ルービスの正体

 「いや、いきなりかしこまられても逆に気持ち悪いのですが。」

言われた。言われたよ、気持ち悪いって。

「分かりました。もうやめます。」

気持ち悪いって言われたからね。結構けっこうきずついたよ今の。

「そうしてください。普通ふつう態度たいどかまいません。」

「で、なんて呼べばいいですか?レティシアさまでいいですか?王女殿下おうじょでんかの方がいいですか?」

「…きゅう態度たいどを変えますね。」

「いや、かしこまるなって言われたんで。」

「ま、まぁいいです。王女殿下おうじょでんかと呼ぶのはやめてください。レティで結構けっこうです。」

「分かりました。ではこれからはレティと呼びます。」

「はい。」

とりあえずこの人の正体しょうたいは分かったけど、かしこまらなくていいって言われたからそうしよう。

だってえらい人の言葉にさからっちゃいけないもんね。


 「私の正体しょうたいはお話ししました。次はあなたの番です。」

やっぱそう来るよね。まぁ、もうかくすわけにもいかないか。

「もう分かってるんですよね?」

さっきレティは「ある程度ていど確証かくしょうがある」と言っていた。

はったりだと思ったけど、アストレア王家おうけの人間なら僕のこと知っててもおかしくない。

「あなたの口から聞きたいのです。」

本当に面倒めんどうくさいなこの人。

「はぁ~。」深い溜息ためいき一発いっぱつ

「その前に1つ訂正ていせいしておきます。ロシエル・フォン・アールベルトと言うのはあやまりです。」

「はい?」

「【フォン】は王家おうけかたからいただ称号しょうごうです。僕はまだその称号しょうごうを持っていない。正しくはロシエル・アールベルトです。」

レティは少しおどろいたような顔をしたが、すぐに元の顔に戻った。

「やはりあなたがロシエル殿どのでしたか。」

白々しらじらしいな。絶対知ってたよね。

「相手が殿下でんかとなればかくとおせないと思ったから話したまでです。」

殿下でんかはやめてと言いましたよね?」

「これは失礼しつれい。」

僕からのささやかな仕返しかえしだ。


 「では話を戻しましょうか。僕を探して一体どうするつもりだったのです?」

帝国ていこく打倒だとう、そして王国おうこく再興さいこうです。」

即答そくとうか。目がマジだよ。

「それに協力きょうりょくしろと?」

「えぇ。協力きょうりょくしてもらうつもりで探していました。」

いや予感よかんと言うものは大体だいたい的中てきちゅうする。

しかし、よくこんな突拍子とっぴょうしもない事をサラッと言えたな。

「悪い事は言わない。今すぐその危険きけんな考えをてた方がいい。」

むずかしいと言う事はひゃく承知しょうちです。ですが、やらねばならぬのです。」

「全ての状況じょうきょうを考えてくれ。かりに僕が協力きょうりょくすると言ったとして、2人でどうにかできる次元じげんの問題じゃない。」

「誰も2人で帝国ていこく打倒だとうするとは言っていません。」

「それなら、帝国ていこく対抗たいこうできるだけの勢力せいりょくてはあると言う事か?」

いくら腐敗ふはいしきった帝国ていこくと言えども、しっかりとしたぐんはある。ほとんどが下民げみんちしたために数こそ少ないが、それでも3万人以上の正規軍せいきぐんを相手に戦えるだけの勢力せいりょくでなければ話にならない。

けになりますが、伯母おばたよろうと思っています。」

伯母おば?」

「はい。げんプレティニー連合れんごう王国おうこく国王こくおう。レシリア・ローズヘイムです。」

プレティニー連合王国れんごうおうこく。ヴァール帝国ていこくみなみ位置いちする大国たいこくだ。元々もともと多数たすう小国しょうこく乱立らんりつする地域ちいきだったが、約80年ほど前に現女王げんじょおう祖父そふが全ての小国しょうこくをまとめ上げ、連合王国れんごうおうこく名乗なのったのは有名な話だ。

