマッチョの方にかって行った。

仕方ないだろう。いきなりゴミ溜めにダイブさせられたんだ。そりゃ温和な僕だって怒るさ。

「ルービスさん!」

ハゲマッチョにつかかろうとしたその瞬間しゅんかん

僕を可憐かれんな声が聞こえた。

何と言う美声びせいだろうか、聞くだけでこころ邪念じゃねんが全てぶ程の破壊力はかいりょく

女神めがみの声と言ってもつかえのないきよんだ声。そうだ。僕はこの声をくためにここに来たんだ。

目の前のハゲマッチョの事など、もうどうでもいい。早く顔が見たい。

ハゲマッチョの目の前で急停止きゅうていしした僕はさっとひるがえ美声びせいの持ち主の方向ほうこうを見た。

「ソニア。会いたかったよ。」

今できる精一杯せいいっぱいがおをしてソニアに笑顔を向ける。

「ルービスさん。何も音沙汰おとさたがなかったんで心配していたんですよ?」

涙目なみだめになりながらそう言うソニア。こんな美少女びしょうじょが僕の事を心配してくれていたなんて…もう思い残すことはないな。

僕はソニアの手を握り、「ごめんよソニア。いろいろあって報告が遅れてしまった。許して欲しい。」と真剣しんけん面持おももちで言った。

「いいえ。生きていてくれただけで私は満足まんぞくです。」

そう言うとソニアは涙を流した。

僕は何という罪深つみぶかい男なんだろう。目の前の女神めがみに涙を流させるなど。

「ソニア…」

そっと、ソニアをきしめようとした瞬間しゅんかん、「おい!」と言うドスのいた声と共に頭をガシッとつかまれた。

僕の頭をつかんだ手は物凄ものすごちからで首を左回転ひだりかいてんさせようとしている。

首が45度をえようとしたころ、「痛い痛い痛い!折れる!首折れる!ごめん!僕が悪かったよヴィンさん!」と無条件降伏むじょうけんこうふくを決めた。

すると、ヴィンさんは手をふっと放し、僕の首は何とかおかしな方向ほうこうを向く前に解放された。

「いたた…」と首を押さえながらうずくまる僕に「大丈夫ですか!?」と心配そうにしているソニア。

「ったく。やっと帰ってきたと思ったら人のことハゲマッチョとか、なめてんのかお前は。」

腕を組みながらかなりお怒りの様子のヴィンさん。

「ごめんごめん。久しぶりだったからつい…」

「つい…でハゲマッチョはねぇだろうよ。」

でもハゲでマッチョなんだよな~。

そのまんまなんだよな~。って言ったら次は本当に殺されそうなのでやめておこう。

「まぁまぁ。そのくらいにしましょうよヴィンさん。」

ソニアが少し困り顔で仲裁ちゅうさいに入ってくれた。

「お前はルービスに甘すぎるんだよソニア。」

このハゲマッチョめ。ソニアに向かっておこるとか万死ばんしあたいするぞ?

「でもヴィンさん寂しそうにしてたじゃないですか。「ルービスから何も知らせがない」って。毎日毎日。」

「おまっ!」

めずらしいな。ヴィンさんがあたふたしている。

そしていたずらっ子っぽくしたを出しているソニア。おいおい。可愛かわいいなんてもんじゃないぞ。

でもそうか、ヴィンさんも心配してくれていたのか。

「ソニア。ヴィンさん。」

「あ?」

「はい?」

少し言い合いっぽくなっていたソニアとヴィンさんは僕の呼びかけに対し返事をする。

「とりあえず、ただいま!。」

すると2人は何やらホッとしたような顔をした。

「おかえりなさい。ルービスさん。」

「けっ!もっと早くそれを言えよ。」

言葉はそれぞれだけど、まるで実家に帰ってきたような安心感あんしんかんが、確かにこの2人にはあるんだ。

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