探し人

 僕は今おかしている。

何に使うのか。それはお茶を飲むためだ。

ティーカップにせて作った木彫きぼりのカップ、野草やそうといいかおりのするはな乾燥かんそうさせた茶葉ちゃばを、おかしているなべの中に投入とうにゅうする。

すると周囲しゅういはふわっとはなのいいかおりにつつまれた。

かおりは合格だ。問題もんだいの味は…僕は木彫きぼりのスプーンのようもので、茶葉ちゃば煮出にだした液体えきたいを少しすくい、口へとはこぶ。

味は悪くない。したしびれと言った症状しょうじょうもなさそうだ。

かおりよし。味もよし。どくもなし。合格だ。」

無駄むだ茶葉ちゃば審査員しんさいんふうよそおい、客人きゃくじん紅茶こうちゃもどきを品評ひんぴょうしていた。

これなら彼女に出しても大丈夫そうだ。

遅延性ちえんせいの…まんいち遅延性ちえんせい症状しょうじょうが出た時は平謝ひらあやまりだな。

そんなことを考えながら2人分の木彫きぼりのカップに、茶葉ちゃばが入らないようにゆっくりと紅茶こうちゃもどきをそそいでいく。

2つのカップを木のいたの上にせ、小要塞しょうようさいの中にいる彼女の元へ向かう。

心の準備じゅんびはできた。何かあればしらばっくれればいい。簡単なお仕事だ。

この時、緊張きんちょう背中せなかすごりょうあせいていたのは内緒はいしょの話だ。


 「お待たせ。」僕は営業えいぎょうスマイルさながらのにっこり笑顔をかべ、彼女の前にこしろす。

2つあるうちの1つのカップを彼女にす。

「見よう見まねで作った紅茶なんだ。口に合えばいいんだけど…。」

「本当に、いろいろとありがとうございます」

2人は少し言葉をわすと、カップに口を付け、のどうるおした。

「・・・」

「・・・・・・」

ちょっとこの雰囲気ふんいきまずくない?

たがいが何もしゃべらないために、居心地いごこちわる沈黙ちんもくがその支配しはいする。

「あの!…」

沈黙ちんもくえきれず、僕は思わず口をひらいてしまった。

「は、はい。」

いきなり声を出した事におどろいたのか、彼女も少し戸惑とまどったように返事をする。

やばいなぁ…。思わず声出しちゃったけど、僕から話さなきゃいけない空気くうきになっちゃったよ…。

とりあえず無難ぶなんな事でも聞いておくか。

「あの、昨日はどうしてあんな時間に森にいたんですか?」

われながら即興そっきょうにしてはいい質問しつもんをしたものだと感心かんしんするほどの当たり前な質問しつもんだ。

「少し人探ひとさがしに夢中むちゅうになってしまって…」

まずいな。1番最悪なパターンになりそうだなこれ。

「気が付いたらあたりはくらで、かくせそうな場所を探していたところ野犬やけんに…と言った具合ぐあいです。」

「そうだったんですね。」

とにかく。ここで「誰を探してるんですか?」なんて聞いて僕の名前が出てきたらひとたまりもない。

彼女がどこまで情報を集めているかは分からないが、自分からボロを出すわけにはいかない。

彼女がこの森を出て行くように仕向しむけよう。

「残念ですが、この森にはおそらく僕しかいません。人探しをするならこの森をけて南下なんかすることをおすすめします。」

「この森以外はあらかた探しましたが、見つからないのです。」

このだだっぴろいケージの中を「あらかた探した」か…どれだけ広いと思ってるんだ。

「どれくらいの間探しているんですか?」

「約4年です。」

「4年!?。4年間ずっと同じ人を探してたんですか?」

「その通りです。」

正直、あきれてものが言えない。よくこんな所で4年も探し続けられたな。

別の意味で感心かんしんするよ。

「4年探して見付みつからないとなると、最初からいない、もしくはもうすでに死んでいることも考えられますよ?」

なかなか正気しょうき沙汰さたじゃないな。もはや狂気きょうきだ。

まずケージの中で4年も人を探すってこと自体じたい常人じょうじん感覚かんかくとずれている気がする。

 しかし、困った。ここまでの話を聞くと、僕を探していたのはこの目の前の女性と言う可能性かのうせい非常ひじょうに大きい。

 「その可能性かのうせいもゼロではないと思っています。私もなかあきらめていた部分ぶぶんも確かにありました。が、数日前すうじつまえになかなかに有力ゆうりょくな情報を手に入れたもので。」

有力ゆうりょくな情報?」

ここまで来るとこわい。この子ストーカー気質きしつなんじゃない?

探し人が僕じゃないとしてもここまでの執念しゅうねんはちょっとく。

「はい。」

いや予感よかんが…あ、ちょっと手がふるえてきた。

「その日もいつものようにみをしていました。そして東海岸ひがしかいがん付近ふきんにいた男性に探し人の名前をたずねたところ、「彼はここにはいない」と言ったのです。」

東海岸ひがしかいがん付近ふきんって…小要塞しょうようさいに来る前に僕がんでいたところじゃん。

「その言葉が出ると言う事は、少なくとも死んではいない。それと同時に確かに存在していると言う証拠しょうこにもなります。」


 今すぐここから逃げ出したい。

とりあえず話をまとめてみよう。

目の前の女性は4年間ずっと人を探していた。

そして、僕がここに来る前にんでいた東海岸ひがしかいがんで聞き込みをした。

きわめつけに僕がいる森まで入ってきた。

くそ!これではどうしても僕が浮上ふじょうしてしまうじゃないか。

「そして、幸運こううんにも私はあなたにすくわれた。」

待て。このおんな、絶対気付いてるだろ。

なんかさっきまでと目つきが違うぞ。

何とかして話題わだいらさなきゃ。

「今日のゆう…「ルービスさん?ですよね?」

この女…「今日の夕飯何食べたい?」って聞こうとした僕のセリフにかぶせてきやがった。

しかもやっぱり…気付いていたな。

面倒事めんどうごとは本当に勘弁かんべんしてもらいたい。

ここは計画通けいかくどおり、しらばっくれ作戦を決行けっこうするとしよう。

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