第11話 逆襲
渡辺が指定した
飛鳥をここに呼んだ渡辺はさすがに悪知恵が働く。
古い公園なので元々人が集まらないし、中央に大きな林がどんと構えているので、人目に触れず飛鳥を処理できると渡辺は考えたのだろう。
飛鳥はわかっている。
渡辺は一人では来ない。
あの日のように仲間を連れてくるはずだ。
そいつらが危険な連中だということも承知している。
林の遊歩道にあるベンチで渡辺を待つ。
緊張もなければ怖さもない。
目を閉じて、じっと待つ。
やがて、がさっと、草を踏む音が聞こえてくる。
「ここにいるはずだ」
渡辺の声が耳に入ってきた。
来た。
たくさんの足音が混ざり合う。
四人、いや、五人いる。
音を聞くだけで飛鳥にはわかる。真聴覚がこんな所で役に立つとは。
「メイヴァース、動いて」
飛鳥はこの状態を勝手にバランス化と名付けていた。
バランス化により、ヘッドホンを外しても苦しむことはない。
聞きたい音だけを拾うことができるようになる。
渡辺の姿は肉眼では確認できない。
しかし、声は聞こえる。
「ここならいいでしょ。さっさとすませて下さいよ」
誰かをせかす渡辺。
「まったく、子供の喧嘩に大人を巻き込むなよ……」
苛立つ男の声が耳に入ってくる。
「もうそんな段階じゃないんすよ!」
悲鳴を上げる渡辺。
声だけでも動揺しているとわかる。
「あいつは金だけは持ってる。きっと戦える奴を雇ったに違いないんだ。ここで殺らなきゃ、俺たちが殺られちまう……!」
「俺たちじゃねえ。お前だろ」
「冗談はやめてくれ。あれを欲しがったのはあんたらのボスだろ!? 最後まで責任とれよっ!」
「あー、めんどくせえ。お前ら、散らばってあいつを囲め、見つかるなよ」
おう、と、三人の男が元気よく返事をした。
「……」
渡辺の黒い噂は飛鳥も耳にしたことがある。
反社会的勢力と深い繋がりがあるというものだが、どうやらその噂は本当だったようだ。
「悪く思うなよ、坊や」
男が飛鳥に狙いを定めたらしい。
彼は人を殺すことに何のためらいも感じないようだ。
見えない位置から飛鳥を狙撃するつもりらしいから、敵は
個人の能力に関係なく一定のダメージを与えることができるものだ。
「外すなよ……」
渡辺の声は震えている。まるで神頼みをするかのように真剣だ。
「外すわけねえだろ。こっちはプロだぜ……」
そして男は魔法の詠唱をはじめた。
わかる。男が何を呟いているのか。
貫く。ひとすじ、咆哮、空をつかむ。
なにがしたいのかわかった。
「風属性か」
それなら飛鳥のすることは一つ。
「バリア、風」
久野ちゃんがくれたジャンクスキルの一つ、パーフェクトカウンター式バリア。略してパーバリ。
敵が繰り出した攻撃と同じ属性のバリアであれば完璧に跳ね返すだけでなく、倍のダメージを喰らわせる。
違う属性の攻撃が当たってしまうとバリアが爆発してしまう副作用があるが、飛鳥は男の詠唱を完全に聴き取っている。
「風の粒、集まれ、石となり、強く進め」
男の合図とともに繰り出された風の石が超高速で飛鳥に迫る。
今はまだ小石にしか見えないが、飛鳥に命中した時点で人を切り刻む風となって彼を八つ裂きにするだろう。
しかし石は飛鳥に届くことはない。彼が作り出したバリアによって石は方向を変え、魔法を使用した男の元へ帰って行く。
「なっ?!」
突然の現象に男は声を上げるが、慣れているという言葉通り、すぐさま
石から生み出された八つの風刃が容赦なく男の
とうとう負荷に耐えられなくなった
「な、なんだっ?!」
そばで一部始終を見ていた渡辺の情けない絶叫がこだまする。
ああまで大きな声で叫んでくれると、声だけで渡辺の居場所が把握できる。
飛鳥はもう一つのスキル、マグネットを発動した。
風の石を使ったことで倍返しを喰らった男の
飛鳥の手に一直線に飛び込んできたのは茶色い格子柄の長い傘だ。
一見すればただの傘だが、れっきとした
思い切りゼロスタンを浴びせてみると、黒煙を上げてショートした。
飛鳥は勢いよく立ち上がり、破壊した武器を渡辺がいる方向に思い切り投げた。
「
渡辺は恐れたに違いない。日頃からサンドバックのように扱っていた無能王子がなんでこんなに変わったのか。
「あんたら何ぼーっと見てんだよ! 早く殺れって!」
残った三人の男をせかす渡辺。
ここからだ。
飛鳥は気を引き締めると同時に気合いを入れた。
「殺すなら早く来いよ! 僕はここにいる!」
運命を変えるときだ。
もうやられっぱなしの自分じゃない。
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