第69話 学園リーグ、そのからくり
学園リーグとは、神武学園で一年を通じて繰り広げられる、全生徒が参加できる魔法を使った模擬戦である。
3人から5人でチームを組み、集団戦で勝敗を競い、ポイントを得る。
つまりチームとしての勝ち点。
そして個人の評価点。
一年を通して最も勝ち点を稼いだチームが優勝となり、最高の評価点を手にした生徒がMVPになる。
ちなみに現在も学園に在籍する伝説の浪人生、不動大輔は、チームとしても個人としても三連覇を成し遂げた、学園唯一のグランドスラム達成者である。
彼があの子供の身なりで探偵として大きな成功を得たのは、葛原昇の援助だけでなく、彼が神武で成し遂げた実績も大きい。神武学園最強の生徒なら、どんな難問も解決してくれるだろうと依頼が殺到したからなのだ。
それくらい、このリーグには価値がある。
リーグに参加したいから神武に入学しようとする生徒もいるくらいなのに、その存在を知らなかった飛鳥は異常に思われて当然かもしれない。
「え、じゃあ、空組のみんなもずっとリーグに参加してたの?」
当然の質問をする飛鳥に皆が返事をためらう。
こういうときにズバッと答えるのがハルだった。
「空組はここでも特殊な扱いなの。その時に動けるもの五名を選ぶってやり方だから、出たい子が出りゃいいって感じね」
「……で、誰が出てたの?」
静かに首を振るハル。
「誰も。ずっと不参加だから、ずっと不戦敗」
責めるような言い方にむっとしたのか、桃子が口を挟んでくる。
「出たって勝てるはずありません。神武の学生はみんな凄腕ばかりっす。ボコボコにされまくってやる気も無くなるし……」
それを聞いていた建築部のランスロット部長。
言いにくいことをズバリ言ってくれる。
「確かに空組と試合のある日は早く帰れるなんて言うチームもいるくらいだからな」
ちなみにランスロット部長はリーグに参戦はせず、上位チームの依頼を受けて魔法武具を作る製造者としての立場を得ていた。
上位チームのほとんどが彼が作った武具を使用しているので、リーグ内の「個人製造者ランキング」においてランスロット部長はダントツの一位である。
このように、リーグ上位者や優秀な製造者は先の就職でも有利になるし、学園内での地位も向上する。
神武学園の卒業生で、しかも学園リーグ成績一位なんて経歴を持つものがいたら、どこの企業も血眼になってそいつを雇おうとするだろう。
学園リーグの価値の高さに飛鳥は驚かされたが、ひとつ疑問がある。
「学園リーグに出ることと、この倉庫をリフォームすることに何の関係があるんでしょうか……」
その問いに森本哲郎はニヤリと笑う。
「知っての通り、ランキング上位者は生徒会のメンバーばかりだ。何しろみんな優秀だからね」
ちらっと美咲を見つめる森本。
歌川美咲は一年生でありながらランキングを一ケタ台にキープしていた才女だ。
ここんところ飛鳥とハルに絡んだことで授業をサボってしまい、試合も欠場続きだったから、現在は16位になっているが、試合に戻ればまた上がっていくだろう。
「学園リーグで得たチームの勝ち点は生徒会選挙で使用する投票ポイントに変換されて、チームに所属していた生徒に割り振られる。つまり、ひとり1ポイントだった投票権が、リーグで優勝すれば101になるんだ」
「なるほど……」
最初は納得した飛鳥だったが、おかしいぞという気持ちが段々強くなってきた。
「生徒会の人達がずっとランキング上位ってことは、投票ポイントも全部自分たちのものにできるってことですよね……」
つまり選挙が始まる前から結果が見えている。
「なんか、ずるくない?」
断言した飛鳥を含めた皆が、美咲をジロッと見つめる。
「え、と、あの」
実は美咲もそこはおかしいとは思っていた。
「最近になって生徒会が勝手に作り上げたルールではあるのよね。入学から卒業まで自分たちの権力を繋ぎ止めておきたいっていう身勝手な。いえ、違う。それで治安を守るっていう効果があるっていうか、その、つまり……、ごめんなさい」
素直に頭を下げられると文句も言えない。
「ごめんね、君を責めても意味ないのに」
申し訳なさそうな森本だが、彼には学園リーグを乗っ取って権力独占を狙うという生徒会の企みを、逆に利用してやろうというプランがあった。
「僕たちがランキング上位にあがれば、生徒会は空組への対応を変えざるを得なくなる。僕たちの投票ポイントを無視できなくなるからね。リフォームの予算をよこせと言われたら、払うしかない状況を自分たちで作るんだ」
「確かにその通りなんですけど……」
美咲は言いづらそうに空組の生徒たちを見つめる。
「空組は勝ち点ゼロのダントツ最下位です。ここから這い上がるなんて……」
「なあに無駄な謙遜してるのよ」
ハルがズバッと言った。
「あんたと飛鳥ちゃんとモモがいれば、今からでも挽回できるじゃん」
「え、無理だって……!」
慌てて手を振る飛鳥と、
「私だって無理ですよ。平和主義者でやんすから」
バレバレの大嘘をつく桃子。
「学園リーグは市販の魔法武器は使えないんですよ。私のアロセールちゃんの出番がない以上、勝ち目など……」
「ばっかねえ、ほんとに!」
ハルは大げさに手を上げて、ホワイ! と訴える。
「あんたらが相手してきた連中を考えてみなさい! ここの生徒なんかそいつらと比べたら……、あえて言うけど、カスよ!」
「僕もそう思う」
森本が静かに言った。
「葛原くんなら楽勝だよ」
「いやでも……」
戸惑う飛鳥の横で、私は? 私は? と自らを指さす桃子がいるが、みんな無視した。
「そう言われるとなんかイケそうな気がしてきたわ……」
とうとう美咲までその気になってきた。
何しろこの人は殺し屋と戦って生き延びちゃった女である。
あの時は必死だったが、時間がたつと、もしかして私って凄いんじゃないかしらと気付き始めている。
「いや、ちょっと……」
戦え飛鳥という感じになっていることに気づき、怖くなってハルを見る。
「ハルちゃんも……、ハルちゃんも一緒に出てくれるよね!」
「ああ、あたしはダメ」
あっさり拒否されたのでずっこける。
しかし、ハルは個人的な理由で拒絶したわけではない。
その説明をするのは生徒会の美咲だ。
「残念だけど、衛藤さんは学園側からリーグの参加を拒まれてるの。強すぎて勝負にならないから。あと不動さんも駄目よ。強すぎるし、そもそも浪人生だから」
「ってわけ。ごめんね、飛鳥ちゃん」
「……」
あまりにも正しい理由だったから何も言えない。
硬直する飛鳥の横で美咲は資料を開いていた。
「次の試合っていつだっけ? あ、今日か。じゃあ私と葛原くんとモモちゃんで行きましょう。相手は誰? 野球部か、楽勝かもしんない」
「……」
こうして飛鳥は今日の放課後、学園リーグに参戦することになった。
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