アールベルト

 「ルービス?あなたの探し人はルービスと言うかたなんですか?」

白々しらじらしいとはまさにこの事。

でも僕も生活がかっているんだ。仕方しかたないだろ。

とにかく自然に。演技えんぎ得意とくいではないが、ここで動揺どうようしてしまえば「そーです。私がルービスです。」って言ってしまうようなものだ。

それだけは何としてもけたい。

「あなたがルービスさんですよね?」

やめろ。そんなにじっと見るな。

残念ざんねんながら人違ひとちがいです。」

「ではあなたの名前を教えてください。」

返答へんとうが早すぎるよ…。考える時間すらくれないのかこの女は。

名前…名前…えーっと…。

「ヴィンです。」

うそですよね?」

もうやだこの人。なんでそんなににらむの…?

僕が何をしたって言うの…?

うそじゃないです。僕の名前はヴィンです。」

家名かめいは?」

ヴィンさんの名字みょうじ何!?どうしよ…。

家名かめいはありません。ここに来た時に家名かめい剥奪はくだつされたので。」

「では剥奪はくだつされる前の家名かめいをおおしえください。まさかわすれたなんて事はないですよね?」

だめだ…。この女は僕がルービスだと確信かくしんを持っている。

もう何を言ってもうたがいの目はれないだろう。

あきらめるしかないか‥。

「はぁ~。すみません。うそついてました。」

「ルービスさんですね?」

「はいはい。そうです。僕がルービスです。」

「よかった。間違まちがっていたらどうしようかと…。」

白々しらじらしい!間違まちがっているかもって思っててあんなかたする普通ふつう

絶対この人おかしいよ。

何故なぜうそをついたのですか?」

いや、何故なぜって言われても…とりあえずそれっぽいこと言っておこう。

「こんな地獄じごくで生きてるんです。弱者じゃくしゃなりの処世術しょせいじゅつと思って大目おおめに見てもらえませんかね?」

「なるほど、一理いちりありますね。わかりました。それにかんしては目をつむりましょう。」

なんか一々いちいち上から目線めせん腹立はらたつな。

「ていうか、わりと序盤じょばんから確信かくしん持って聞いて来てましたよね?。一体いったい僕のどんな情報を手に入れてたんですか?」

これは是非ぜひとも聞いておかねばなるまい。

それと、僕の存在そんざいを決定づけた「ここにはいねぇよ」って言ったやつ。こいつの特徴とくちょうを聞き出さないと。

言わばこのセリフのせいで彼女はここまで来たんだ。

余計よけいな事をしてくれたよ本当に。

あとで血祭ちまつりだ。

瑠璃色るりいろかみに、赤いひとみ。私はこの情報を元にずっとあなたを探していました。」

結構けっこう僕の外見がいけんとマッチしてるな。

でもよくそれだけの情報で探し当てたな。上級じょうきゅうストーカーになれるよ君は。

「なんか気持ち悪い…」

「はい?」

やばっ。思わず本音ほんねれてしまった。

「何でもないです。」

聞こえてなかった?聞こえてなかったよね?

彼女は「はぁ…」ってきょとんとした顔をしている。どうやら聞こえてなかったみたいだ。

危ない危ない。

「まぁ、そのへんの事はとりあえず置いておこう。なんで僕を探してたの?」

目の前の女に対して嫌悪感けんおかんいだいた僕は敬語けいごを使う事すら忘れていた。

「あなたに聞きたいことがあったので探していました。」

「聞きたいこと?」

「ある人物についての事です。」

「誰の事?」

もはや僕の顔は嫌々いやいやって感じになっていると思う。でも仕方しかたないんだ。かくそうにもかくせないんだ。だって本当にいやなんだもん。

「ロシエル・フォン・アールベルト。」

「!?」

思わず僕は絶句ぜっくした。だってまさかこの名前が出るとは思わなかったから。

「あなたなら知っていると思いました。ロシエル・フォン・アールベルト。ご存じないですか?」

「アールベルト。旧王国軍きゅうおうこくぐん元帥げんすい家名かめいだよね?」

「その通りです。」

そりゃ知っているさ。このヴァール帝国に住んでいて知らない者はいないだろう。

「残念ながら君の探し人はいない。」

「やはり何か知っているのですね。」

「知っているも何も、僕の持っている情報では、7年前のクーデターでアールベルトの一族いちぞくみんな処刑しょけいされたからだ。」

「…」

さすがにぐぅのも出ないだろう。探し人が死んでいるのならもうどうしようもないんだから。

「それは、あやまりだと思います。」

「なぜそう思う?」

「クーデターに一早いちはやく気付いたのはフォービス殿どのです。軍神ぐんしんとまで呼ばれたフォービス殿どのが自分の家族かぞくをみすみす殺されるような失態しったいおかすとはどうしても考えられないのです。」

ちなみにフォービスと言うのは旧王国軍きゅうおうこくぐん、最後の元帥げんすいだ。

なぜ軍神ぐんしんと呼ばれているかと言うと、戦争せんそうで一度も負けていないからだ。

元帥げんすいは未来が見える」と言われており、ヴァール帝国の南西なんせい位置いちする軍事強国ぐんじきょうこく【アヴァンワール帝国】との戦争せんそうで一度も負けないどころか、一度も劣勢れっせいになったことがない。

卓越たくえつした軍略ぐんりゃくあやつるフォービス元帥げんすいは「未来が見える」とうわさされ、やがて軍神ぐんしんと呼ばれるようになった。

 とまぁ、これがおおまかなフォービス元帥げんすい紹介しょうかいだ。

「でも事実、アールベルトの人間は全員ぜんいん処刑しょけいされた。」

これが事実だ。ワーグナーの手記しゅきにもそう書いてある。

「そもそも。なんで僕がアールベルトの人間の事を知っていると思った?」

「…」

僕のいかけに彼女はだまった。

正直僕はこの点が1番疑問なんだ。なぜ僕を探せばアールベルトの事が聞けると思ったのかが。

「それは…」

彼女が重い口を開いた。

「あなたの名に聞き覚えがあったからです。」

「僕の名前?それがどうした?」

ルービスなんて名前はどこにでもいるような名前だろう。

すると、彼女は続けて語りだした。

「ファービス・フォン・アールベルトのつまである、オルガ・アールベルト。彼女と関係があります。」

僕はだまって彼女の話を聞くことにした。

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