第8話 きっかけのジャンクスキル
飛鳥は久野ちゃんが差し出した黒い
見た瞬間に身体の中を電撃が走った。
懐中時計という珍しいデザイン。その肌触り。
全てが良い。
それを貸すと言われたのだから、
「こんな立派なもの受け取るわけには……」
と、口では遠慮するが、ニヤニヤは止められない。
動揺する飛鳥の姿に久野ちゃんはしてやったりの笑みを浮かべる。
そして追い打ちをかけるように、俺って凄いだろトークを繰り出してきた。
「第七世代の一番の特徴はスタンバイモードの追加だよね。今はスイッチ入れたらバッテリー切れまで動きっぱなしだけど、途中でオンオフができるようになれば、15分以上の稼働が見込める。凄いでしょ」
「凄いです……」
となるとベルエヴァーでも同じことができたということか。
もっとちゃんと調べておけば良かった。
「あとはオプションスキルを五個ストック出来るようにしたから、上手く使えばコンボ決めれる動きができて気持ちいいよ。凄いでしょ」
「凄いです……」
とはいうものの、ストックって何かわかってない。
「で、こいつは俺の趣味全開で作ったから、パワーは並で、スピード全振りの、シールドが1しかないから、一発食らったらぶっ壊れちゃうよ。凄いでしょ」
「凄いです……って、いち?!」
「まあ、当たらなきゃ良いだけだよ。凄いでしょ」
「凄くはないですけど……、ほんとに借りて良いんですか?」
うんうんと久野ちゃんは頷く。
そのたびに巨大アフロがゆらゆら揺れる。
「とりあえず何でもやって試してみなよ。使ってる内にああしたいだのこうしたいだの出てくるからさ、それを俺に教えてくれれば、この宝の山から君にふさわしいレガをチョイスしてあげようじゃないの」
「なるほど……」
飛鳥はワクワクしながらメイヴァースを手に取った。
いい。
やっぱりいい。
これが欲しい。
貸すんじゃなくてくれ!
と、叫びたい気持ちを抑えるのに必死だった。
「そうそう。今のご時世、オプションスキルもセットしないとダメだからね。武器や防具は装備しないと意味がないのと一緒」
久野ちゃんはまた奥に入って、今度は有名な百貨店の紙袋を持ってきた。
中にはオプションスキルギアが五個。
「使い物にならないジャンクギアだからタダであげるよ。メイヴァースにセットして使ってみな。まあ、ろくなものないけど」
例えばこれなんかさあ、と、すべらない話をする勢いで一枚のギアを取り出す。
「ゼロ式スタンショット。略してゼロスタン。当たると相手にレベル10までのライトニングスタン攻撃ができる。おまけに15分以上マヒさせるから
「……」
これって、ただの在庫処分なんじゃ……。
「で、これも面白いんだ。センスブレイカーってやつ」
銀色の小さなメダルを飛鳥に見せつける。
「視覚とか、嗅覚とか、五感の一つを狂わせて相手を混乱させるやつなんだけど、回路が狂ってて自分にかかっちゃうんだよ。意味がねえ! はははは!」
「ははは……」
笑うしかない。
「とまあ、とても店には出せないなって奴を入れといたから。好きに使って良いよ」
やっぱり在庫処理じゃん、とは思ったけど、まさか
おまけにオプションスキルまで頂いた。使い道はなさそうだけど……。
勇気を出して店に入って良かった。
「ありがとうございました。また来ます」
深々と頭を下げて家路につく。
久野ちゃんは店の外に出て、
「じゃーねー」
と、手とアフロヘアーを振りながら、長いこと見送ってくれた。
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