特殺藩 ~合法化された殺人~
@GENICHIrou
第1話 子供を失った母親
この事件は木村が特殺藩に配属されて初めて担当した事件である。
木村は先輩の矢島からとある資料を渡された。
矢島 啓二(ヤジマ ケイジ)
特殺藩の捜査官、ほかの経歴は不明
「これは、」
「今回俺とお前で担当することになった事件だ」
「まあ、はじめてにしてはちと厄介な話なんだがな」
この事件は一人の女性からの申請だった。
女性の名前は野原リン。年は34、結婚はしていたが夫のDVが激しく、去年離婚、離婚後、子供に付きまとい、自分の言うことを聞いてくれない子供に対し暴力を行い、耐えきれなくなった子供はストレスにより自殺。リンは夫が子供に接触していたことすら知らず、子供の自殺後に子供の友人らから話を聞き、確信を得るために調査会社を使い、片っ端から証拠を集め夫を訴え裁判を起こした。だが、結局、夫は何の罪にも問うことができず母の気持ちは最後の砦、特殺藩に申請された。特撮藩まで申請が届くということは国は申請を通してもよいではないかという考え、最後の判断を特殺藩にゆだねるというシステムだ。
特殺藩が調査できる時間はたった二か月間、この二か月で判断を下さなければならない。
木村と矢島はまず、リンに接触するためにリンの家を訪ねることにした。
木村はやつれきれたリンの姿を見て騒然とした。家は掃除されてなくゴミ屋敷状態。仕事もしておらず、おそらくご飯もまともに食べていない。そして、部屋の棚に置かれた子供の写真を眺め、毎日が終わるらしい。木村と矢島は一通りリンの話を聞き、家を出た。
「すごいですね、、」
「慣れろ、あんなもんだ。」
「人には自分の命よりも大切な命があるんだ、それを突然奪われてみろ、その後普通に生活できる人なんていねえよ、そして、この国はそんな人間が五万といる。国の法律じゃあさばけねえ、奪ったやつは平気な顔して町を歩いてんだ。たえられるか?俺は耐えらんねえな、」
その日の夜、木村は眠れなかった。今まではいくつもの書類でこのような事件を見てきたが実際に見るのは初めてで衝撃が多かった。
次の日、木村と矢島は夫の調査を始めた。特殺藩は対象者が事件以外に法を犯していないかなどを徹底的に調査し、対象者が社会的に問題があるかどうかを調査する。
「寝不足か?」
「すみません、よく眠れなくて。」
「睡眠はしっかりとれよ、倒れられたら困んだ、」
「はい、すみません。」
夫は現在は保険会社で働いている。今は新しい家族もあり、子供もいる。去年離婚したとは思えない。おそらくリンと結婚していた時から関係はあっただろう。会社での聞き込みを始めたが以外にも評判はすごく良い。誰に対しても優しく、取引先の評判も良い、珍しいケースだ。
「問題だらけな奴だと思っていましたが意外ですね。」
「さあな」
「あと、お前、明日休みでいいぞ。」
「え、どうしてですか。」
「お前の目の下のくま見てると集中できねえ。明日は寝ろ。」
木村自身も体調がすぐれていないことはわかっていたため矢島のいう通り、しっかりと寝ることにした。
一日しっかりと休んだ木村の体調は戻り、すっかり目の下のくまも消えた。
「おはようございます。昨日は失礼しました。」
「謝んな、まあ、早速だが出るぞ」
「了解です。」
木村と矢島が向かった先は警視庁だった。
「久しぶりだな、志木(シキ)」
「またお会いするとは思いませんでしたよ、矢島さん」
「ふ、副総監殿!」
「悪いな木村、めんどくせえ説明はまた今度だ、今は黙って聞いとけ」
木村の頭の中はパニック状態だった。副総監がめちゃめちゃ若いこと。すごくイケメンなこと、そして、自分の先輩捜査官が副総監を呼び捨てにしてることも
何が何だかわからなかった。
志木 幸次郎(シキ コウジロウ)
警視庁副総監 もとは特殺藩に所属していたという過去を持つ矢島とは元同僚だ。
「志木、直接話があるってなんのことだ、」
「あなた、リアカップという保険会社について調べてますね」
「ああ、なんだクレームか?」
「さすが、昨日からすごい数のクレーム、そしてネットに対しての書き込みで問い合わせが多く来てますよ、まあ、たまたま君の名前が見えましたからね、また不当な捜査でもしてるのかと思いましてね」
「ふっ、それで副総監様ご本人が直々と注意をってか、なんだお前俺のこと好きなんか?」
「私の部下も以前同じようなことがありましてね」
「あ?」
「対象者は違うのですが、リアカップという会社に関わりがあったので調査を行ったのですが今回と同じようにクレームなどが来たんですよ。さすがにあからさますぎたので捜査したのですがさっぱりでした。」
「なんだよそれ」
「まあ、それだけだったらいいんですけどね。そのきっかけとなった対象者が行方不明。そして、その捜査にかかわっていた捜査官はほかの事件で殉職しました。」