初代国王しょだいこくおうが【プレティニア・ローズヘイム】と言う名前だったため、プレティニーと言う国名こくめいになったのだとか。

以来、ローズヘイムが国のおさとして統治とうちしているくにだ。

アストレア王国おうこくとプレティニー連合王国れんごうおうこく友好関係ゆうこうかんけいにあった。

「そう言えば、ミレイユ王妃おうひはプレティニーのご出身しゅっしんでしたね。」

ミレイユさまはレティの母だ。

「その通りです。私の母の姉がげんプレティニー国王こくおうなのです。」

「なるほど。だからと言って「はいそうですか。」とかるく返事をするわけにはいかないな。」

たよってみる価値かちはあると思います。」

もう溜息ためいきしか出ないな。本当に。

聡明そうめいとは聞いていたが、ここまで世間知せけんしらずだと思わなかったな。

「その前に前提条件ぜんていじょうけんがすっぽけているとは思わないのか?」

「…」

あれ?だまっちゃった。まぁいいや、僕の話を続けよう。

「どうやって帝国ていこくを、いや、このケージを脱出だっしゅつする気なんだ?まさかそれを考えていなかったなんて事はないよな?」

「…」

考えていなかったな。レティはどうやら目標もくひょうが見えたらぱしってしまうタイプみたいだ。



 1番会いたい人に会えた。と言う感動かんどう一瞬いっしゅんだった。

4年も探し続けた人物を前に、私は少し落胆らくたんしている。

なぜかって?あの軍神ぐんしん子供こどもがここまで消極的しょうきょくてきな人物だとは思わなかったからだ。

さっきから私のいに対して全て批判的ひはんてき意見いけんをぶつけてくる。

平静へいせいよそおってはいるが、私もさすがに我慢がまん限界げんかいかも知れない。

私の4年間の苦労くろうおとを立ててくずれていくような、そんな感覚かんかくすらおぼえる。

 私だってそれなりに考えたさ。だが、私の頭ではどうやっても答えに辿たどかないからロシエル殿どのたよりたいのに。

それなのにロシエル殿は全てを否定ひていしてくる。

見込みこちがいだったかな…そんな考えがあたまよぎる。

 しいが、このケージを脱出だっしゅつする手立てだては私には思いつかない。

ロシエル殿が言った事に反論はんろんできないな。

伯母上おばうえたよれば何とかなると思っていた私の考えがおろかだったと言う事か。

 そう考えると私の目からは一筋ひとすじなみだこぼれた。

まずい、これは見られたくない。

だがロシエル殿はそれを見逃みのがさなかった。

すると「はぁ~」と息を吐き、頭をぼりぼりといている。

「なんで全部否定ぜんぶひていするんだ。とか思っているんだろうけど、根拠こんきょあっての事だ。ちょっと待っていてくれ。見てもらいたい物がある。」

そう言うとロシエル殿はその場に立ち上がり、おくかって歩いて行った。

 そしてほんの数分すうふんで戻ってくると、1さつの本を大事そうに持ちながらふたたび私の前にこしろした。

「これは、ワーグナーと言う兵士へいしが残した記録きろくだ。君が知っている情報がほとんどだと思うが、7年前のあの日、何が起きたのかがこまかくしるされている。読む覚悟かくごはあるか?」

 7年前のあの日…今思い出すだけでも寒気さむけがして動けなくなるほどの壮絶そうぜつな事件。

クーデターにより王国おうこくほろんだ日。

だがいつまでも逃げてはいられないだろう。

覚悟かくごはあります。読ませてください。」

私の返答へんとうを聞いたロシエルは、「わかった」と言い。私に本を手渡てわたした。

 かなりふるびた印象いんしょうのある本は、心なしか少し重く感じた。

私は覚悟かくごを決めて本を1枚1枚、めくっていった。

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