「その事件とリアカップとのかかわりは全く見えなかったのですが、あの会社は必ず何かあると思っているんですよ。なんで、今回の調査で分かったことは必ず僕に報告してくださいね」
「そんなんこの事件が終わったら報告書みりゃいいだろ、こんなこといちいち言うために呼んだのか?」
「まあ、君の顔も見たかったですしね。」
「帰るぞ、木村」
警視庁を後にした木村と矢島は対象者の捜査のため取引先として対象者と会うことにした。
「初めまして。私リアカップからまいりました。竹山と申します。」
一通りの説明を聞いた木村と矢島は木村が話をもっと聞きたいということにし、後日二人で会うことにした。
「木村、わかってると思うが、対象者には個人的な感情は入れるな、ただ仕事、家族などの話だけを聞き出せ、わかったな」
「了解です。」
当日、木村は対象者から話を聞き出そうとしたが、対象者の話はすべてがでたらめであり、なんの情報も得ることができなかった。
「すみません、矢島さん」
「まあ、保険会社の営業だ、そう簡単にプライベートの話をするわけがねえんだ。気にすんな」
正直木村は矢島に対して腹が立った。そうわかっているのならばなぜそうさせたのかが理解できなかったからだ。
「木村、いいものを見してやるよ」
それを見た木村は矢島に対して何も言うことができなかった。
「今日は対象者 竹山に対しての調査結果、そして、合法化の判断結果などをご説明させていただきます。これは申請をした以上、申請者は聞かなければならないという義務があります。」
「わかりました、よろしくお願いします。」
「早速判断結果からですが、今回の野原さんの申請を通すことができません。理由は、、、」
「どうして?」
「竹山は」
「どうしてよ」
野原リンは泣きながら倒れこみ木村の説明を聞いてはいなかったと思う。
申請が通らなかった理由は子供に対しての行為の証拠をつかむことができなかったこと。そして、詐欺行為を行っていることはわかったがその詐欺による金を海外の発展途上国に寄付をしていたことが分かったためだ。もちろん、詐欺行為の証拠をつかむことができたため、逮捕の可能性などは出てきたが、殺害の許可が下りるほどの行動は見られなかった。
すべてを伝えた木村と矢島はリンの家を出た。木村はリンの顔を見ることができなかった。
「ポンポン、犯罪の許可が下りるとおもったか」
「いえ、そんなことはありません。ですが、あそこまで子供への行為の証拠がつかめなかったのは僕たちの力不足ということです。」
「はっきり言う。俺は最初この事件がなんで俺らのもとへまで届いたのかがわからなかった。普通、こんな事件許可が下りるわけがないんだ」
「え?」
「俺らはとんでもない事件にかかわっちまったんだよ。」
「まだ僕に隠してることがあるんですか?」
「お前が知る必要ないんだ、今回のお前の仕事は許可を出す判断材料を集めることだけなんだ、だから」
「ふざけんじゃねえ、馬鹿にすんのもいい加減にしろ」
「俺だって捜査官だ、知る権利はある。」
「ふっ、お前、元ヤンか?」
「あ?」
「戻れ」
「え、」
「すぐ野原リンの家に戻れ、すべて見してやる。ショック受け手も知らねーかんな元ヤン木村」
「りょうかいです!」
野原リンの家の前には多くの警察車両が止まっていた。
「なんですかこれ」
「薬だ、」
「誰が」
「野原リンに決まってんだろ」
野原リンの家の玄関から捜査官に両手をつかまれた野原リンが出てきた。
「離せ。あいつを殺せ。子供を返せ。触るな。」
「お前ら警察のせいだ。子供。子供を返せ」
「竹山は子供とは会っていない。てかまず、最初の調査会社にはそんな問い合わせはなかったんだ。」
「え」
「あの家の壁、人の血液がよく飛び散ってた。ゴミ屋敷でよくわかんなかったがトイレはのは隠しきれなかったんだな。」
「ってことは」
「そうだ、あいつが自分の子供に暴力をふるっていたんだ。あの家でな」
「薬でおかしくなっちまったんだよ、人格から何からなにまでな」
「でも、そんなことあるんですか?」
「薬は恐ろしいぜ、特に最近のわな。薬のせいで平気で人を殺すやつだっているんだよ」
「でも、そんな奴がなんで申請なんて」
「竹山だろう」
「え」
「実際、申請は本人確認が要らねえんだ、どうせこっちで全て調べるからな。」
「落ち込むなよ、薬の利用者を簡単に見つけられたらみんなつかまってるよ。」
「でも、」
「でもじゃねえ、これが真実だ、受け止めろ。」
「はい、、」
「なぞは残ってる。リンがどこから薬を手に入れたのか、金はどこから、あと、リアカップなんて謎だらけだ」
「まあ、薬のルートとかもあとは志木たちがやってくれるさ」
ピピピピッ
矢島のもとに一通のメールが届いた。
志木 幸次郎
no chance.
「なんだこれ」
翌日
志木 幸次郎が遺体で発見された。
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